9ー4 妖怪花
嫌な予感は的中した。
妖怪花が開花した。
「ど、どうなってるのるーなちゃん?!」
「多分昨日の肥料に問題があったんだと思うよ」
「そんな!私の作ったのに間違いなんてないよ!」
「効きすぎたんだ!とにかく、二人は下がってて。行くよ、蒼!」
「う、うん」
蒼もすぐさま変身する。
妖怪花。強さ的にはさほどでもないが、こんな人の家の庭に突然現れられたらまずい。
普通なら大事件だ。
動く花。それは人から栄養を奪い取る。元気がなくなったのは、そのせいだ。
「炎を使って焼き払うしか」
「えっ!駄目だよ。預かり物だって言っただろ!」
「でも朱音ちゃん。流石にこの状況じゃ!」
「でも……」
「わかった。何とかしてみるよ」
私は朱音にそう発言する。
これは希望的観測ではない。このくらいのことできなくてどうするか。
私は両手にいつも通り二つの剣を握り込む。
白い光の《ライトソード》と黒い闇の《ダークソード》。いつも通り手に馴染む。
「蒼、私が切りに行くから援護して」
「援護って、何したらいいの?」
「妖怪花は溶解液を吐いたりするから、それを防いで欲しい」
「わ、わかったよ」
蒼はゆっくりと頷く。
私は流し目で確認すると、駆け出した。
妖怪花は自由になりつつある体を着実に利用して、長い蔦を放つ。
体を捻るようにしてそれを受け流した私は、伸びきった蔦が戻ってくるのを利用してライトソードを突き刺した。
伸ばしきったままでは満足に動けないところを見て、まだ力を出し切れていないのだ。おそらく、栄養が足り切れていない。だったら速攻で仕留める。
「蒼!」
「何、ルーナちゃん」
蒼は水の魔法をステッキに集めて《ウォーターソード》を作り出して迎撃していた。
少しは慣れてきているのか、体の動きがいい。
私は自分の心配もほどほどに、彼女に投げかける。
「今から紫陽花から妖怪花の種子を抜き取るから。二秒でいい。蔦と頭の動きを封じて!」
「えっ?!」
「いい。合図したら頼むよ」
「う、うん。やってみる!」
私はそう助力を求めた。
花弁の中心はまるでマ○オシリーズに出てくるあの花に似ているが、可愛らしくもない。
私はそこに思い切り魔法を畳み掛ける。
「《ライトバレット》!」
光の弾丸。
それを右手から思い切り打ち込み目眩しにする。
それに怯んだのか、ギュルリリリと耳障りな悲鳴を残す。
それを皮切りに、私は叫ぶ。
「今!」
「《アクア・スパイラル》!」
蒼は両手を突き出して魔法を唱えた。
すると激流が襲いかかり、まるで生き物のようになった水が妖怪花の体を拘束する。
蔦を固定し、葉を閉じさせ花弁の動きを封じる。それは幾本かの水が束ねられた自然の拘束具だった。
地面から射出され固定された妖怪花は動きを完全に封じられ、何とか身をよじって拘束を解こうと必死だ。
「る、ルーナちゃん。早く……」
「上出来だよ、蒼。安らかに眠れ」
私は頭の花弁を蹴って空中に身を出すと翼を展開。
そして一気に空を蹴って妖怪花の懐に潜り込む。
衝撃波が体を包む。突風を生み、空間を揺らす。そんな勢いを持った肉体の弾丸は二対の剣を横振りに薙ぎ払い妖怪花を真っ二つ。いや、種子のみを取り出し破壊した。
ギュルリリリリリリーー!
断末魔が響き渡る。
澄んだ空気を溶かしては、苛立ちを生む叫びが上がったのだ。
それは私が抜き取った種子。つまりは奴の本体を潰したことを意味した。
「た、倒したのかな?」
「うん。これで大丈夫。朱音!」
「お、終わったのかよ。あっ!」
朱音は紫陽花に駆け寄る。
植木鉢は粉々に破壊されているが、紫陽花自体は無事のようで綺麗に咲き誇っていた。
きっと本当の意味で昨日の薬が効いたのだ。
「ごめん。植木鉢は直せなくて」
「いいよいいよ。それより、これでもう大丈夫なんだよな?」
「うん。そこは安心して欲しい。もう私が触っても……ほら」
私は紫陽花に手をかざす。
しかし今度は何事もなく、普通に花弁に手が触れた。
これは陰の気を持っていない証拠だ。
「後はこれをその子に渡してあげて」
「ああ、わかった」
「うん」
私は自然に笑う。
笑みを浮かべては、私は荒らされた庭の様子を見た。
(これは片付けが必要かも……)
そう思いつつも、心から感謝されて嬉しく思っていたのだった。
ちなみにお礼はラーメンでした。
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