10ー6 誓いと約束
負傷したのは蒼だけではない。
それを見破ったのは他でもない凪さんだった。
凪さんは私の左腕を掴むと、袖をめくった。私の白い肌は紫色に広がり、腫れてはいないが流線が浮き出る。
「ルーナさんそれは!」
「ちょっとかすっただけでこれか……相当強力な毒なんだね」
私は呑気に話していた。
「痛くないのか?」
「はい。痛みはないですよ。蝕まれている感覚も。ただ少し感覚がなくて麻痺してる感じです」
私は腕を見せた。
外側からは普通でも実際問題腕の感覚がないのは確かだ。しかし蝕まれている感じも、痛みもまるでない。もしかしたら私の中にある吸血鬼性が闘っているのかも知らない。
だがしかし腕がまともに動かないのは周知の事実。自分でも不甲斐ない。おまけに……
「おまけに、今私は魔力が不安定みたいです。だから吸血鬼性が失われている状態。つまりは普通の人間と同じ感じです」
「普通の人間?さっきも思ったけどさ、何なんだよあの魔力量」
「気付いてなかったんですか?」
私はキョトンとしてしまう。
自分が如何いったものなのかを丁寧に説明すると感心と同時に、どやされた。
「吸血鬼ね。まあいいよ。でも、自分の体を犠牲にするとかないだろ。絶対にするなよ」
「はぁ?」
「わかってないな。とにかく、今のルーナは魔力はさっきの治癒で半分近くを失って残りの半分は吸血鬼性が全力で毒の排除をしてるから使えないと」
「はい。今の私は少し身体能力の高い人程度ですね。魔力も……」
私はライトソードを出そうとするが、途中で壊れた。
何とか組み上げても普段の半分近く。これじゃあ担当だ。
まさかとは思っていたがここ五十年。そして戦ってきた二年を踏まえてようやく気がついた。普段からあまり苦戦を強いられる場面が少ないせいで、魔力が切れると残りは私の体の防衛に回ってしまうこと。それから強力な毒素や麻痺に関しては魔術の行使では如何にもならず、薬に頼るか私の場合自然治癒に頼るかしかないことを。疎ましく思った。こんな場面だからこその吸血鬼性なのに、魔法使いとしての力も発現しないなんて悔しすぎる。
無力だ。
私は妖語をギュッと抱き寄せる。今私が出来るのは妖刀で戦うことぐらいだった。
だがそれで諦めるほど、私は諦めがいい方ではない。
「銀。蒼のそばにいてあげて」
「それは構いませんが、ルーナさんは何処に」
「私はあいつを倒しに行く」
蒼の側から立ち上がり、私は後のことを銀に任せる。
そんな当の本人の銀は私が「行く」と答えると動かない左腕を掴んだ。
「銀?」
「駄目です、ルーナさん」
銀は私の腕を掴んだ離さない。
「離してよ銀」
「駄目ですよルーナさん。あいつって土蜘蛛ですよね?無理です。今のルーナさんは魔術も魔法も使えない。不死生だった極めて危うい状態です。まともに動かない状態で、勝てる相手ですか?」
「でもシールドは効いたよ」
「シールドは魔力の消費が激しいはずです」
確かにシールドの魔法や魔術は魔力の消費が非常にシビアだ。
今の私の魔力では局所的に守ったとしても一撃で破壊されかねない。
それを悟ったのか、銀は首を縦に振らない。
「大丈夫。魔法は使えなくても、二、三日もすれば完治するし、それに普段から私はシールドを使ったなかったでしょ?あれは単に私が渋ってたわけじゃなくて単純にコストがかかるから」
「ますます駄目です」
「でも体は動くよ。身体能力には何の差し支えもないし、右手だけ動けば妖語も使えるから」
「ですが……ならば私も同行します」
「そうしたら誰が蒼を見るの?蒼の治療は済ませたけど、土蜘蛛を倒さないと完全に
「ですが……ルーナさんは私を必要だと言ってくださいました。居場所を与えてくださいました。ですがルーナさんが居なくなったら私はまた一人きり……」
「銀……」
銀の意図も汲み取れない。
それ程までにこの状況は不味かった。私の張った防御結界も今の少ない魔力でやっとだ。防御はできないし、このままにしていたら私はともかく蒼が帰るまで保たない。だったらここで決めるしかないのだ。
「大丈夫、安心して銀」
「ルーナさん」
私は笑ってみせた。
根拠はない。が、負ける気もしない。してはいけない。
「銀を絶対に一人にしないから。フラグじゃないよ。私を誰だと思っているの?」
私は普段は言わない決め台詞を発する。
不名誉な呼び名。そう思うこともあるが、今の私は負けられない。帰る場所が有るのだから。
「私はルーナ・アレキサンドライト。最強の吸血鬼と魔法使いの一人娘。またの名を、
堂々と発する私。
それを聞いた銀はゆっくりと力を抜いて私の腕を離した。そして一言。
「絶対に戻ってきてくださいね。もし死んだら、恨みます」
「神狼に恨まれるのはごめんだなー」
呑気な返答。
私は後のことを銀に任せて、凪さんと共に決戦へと出向く。
土蜘蛛を葬るためにーー
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