第6話 朱鷺時雨と言う人達

6ー1 先輩

 数日後。


 「そう言えば蒼はこの手紙の差出人に心当たりがあるのか?」

 「うん。その字、二年の皐月さんだよ」

 「皐月さん?」


 私は蒼にこの間の旧鼠の一件の時に手紙に心当たりがあるようなそぶりを見せたので私はこうして訊ねたのだ。

 そしてどうやら手紙の差出人はうちの高校の二年生の皐月先輩という方らしい。


 「その皐月さんってどういう人?」

 「うんっとねー。皐月先輩の名前は朱鷺時雨皐月ときしぐれさつきって言うんだけどね、この町を中心にこのあたりの町々を代々守ってる一族朱鷺時雨家の次女なんだってー」

 「朱鷺時雨?聞いたこともない苗字だ」

 「アレキサンドライトなんてもっと聞いたことないよ」


 この世界の根幹を揺るがすような発言にくぎを刺された。

 私は咳払いの後、それらすべてに関して聞き流す方向で行こうと決めた。


 「それでその人については?」

 「詳しくは知らないよ。でも寡黙な人だとは聞いたけど。あっ、朱音ちゃん!」


 唐突に朱音の名前を叫ぶ。

 振り返るとリュックを片手に歩く朱音の姿があった。

 蒼は手を振り、朱音に合図を送る。

 すると朱音はそれに気づいたのか、私たちのほうにやって来た。


 「よっす、おはよう。朝からどうした蒼?まさかまた宿題写させてほしいなんていわないだろ」

 「今日は違うよ!」

 「ほんとかー、で何。なんか用?」


 軽いノリで訊ねる朱音。

 それに対して同じテンションで蒼は問う。


 「うん。二年生の皐月さんなんだけど、朱音ちゃんなら知ってるかなーって」

 「皐月さんって、朱鷺時雨の?まあ有名だよな。けど、別に私はなんでも知ってるわけじゃないんだよなー」

 「そっか、ごめんね時間取らせちゃって」

 「まあ皐月さんちは結構出前に行くから知らないわけじゃないけどさ。せいぜい妖怪胎児を専門にしているこの町の巫女の一人で、この町を守護している朱鷺時雨龍宮ときしぐれりゅうぐうさんの妹さんだってことぐらいかなー」

 「朱鷺時雨龍宮さん。誰?」

 「龍宮姉はねこの町を守護していて、この辺りの魔法少女や妖怪、巫女さんを取りまとめてる一番偉い人だよ!私も龍宮さんのおかげで魔法少女協会に入れたんだー!」

 「それって凄く重要なことなんじゃ……」

 「そっかな?私達は龍宮姉のことをそんな風には思っていないけど」

 「そんな風ってどんな」

 「えっ?うーん、権力を盾にする人?」

 「あ、ああ」


 私は蒼によって龍宮さんのと言う方がとてもいい人だと言うことはなんとなく理解した。

 そしてその人の妹が皐月先輩だと言うこともだ。


 「皐月さんは剣道部に入っているから、放課後にでも行ってみたら」

 「そっかー、ありがとう朱音ちゃん」

 「このぐらいなら朝飯前だよ」

 「うん」


 キーンコーンカーンコーン

 キーンコーンカーンコーン


 チャイムが鳴った。

 それをいち早く耳にした朱音は「それじゃあまた後で」とその場を後にした。

 そして蒼はと言うとこそりと「じゃあ放課後に行ってみよっか」と答えるのだった。


 ◇◇◇


 放課後。

 私と蒼は皐月さんが居るという剣道部の部室に向かった。と、言うより練習場に向かおうとした。


 「ごめんね、今日私日直だったのすっかり忘れてたよ」

 「いやいい。それよりわざわざ蒼もついて来なくてもいいのに」

 「だって皐月さんの手紙のおかげで私はルーナちゃんに助けてもらえたんだから、お礼を言わないと!」

 「そんなものか」


 私と蒼がそんな話をしていると、突然教室の扉が開いた。

 それもそのはずでまだ放課後になったばかり。

 生徒は多い。

 しかし、少し違っていたのはその人が私達の名前を読んだからだ。


 「ルーナ・アレキサンドライトさん。

大和蒼さん。二人はいますか」


 キッパリとした言い方。

 はっきりとした物言い。

 教室には私と蒼しかいない。

 そんな状態で答えないのはおかしい。


 「はい。私がルーナですが」

 「大和蒼は私だけど……って!」


 蒼は驚いていた。

 そこにいたのは黒髪の少し背の高い女性だった。

 その目はキリッとしていて、私達を見つめていたのだった。



 

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