7ー2 御岳山
そんなわけで御岳山にやって来たのですが、この日は休日と言うだけあってまあそれなりに人がいた。
電車に揺られて辿り着き、そこに広がるのはそんな景色だった。
「人多いねー」
「うん。観光地だからね」
私は短く答える。
説明は省くがこの御岳山と言う場所は観光地として有名だ。
元旦の日には参拝客が、休日にはハイキングやカヌーに興じる人も大勢いるそうだ。来たことないが。
「それでとりあえずどうしますか?」
私は皐月さんに訊ねた。
皐月さんは山登りを想定したと思われるレジャーな格好だ。
対して蒼はよりカジュアル。
私に至ってはどっちつかずだ。山を想定してはいたが、あまり重装備はしていない。理由は単純。観光地だからだ。
しかし万が一には備え、今回は《妖語》を持って来ている。
肩からかけた竹刀袋の中に納めてある。
「皐月さんかなり重装備ですね」
「そうですか?これは姉さんが……」
回送中。
「それでは行ってきます姉さん」
「ん?何処に」
「何処って姉さんが行けって言ったんじゃない」
「行けって何処に?」
「御岳山です。姉さんが用事で行けないからって、私達に任せたんじゃないですか」
「御岳山……ああ、そう言えば言ったっけ!」
姉さんは思い出したように叫んだ。
すると私の格好を見てぷくっーと頬を膨らませる。
「ちょっと皐月!」
「はい」
「そんな格好で山に行っちゃダメでしょ!」
「えっ?」
私の格好は比較的カジュアルに。
それこそハイキングに行くような格好だったが、それが如何しても気に入らない姉さん。
「ちょっと待ってなさい!」
「えっ?」
姉さんは何処かに行ってしまった。
そして戻ってきた姉さんは私にこれを着ろと言った。
凄まじく迷彩柄。
分厚い上下を見て私は一度断る。
しかし姉さんはそれを無理やり私に着せた。
「ってことです」
「着せ替え人形」
「それは言ってはダメです。私は自分の意思でこれを着ている。そう思っていないと、周りの目が憚られますか」
と周りの視線を気にし始める。
ガチガチの重装備。
そんな人がこんなところにいたら流石に本気だと思われて当然だ。
皐月さんは私達を連れてこの場を後にした。
◇◇◇
「それで何処を探すんですか」
「とりあえずあてもないので登ってみましょうか」
「えっ?結局登るんですか」
「上からの方が全体を把握できます」
「それなら飛んで確認した方が早いんじゃないの?」
「こんな人気の多いところで飛んだら流石に驚かれるだろ」
「あっ、そっか」
蒼の発言を即座に食い止め、私達は御岳山を登ることにした。
舗装されて歩きやすい道。
川のせせらぎや樹々の声を聞き進んでいく。
「自然って感じだね」
「まあ山だからね」
岩で出来た天然の階段や道を渡り、樹海の中を進む。
確かにここの自然は良い。
神秘的で、他の観光客と距離を取っているので水の流れや霊力が体に伝わってくるようだ。
「わあー、すごい良い景色!」
あれからしばらく歩みを進め、開けた場所に出た。
確かにそこに広がる景色は素敵なものだ。蒼が納得するのもわかる。
「紅葉の季節だったらもっと綺麗だったかもね」
「また来たいなー」
蒼はそんな風に口走る。
その間、皐月さんは一人周囲を見回す。
そして私達に声をかけた。
「二人とも何か感じましたか」
「感じだって何を?」
「ここに至るまでの間、不審な動きはありましたかと聞いたんです」
皐月さんは直球を投げかける。
私は考えた。ここに至るまでの間、爽やかな気持ちになれた。しかし不思議と悪い力の流れを感じることはなかった。
それを言おうとした瞬間、蒼が先に口に出す。
「えっと、その……」
「何ですか」
「観光に夢中で考えてませんでした」
「蒼……」
私は引いていた。
まさかここに来た目的を忘れていたなんて。
「で、でもねこの子なら何か気付いてるかも」
と、蒼は右手の掌を前に出して私達に見せる。
すると突然蒼の掌に水が集まりボールのようになる。
大きさとしては野球の硬球ほど。
凝視していた私達は弾けた水の球から現れたものに驚いた。
そこにいたのは紛れもなく、金魚だった。
「金魚?」
「ただの金魚じゃないよ。この子は私の契約している使い魔のエルキィ」
「プクプク」
何かを喋っているようだがわからない。
しかし蒼には何を言っているのか理解できているのか、「うんうん」と頷いている。
「なんて?」
「初めましてって」
「あ、ああ。こちらこそよろしく、エルキィ」
「プクプク」
またしてもわからない言葉だ。
動物と話す魔法はあっただろうか。
私は記憶を辿るがその前に蒼は本題を聞いていた。
「それでねエルキィ。この近くに怪しい場所ってあるかな?」
「プクプク」
蒼はエルキィと言う金魚に訊ねた。
するとエルキィは蒼に語りかける。
かなり長い話になるかと思ったが、蒼から返ってきた翻訳文は非常に短く簡潔だった。
「今度はなんて」
「あの森の奥だって」
と指をさして言った。
「あの森か。確かに妖怪が好みそうな場所に見える」
「そうですね。ではその数少ない手がかりを頼りに行ってみましょうか」
皐月さんの一声で私達はルートを外れ、森の中を探索することにした。
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