第7話 山登りって大変ですね

7ー1 発仕事です

 「と言うわけで、今週末御岳山に行きますよ」


 皐月さんから提案されたのはそんな突拍子もない言葉だった。

 私達は顔を見合わせる。

 そう今ここには私と蒼、それから皐月さんの計三人。


 私達は学校にある一室。

 それもそのはず生徒会室を陣取っているのだ。

 

 (それにしてもよくこんな部屋借りられたんだ。ましてや生徒会室なんて)


 私はそう思った。

 すると蒼が先輩に訊ねた。


 「でも皐月さん。何で生徒会室に集めたんですか?」

 「ここなら基本的に誰も来ないから」

 「よく借りられたね」

 「私の親友が生徒会の中でもかなり顔の聞く子なので大丈夫です」

 「なるほどー」


 蒼が聞いてくれた。

 人の心境にズカズカと入っていく様は怖れ知らずのラーテルのようだ。


 「あの、それで何で集められたんですか私達」

 「順を追って説明しましょうか」


 皐月さんは淡々と話し出す。


 「ことの発端は今から二週間ほど前です」

 「二週間前って言うとゴールデンウィークの時だよね?」

 「はい」


 ゴールデンウィーク。

 あの時は蒼に連れ回された結果旧鼠と戦う羽目になったんだったな。


 「それでゴールデンウィーク中に何かあったんですか?」

 「ええ。皆さんは御岳山をご存知ですか?」

 「名前だけなら」

 「私も」


 御岳山。

 それは東京都に存在するれっきとした山だ。

 標高は九百二十六メートル

 古くからの山岳信仰を受けているそうで、神社まで建てられているそうだ。まあ詳しくは自分で調べてほしい(作者は知らないと言うことを私の口から代弁しておこう)。


 「それでそのなんとか山と私達に如何関係が」

 「そうだよね、確かレジャーとかで有名なのは知ってるけど、比較的登りやすいって聞くよ」

 「別に私達は山を登ろうと言うわけではありません。あくまで今回の事件発生場所がそこだからと言うだけの話です」

 「事件ですか?」


 私は顔を歪めた。

 警察沙汰にならなければいいが。


 「それで事件って何なの?」

 「はい。“人が消える現象が起きている”という事です」

 「うふぇ!」


 大事おおごとだった。

 しかもかなりやばい案件だった。


 「人が消えるって、でもそんなニュース聞いてないけど?」

 「厳密にはではなく消失しているんですよ」

 「精神?」


 首を傾げて考える蒼。

 確かに不思議だ。

 “人が消えている”のと“人の精神が消失”するのでは相手が違いすぎる。


 「私も詳しくはわかりませんが、報告によれば如何やらレジャーに来ていた何人かの人に異常が起きているそうです」

 「異常?」

 「魂が抜けてしまったのかと思えるほどに無気力で前までの活気がなくなってしまったそうです」

 「それって関係ありますか?」

 「やる気が失せてしまうだけならわかりますが、それが丁度ゴールデンウィーク中。その上妖気を帯びていたそうです」

 「妖気……土蜘蛛か何かですかね」

 「土蜘蛛って?」

 「古くから人々を苦しめてきた妖怪だよ。人間を食べるんだ」

 「えっ?!」


 私は率直に答える。

 しかしだとしたらこんなことはあり得ない。

 土蜘蛛はその特性上、敵を捕獲して供物にする妖怪だ。

 精神だけを抜き取って、別人のようにしてしまう力ではない。

 精神だけで記憶や意識が残っていると仮定すると、ある程度は絞られる。


 「何故御岳山なのかな?」

 「あの辺り一帯の地域は山々や森に囲まれています。それ故に発見がしづらく、縄張りにも好都合」

 「でも二週間前からなんでしょ?」

 「多分降りてきたんだ。移動する妖怪……」


 私は考える。

 伝承はもうあてにはならない。

 そう考えると絞ろうとしていたにも関わらず、どんどんと答えから遠くなる。


 「と言うわけで事件究明のために向かいます。いいですね」

 「いいですけど、何故私達が」

 「暇だからかな?」

 「暇じゃないよ。学生だからね」


 私はそう答える。

 すると皐月さんはこう言った。


 「いえ暇だからですよ」

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