5ー6 旧鼠組

 私が旧鼠組の根城に向かう前。

 既に蒼は突入していた。

 それは魔法少女として、この町を愛する者としての行いだった。


 [蒼side]


 「ここが壱弥君の言ってたところだよね」


 私は目の前にそびえ立つ建物を見上げた。

 古びた建物のようでテナントなどは入っていないビルだ。

 私は唾を飲む。

 今日はルーナちゃんはいない。私一人の力でこの問題を解決させるのだ。


 「よ、よし。行くぞー!」


 私は魔法少女のコスチュームに着替えると建物の中に入った。


 ◇◇◇


 私は建物の中に入った。

 一回のエントランス部分。

 そこは妙に埃っぽく、当然電気などは通っていない。

 ジメジメとしていて暗く、冷たい雰囲気とルーナちゃんが普段から察知している妖気と呼ばれるものが蔓延していた。


 「あのー、誰かいませんかー」


 私は大きな声で呼び掛けた。

 しかしそんな呼びかけには誰も反応はしてくれない。仕方なく私はエントランス部分を調べるとともに、二階に上がるための階段を探す。


 「妖気はすっごいのに全然妖怪さんがいない。何でだろう?」


 私は妖気を辿るようにして周囲に意識を向けている。

 しかしルーナちゃんのようには上手くはいかず、そもそも反応がない。


 「困ったなー。窮鼠組の人達どこにいるんだろう?」


 私が腕組みをして考えた途端、急に気配を感じた。

 その気配はすぐ後ろで、猛スピードで突進して来た。


 「失せろ!」

 

 私は躱した。

 まるで水のように襲いかかって来たスーツ姿の男をあしらった。

 すると男は私の方に向き直ると、もう一度攻撃を仕掛ける。今度は手ではなく、噛みつこうとして来た。


 「ちょっとやめてよ!」


 私は水の魔法で応戦した。

 水を波打つようにして、男の顔に浴びせると男は怯み後ろに飛んで倒れる。

 すると男の身体が変化した。

 顔はネズミのようになり、茶色の体毛が生え細長い尻尾まで伸びる。


 「ね、ネズミ人間?!」

 「チッ」


 ネズミ人間は舌打ちをすると退散した。

 私は逃がさないように水の幕を張る。


 「な、なんだこれ!」

 「《ウォーターネット》だよ。逃げないでよ、ちょっと訊きたいことがあるだけだから」


 私は魔法の網に苦戦するネズミ人間にそう問いかける。

 しかし答えてはくれなさそうだ。

 別に私は痛めつけるような真似はしない。むしろ暴力反対。だけど、猫さん達を本当にいじめているのなら黙っていない。


 「しょうがない。他の人に訊いてみよう」


 私は階段を目指した。

 視線の先に古びた階段が一つ。コンクリート製だ。


 「よし。次行こう!」


 私は階段を上った。


 ◇◇◇


 それから私は次々に階段を上っていき、階層ごとに現れるネズミ人間を次々と相手をした。

 ネズミ人間は徐々に数を増やしていき手ごわくなった。


 「《ウオーターソード》。《ウオーターシャワー》。はあはあ、もうきりがないよ」


 私は多くの魔力を消費して敵を撃退した。

 そこで私はピクピクと動いて気絶していない一人のネズミ人間に声をかけた。


 「倒したよ。貴方達のボスは何処にいるの?」

 「あんたじゃ勝てねえよ。俺らのボスには……」

 「えっ?」


 そう言い残すと男は意識を失った。

 私は丁重に横にすると、上の階を見た。

 如何やら次が最後の階のようだ。


 「よし」


 私は気合を入れなおすと上の階へと歩みを進めた。

 そして一番上の階へと辿り着いた私はそこにある一室に飛び込んだ。


 「失礼します」


 私は警戒しながら扉を開けたが、そこには何もなかった。

 私は不気味に思いながら散策すると、突然床にひびが入り私はそのひずみに飲み込まれた。抗おうとしたが、深い闇の深淵に飲まれたみたいで淀んだ力が襲い掛かり、私は意識を失った。


 ◇◇◇


 どれくらい意識を失っていたのだろう。

 私は重たく横たわった体を起こし周りを見た。

 するとそこは先程までのビルの中ではなく暗い場所だ。見ると地下のようで、頭上には明かりが見える。

 すり鉢状になっており、どうやら私は何かしらの力によってここに運び込まれたみたいだが、周囲には人や妖怪の姿に気配。それからカメラなどの類も存在していない。不思議な空間だ。


 「ここ何処?」

 「ここはビルの地下だ」


 私はそう答える声を聞いた。

 男の声だった。そしてその声の持ち主は私の方へ向けて歩み寄ってくるのを感じた。


 「貴方は誰?」

 「俺か。俺はお前が散々こけにしてきた連中のもんだよ」


 と現れた男の人は鋭い目つきとつんつんと尖った髪の持ち主だった。

 しかしみしみしと感じるのは妖気。

 私は重たい体を起こして態勢を整える。


 「おいおいやんのかよ。この俺と」

 「当たり前だよ。猫さん達や表の世界の人達に酷いことをするような人達に私は絶対に負けないもん」

 「あそこから落ちてきたのにか?あの暗闇に抗えないで何が守るだよ」

 「それは魔力がなくて」

 「妖力で作り出したここへの直通のゲートを作動してやったって言うのによー。そんなんじゃ話にもならねえぜ。とっとと帰んな」

 「やだ!」

 「いまなら見逃してやる。下のもんにも俺が言っといてやるから、さっさと消えろって言ったんだよ。お前みたいにな、自分の力量も覚悟もねえような奴が来たんじゃねえ」

 「覚悟ならある」

 「何?」

 「私は私の大切なものを守るためなら優しさなんていらない!」

 「本気みてえだな」

 「うん。そう友達を見て思ったから」

 「そうか……俺の名は九郎くろう。そんな貧弱なお前に敬意を称して一撃で終わらせてやる」

 「こ、来い!」


 私はそう意気込む。

 その瞬間、溢れ出した九郎の圧倒的な妖気に気圧された自分がいた。

 体が震えて態勢が崩れる。

 その瞬間、物凄い勢いで迫りくる九郎の姿があった。


 (間違い無いよね。この人が旧鼠組の……)


 そう思う頃には遅かった。

 私の体は壁に叩きつけられ、血を吐く。

 何とか水の魔法でクッションを作り、ダメージを軽減したけどしばらく立てそうに無い。


 「逃げなかったことは褒めてやる。けどよ、もう少し自分の力量を考えてから行動しろよ」

 「ううっ」

 「言っても無駄か……じゃあ次で仕留めてやる」


 再び妖力が密集して、私に向かって突撃しようとしている。

 けど私の体はふらふらで動かない。

 私は死を覚悟した。

 その時だ。


 コッン!


 何かがとんでもない速さで割れた。

 それは小石だった。

 私の頭上から落ちてきたそれは九郎目掛けて飛んできたように見えた。


 「えっ?」

 「何者だ」


 そこで聞いたのは聞き覚えのある優しい声音だった。

 その声はしっとりとして低くこう答える。


 「私の友達に手を出すな」

 

 


 

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