10ー2 助っ人

 龍宮さんにうまい具合に仕事を任された蒼。それに同行することとなったのはもちろん私。それから銀で、今現在目的地隣町に来ていた。

 ここが仕事の現場であり、それから龍宮さん曰く強力な助っ人が待っているらしい。


 ここは神奈市の隣の市にあたる、駿葉市である。

 神奈市が繁華街の『北神奈町』と私達の住まう落ち着いた面持ちの『南神奈町』に分かれているが、ここ駿葉市も同じようで、今回は電車で三つ四つ行ったところにある駅、『枝水瀬』と言う場所だ。


 この場所は山々に囲まれた場所のようで、街と言うよりは町と言った方がいい程に小さい。

 野生動物が平気で出て来そうな場所だ。

 こんな場所だからこそ、妖怪やら何やらが集まりやすいのだ。


 電車に揺れて辿り着いたそこは見た限り変な感じはしなかった。

 空気も良い上に、気配も悪くない。

 そんな場所で待ち合わせをしている人物を待つ。


 「それで蒼、どんな人が助っ人に来てくれるか龍宮さんに訊いてきた?」

 「うん!」


 私は昨日帰り際の蒼にどんな人物が助っ人で、何が相手なのかを龍宮さんに今一度訊いておいてもらった。

 蒼は蒼でそのことに負い目を感じていたのか、如何やら本当に聞きに行ったらしい。

 私は悪いことをしたなと思いながら、龍宮さんから蒼に伝えられた言葉を聞き受ける。


 「えっとね、相手は現場に行けばわかるからって教えてもらえなかったんだ。皐月さんも帰ってなかったからまともに話もできなかったんだ。ごめんね」

 「皐月さんって一体どれだけ言える人なんだろう……」

 「少なくとも龍宮さんには甘くもあるし辛くもあるって感じだよ!」


 朱鷺時雨家の家庭事情は知らないが、妹に叱られる姉とは一体……

 と、一人っ子の私には永遠に理解し得ないであろうことに馳せていると、銀が言葉を挟む。


 「ルーナさん、蒼さん。とりあえず移動しませんか?この場にいてもおそらく来ないと思いますので」

 「如何して?」

 「臭いも気配もしないからです」

 「それは同感だよ。じゃあ蒼、とりあえず移動しようか。少なくとも町まで」

 「うん」


 私は蒼と銀を連れて駅を後にした。



 町の様子は見るからに普通だった。

 何事もなく騒ぎもない。ここは『神奈市』ではないので、流石にあの街程寛容的ではないにしろ、この町は随分と穏やかだった。


 「何だか、静かだね」

 「うん。ちょっとした町って感じだね」


 悲嘆的でも差別的でもない。

 これぐらい閑散としている村や町は日本中、いや世界中多い。

 より発展しているか否かの問いかけではない。これが普通なのだ。


 しかし寂れているわけではないのに、店の数に比べて人気は少ない。

 ただ、この辺りからはまるで怪しい気配を感じない。

 それはより不気味さを引き立てるスパイスだ。


 「ルーナちゃん、如何?」

 「如何っても言われても。少なくとも強い妖怪の気配はないよ、銀もだよね?」

 「はい。今は人の姿ですので、多少精度は落ちますが私にも感じられません」

 「だよね。それで蒼、助っ人ってどんな人?姿の特徴とか聞いてない?」

 「えっとねー」


 私は歩きながら後ろを付いて歩く蒼に訊ねる。

 すると蒼は思い出すように指を口元に当てて絞り出す。


 「確か女の人で、背が高いんだって。髪は赤茶色でー」

 「おっちゃん、この団子うまいな」


 蒼の声を遮るように唐突に耳元に届いたのは元気と言うより、威勢がいい声だった。


 「いやー、そんな風に旨そうに食べてくれるのがありがたいよ」

 「ふぅん、そっか。なあ、何でこの店は人が今少ないんだ?」

 「それがわかんないだ。ところで、嬢ちゃんは何でこんななーんにもない町に来たんだい?」

 「ん?まあ、ちょっと仕事でな」

 

 そんな風にナチュラルに話す声が届く。

 その声を聞いて蒼が「楽しそうだね」と呟いたので、「うん」と頷いた。


 「あっそうだ!この辺りで見かけなかったか?私とおんなじぐらいの歳の女子?」

 「さあね、見てないよー」

 「そっかー。じゃああたしも探しにって……ん?」


 何だか視線を感じた。

 如何やら私達の姿を直視する視線がすぐ近く、そう真横からした。

 私は何となく嫌な予感がしつつその場を後にしようとしたが、私達が離れようとした瞬間急にけたたましい声がした。


 「あっ、ちょっと待てよ。ああ、おっちゃんコレ代金。お釣りはいいから、おい待てって、よっと!」


 ササっと素早く動き、まるで宙を蹴るようにして私達の前に立った。

 その女性は赤茶色。いや、むしろ赤い。

 赤い髪をポニーテールにしており、背も私より高い。年齢は龍宮さんと同じくらいだろうか。キリッとした顔立ちをしており、目は大きい。

 そして中でも目を引くのは肩にかけた大きな筒だった。


 「あの、貴女は?」

 「ん?ああ、そうだな。まずは自己紹介か。悪いな」

 「ああいえ。私はルーナ・アレキサンドライトです。それでこっちは」

 「大和蒼です」

 「銀河です」


 銀は静かに答えた。

 私も感じていた。この人は只者ではないと。


 「ルーナに蒼、さらに銀河か。よし、覚えた。あたしは夕陽凪ゆうひなぎ。実はあたし、こう見えて鬼だから。よろしく!」

 「「「はい?」」」


 そんなとても怪しい発言をする女性であった。


 


 

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