第9話 紫陽花には気をつけて
9ー1 不思議な苗
六月後半。
二十三日。私と蒼それから黄色は朱音に頼まれごとをされた。
「それで如何したの、朱音ちゃん」
蒼は訊ねる。
すると朱音は手をパチンと合わせて懇願してきた。
「お願い。皆の力を貸して」
その一言には何か強い力を感じた。
しかしまずは何があったのかを聞こう。
「その前に朱音。まずは何があったのかを話してよ」
「あ、ごめんごめん。私ったら、まだないよう話してなかったっけ」
「うん。それで何があったの朱音ちゃん?」
黄色が今一度聞き返す。
すると困ったような顔をして顔を曇らせる。
「実はその……近所の子に相談されちゃって」
「近所の子?」
私は口にした。
朱音自身の問題ではないのだ。
「うん。なんでもね、おばあちゃんが元気ないんだって」
「はぁ」
「なんでもプレゼントしたお花があるんだけど、なかなか咲いてくれないらしいんだ」
「花?」
「うん。それでねどうしたらいいのかって聞かれたんだけど、私さすがに花には詳しくないしその子もねかなり調べたみたいなんだけど、全然で」
「そっか……」
「それからかなおばあちゃんがね、最近元気がないみたいで」
「つまりは私達は何をすればいいのかな?」
「つまりね、何とかしてその花を咲かせてお婆ちゃんを元気づけてあげたいんだって」
と、朱音は説明する。
本当に朱音はよく人に頼まれる。頼みやすいタイプなのか、その並外れた体力とスタミナには目を見張る。魔法少女並みだ。
しかしだ。
流石に私達には如何にもならない。
「悪いけど、流石に無理かな」
「えっ!」
「うーん、私にも無理かも。ごめんね」
「そんなー」
「でもルーナちゃん。さっき無理って言ってたけど、なんで?」
蒼が訊ねる。
いち早く無理と答えた私だ。いったいなぜ話を振るんだろうか。
「ほら、魔法で何とか」
「それじゃあ意味がないだろ。まあ確かに、植物の成長を促す 《グロウ》の魔法なら使えるけど」
「使えるんだ!」
「でもそんなずるをして育てて貰ったほうが喜ぶかな?」
「ああ……」
机を乗り出してきた朱音の希望を断つ。
本当はこんなまねしたくはないが、流石に駄目だと思う。
魔法植物の培養には使うけど、これは気持ちがこもっていない。もしこもっていたとしてもそれを踏みにじって、台無しにしてしまいかねない。
流石に今回は倫理観が邪魔をする。
「はぁ、じゃあ如何しよう」
悩む朱音。
私は如何しようもない罪悪感。それから伝染する無力感を抱いた。ただ一人を除いて——
「よーし、じゃあ私の出番だね!」
「黄色!」
黄色がかけていた眼鏡をクイッと持ち上げる。
そして不敵に笑みを浮かべながら話す。
「私が作った自信作の植物成長調整薬を使ってみない?」
「えっ?!そんなのあるの!」
「うん。この間作ったばっかりなんだー!」
何ともグッドタイミング。
しかし私は聞き逃さなかった。ぶつぶつと黄色が唱えていることを。それを聞いて悟ったのも同じ。
(ああこれ、実験済みじゃないんだな……)
嫌な予感だだ漏れの中、明日三人揃って朱音の家に行くこととなった。
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