5ー7 自分らしくいること

 私は蒼と窮鼠組のボスとの戦いに割って入った。

 小石をぶつけて注意を逸らし、その隙に蒼を救出する。しかしそれを見逃す程敵も弱くはない。


 「何だお前。如何してここがわかった」

 「どうしてって。蒼のだだ漏れの魔力を頼りに伝って来ただけですけど?」


 私は淡々と答えた。

 そして蒼はと言うと私に不安げな顔を見せる。


 「ひどーい!確かに私は魔法少女になったばっかりで魔力の調整も上手くできないけど、そんな言い方はないよー」

 「ごめん。でもおかげで助けに来れただろう?」

 「う、うん。ありがとう」

 「どういたしまして」


 納得の言っていない様子の蒼。

 そんな不服な感情を蹴飛ばし、私は目の前の男に向き直る。


 「と、言うわけでだ。私は蒼を回収しに来ただけだから、お騒がせしてすまなかった」

 「おいおい、のこのこ帰れると思ってるのか」

 「いいや」

 「そうか。だったら話しはしまいだ」

 「いやこっちは話し合いで解決するならそうしたいんだが……」

 「話し合いねー。サシの勝負に割り込んどいて通用する思ってるのか。まさか俺達のことを知らないなんてことはないだろうか?」

 「ついさっきまで聞いたことすらなかっとよ。でも、この手紙に大まかなことは書かれていた」

 「はあ、手紙だ?」

 「ああ。この手紙を読んだところ、貴方達旧鼠組は妖怪たちだけでなく、人間相手にも取引をしているようだな」

 「だったら」

 「やめてもらえるか」


 私は手紙を取り出して見せた。

 すると手紙を一目見た蒼は何かに引っかかるように小さく声を漏らしていた。


 「あの字……」

 「蒼?」

 「おい。何よそ見してんだよ。都合のいいことばかり。そんな要求飲むわけねだろ。それによ、俺達はただの仲介人。両者の合意の下で行われた取引に首を突っ込めと?」

 「少なくとも関係のない人間を巻き込んでの売買するのはどうなのかな?」

 「関係のない?必要だから欲する。手にした時点で関係者だろう」

 「そうだな。でもこの手紙には貴方達が非合法なことをしていると記載があった」

 「だったらなんだ。お前には関係のないことのはずだ」

 「そうでもない。いや、最初は関わろうとしなかった。でもこの手紙を貰って気が変わった。協会から退いたこの私が勝手な行動をしていいのか悩んでいたんだ。だから人間相手には協力的になれても妖怪がらみのことには非協力的になってしまっていた。けど、


