6ー2 朱鷺時雨皐月

 「えっと誰ですか?」


 私の第一声はそんな突拍子もないものだった。

 それを聞いた彼女は口元に手を当て考える。

 目を細めて考える彼女は真剣だった。

 そんなぽつぽつとした時間を壊したのは蒼だった。


 「皐月さん。こんにちは」

 「ええ。こんにちは大和さん」

 「じゃあこの人が」


 私は凝視した。

 先には背が高いと称したが、背丈のほどは私よりも少し高いほどである。

 しかし細身であるにもかかわらず服の上からでも伝わる筋肉のい付き方とそれに見合う以上の力強い霊力を感じた。


 魔力とも妖力とも違う。

 魔法や魔術、妖気といった力とは違う力。

 神力には遠く及ばない陰の力の集合体ではあるがそれらを洗練された肉体と精神力でコントロールしている。

 霊力は魔力に極めて近い精神力と生命力の塊であり、生まれつき持つ先天性のものがほとんどだ。

 その力はかつて出会った神刀使いの清佳とは比べ物にならない力を誇っていた。

 しかしその力にの漏れないようにと鍛錬を積んでいる証だろう。


 「どうかしましたか。私の顔に何か付いているのでしょうか?」

 「いえ、鍛えているなと思ったので」

 「一応、毎日鍛錬に励んでいますので」


 淡々とした口調。

 丁寧な物言いだが、その一言一言には凄まじいまでの気迫を持つ。


 「ところで皐月さん。私たちに何かようですか?」

 「いえ用というわけではないのですけど、無事かどうか確認しに来たまでですので」

 「無事?」

 「旧鼠組の九郎と言う妖はかなり腕が立つと噂では聞いています。そんな相手に果たして無事で済んだのかと思いまして」

 「心配してくれてたんだ。ありがとうございます」

 「いえ」


 蒼がそう答えると、返ってきた応えは淡白だった。


 「それにあの手紙は姉さんが書いて欲しいと頼んだから書いたまでです」

 「えっ?!龍宮さんが」

 「はい。姉さんは大学の課題に手を焼いていて仕方なく私が書いた物です」

 「そうだったんですか……やっぱり龍宮さんって凄いなー!」


 感銘する蒼。

 しかし私には何故私達が旧鼠組と関わろうとしていたのかわからなかったし、助けてもらえたのかもわからない。

 そもそも何故私のことを知っていたんだ。


 「朱鷺時雨先輩でしたっけ?」

 「ええ。貴女はアレキサンドライトさんですね」

 「はい。質問ですが、何故私達を助けてくれたんですか?それにその朱鷺時雨龍宮さんは何でそのことを知っていたんですか」

 「後者の質問に答える意味はありません。しかし前者の問いには答えられます。別に助けたつもりはありません……が、貴女の話は姉さんから多少耳にしていました。凄まじい力を持った亜人がいると。だから興味があったんです。ただそれだけ」

 「そうですか」


 私は腑に落ちなかったが、仕方ないと納得した。

 すると先輩は私に向かってこう切り出した。


 「正直私がここに来た理由は別に貴女方の身を心配したわけではありません。ルーナ・アレキサンドライトさん。私と勝負してくれませんか」

 「はい?」


 私は首を傾げた。

 突然「勝負してくれ」と言う謎発言に動転したのだ。


 「あの勝負って」

 「もちろん命を賭けた勝負ではありません。ですが、言ったでしょう私は貴女に興味がある。新参者のくせにこの町に足を踏み入れた。そして姉さんが口にするぐらい強い存在。聞いたところでは剣を使うとか。私も一剣士として一度手合わせをしていただきたいと思ったのです」

 「断ったら」

 「別に構いません。ですがその場合、貴女を私は敵とみなします。確かにこの町は安全です。この街と同等の安全性を誇る町は何ヶ所かありますが、それでも無用な争いを招く種は排除しておきたいのですよ」

 「なるほど。一方的に私を陥れると言うわけですね。断れない状況。いいですよ、その勝負受けて立ちます」

 「そうですか。ありがとうございます」


 私は仕方なく引き受ける。

 しかし私も条件を出す。


 「私が勝ったら、この国での活動を認めて欲しい」

 「わかりました。巫女協会が何とかしましょう」

 「それから」

 「はい」

 「私のことはルーナと呼んでください。私も皐月さんと呼ばせてもらいます。お互いせいが長いので」


 そう提案する。

 すると先輩は快く承諾した。


 「いいでしょう。では三十分後、武道場に来てください。そこで貴女と一対一の試合をしましょう」

 「わかりました」


 私は快諾したのだった。

 

 

 

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