 これまでの私なら様々な案件に自分から首を突っ込んでいた。

 しかしこの町に定住してからはそんなこともなくなっていた。

 所詮よそ者の私が関わっていいのか知らなかったからだ。

 しかしこう便りがある以上は必要とされていることになる。だから私は今まで通り勝手にやらせてもらう。この町にこの国に居ていい理由に等しいからだ。


 「だから私は勝手にやらせてもらう」

 「そうか。ならただで帰れる何て思ってはいないな」

 「覚悟は出来てるよ」

 「そんじゃあ行くぜ!」


 旧鼠は爪を尖らせ私に向かってくる。

 ここに来るまでに感じた他の旧鼠とはわけが違う。

 かなりの強敵で、おそらく旧鼠組の組長だ。


 「ふん」

 「なに!」


 私は軽々と躱す。

 距離もそこそこあり動きも単調だったので分かりやすかった。しかしこれは挨拶がわりと言う具合に続け様に引き裂こうとしてくるがそれらも難なく躱してみせた。


 「やるな」

 「それほどでも」

 「けどよ。これならどうだ!」


 旧鼠の組長は上のシャツを脱ぎ、スーツを剥いだ。

 そして妖力を全身に高め吠えた。


 「うおぉぉぉぉぉぉぉあ!」


 旧鼠の体はその雄叫びとともに変化した。

 全身を茶色の毛で覆い、ネズミ特有の尻尾と前歯を鋭く光らせる。

 そしてその全長は人の寸法を優に超えた。


 「こ、これって蟹坊主さんの時と同じ!」

 「うん」


 私は首を縦に一回だけ振る。

 そして本来の姿を取り戻した旧鼠は私を鋭い眼光で見つめると巨体を活かして重たい一撃を加える。

 しかしそれを後方に飛んで回避するが先程よりも断然速い連続攻撃の応酬があった。


 シュンシュン


 空を斬る冷たい音を立てて繰り出される爪や尻尾、前歯を前に私は身をよじりながら攻撃を躱し、時として妖語の鞘を使って防御する。


 「どうした。避けてばかりいても俺には勝てんぞ」

 「そうだな。もう避けるのは止めだ」


 そう言い返した私は竹刀袋から刀を取り出す。

 その凄みは鞘からも伝わる。

 黒塗りの光沢が輝き、私は妖語を構えた。


 「刀か……」

 「ああ。でもただの刀じゃない。いくぞ、かたり」


 私は魔力を集中させる。

 紅色の瞳を表し、迎え撃つ。


 「その紅い眼。さっきまでと空気が違うな」

 「わかるか」

 「まあな。けどよ、こっちだって後には引けねえよ」

 「私はそれでも構わないが、その意思がないなら斬らせてもらう。その執念ごと」


 私と旧鼠は向かい合い、そして九鼠は私に向かって突撃してきた。

 前脚の爪に妖気を纏い暗闇を含んだ残像に変えて打ち出す。

 しかし私はそれを魔法で作り出したシールドで防ぐと、ギリギリまで引きつけ妖語を抜刀した。


 ◇◇◇


 「俺の負けか……無様だな」

 「そんなことはない」

 「何言ってんだ。お前、本気じゃなかったろ。でなきゃ俺はとうにこの世にはいねえ」


 私は抜刀した。

 旧鼠の体を滑らせるようにして刀身を合わせ私は旧鼠の胴体を切りつけた。

 この刀はは妖気と肉の両方に触れるがそれを制して力技ではなく流れるように切ったことで、本来の力を発揮することはなく私の命じた通り存在を残す結果となった。


 「別に祓うために私は戦ったんじゃないから」

 「でも俺の負けだ。こんなんじゃああいつらに示しがつかねえな」

 

 放心して落胆する旧鼠。

 そんな旧鼠に対して蒼は疑問を投げかける。


 「どうして猫さん達を虐めたりなんかしたの?」

 「あん?別に理由なんてねえよ」

 「理由がない?」


 そんな問いに無言で辺りを見渡す旧鼠。

 

 「見てわかるだろ。俺達の組はもう終わりなんだよ」

 「確かに妖気も活気もないね」

 「力を失った俺達が取れるのは他の奴等を食うことだけだ。そんで手っ取り早くこの町の通りを仕切ってる奴等を呑み込んじまおうって寸法だったんだよ」

 「なるほど」

 「でも結果はどうだ。組の奴等も俺もこんなガキどもにやられちまうぐらいに落ちちまった。そんな奴の下につこうなんて奴いるわけねえ」


 溜息を吐く。

 そんな彼に対して私が言えることは限られていた。


 「でも強かったですよ」

 「はあ?」

 「確かに今はそうかもしれませんが、もう少し角度を変えてみてはどうです?」

 「角度だと」

 「はい。そんなどっちが強いとかみたいなやり方じゃなくてしっかりと話し合いをしてみては如何ですか」

 「話し合いねえ。今更誰がそんなこと……」

 「心当たりがあります。きっと彼等なら受け入れてくれますよ」

 「俺等に誰かの下につけって言うのか?」

 「いいえ、共存ですよ」


 私はその場を立ち去る前にさらりと


 「《ねこのみや》。きっと彼等ならね」

 「壱弥か……」

 「蒼。帰るよ」

 「ま、待ってよルーナちゃん」


 立ち去る前に旧鼠は投げかける。

 

 「なあ、あんた名前は」

 「ルーナ・アレキサンドライト。人と吸血鬼の亜人ハーフです」

 「俺は九郎。旧鼠組のかしらだ」


 私は会釈すると蒼と共にその場を後にした。

 後で聞いた話だが、《ねこのみや》と旧鼠組ので繋がりを持ったらしい。

 




 

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