5ー2 街へ買い物
私は蒼に連れられて街の中心街へとやって来ていた。
そこには大型のショッピングモールやらが立ち並び、ここの空間だけ異常を喫していた。
「神奈市にこんな場所が……」
「うん。さあ行こ!」
と私は蒼に手を引かれてショッピングモールの中へと誘われた。
ここは私達の通う《
そのためお洒落をした人達で街の中は埋め尽くされていた。
私は蒼に連れられて色々回った。
まずは洋服店だ。大衆的なものが立ち並び、比較的リーズナブルな値段で提供されている。
「ルーナちゃん。如何、似合う?」
と言って蒼が試着したのは猫の絵がプリントされた黒のTシャツだった。
私はそれを見て適当に相槌を打つ。
もっともなかなかに似合ってはいた。ただどっちかって言うと蒼はその……
(猫と言うより犬だよな)
と思ったのは内緒である。
まあともあれここは率直な意見を述べる。
「いいと思うが」
「本当!じゃあ買っちゃおうかなー」
はしゃぐ蒼に対し淡白な私。
正直、服にはさほど興味がない。基本的に近所をうろつく程度なのでそんなに量を必要としないのだ。
日本に来た当初は色々と見て回っていたが流石に学校が始まるとそうはいかず、その上いざ家に馴染んでしまうと人間性というやつか家でダラダラしていたい気持ちで溢れてくる。
お金の面に関してはさほども問題はないので、この際除外するがやはり無駄遣いはよくない。
と、現実的なことを頭の中で思い描いていると唐突に蒼が私に声をかけた。
「ねえルーナちゃんも何か買わないの?」
「私か?私はいい。あまり興味がないんだ」
「えー、もったいないよ」
「もったいない?無駄遣いする方がよっぽどもったいない気がするするが」
「うっ!それは、まあ、そうだけどさ……でもねでもね、ルーナちゃん可愛いし、お人形さんみたいだからもっとフリルのついたフリフリな服を着たら可愛くなるんじゃないのかなーって。ねえ、どうかな?」
私に勧誘をしてくる。
そんな謳い文句は聞き飽きた。
私はそれを軽く制すると、仕方なく何か見て回ることにした。そして結局私が手にしたのは税込四百九十円の黒のTシャツを買うことにした。
「ねえ、お腹空かない?」
「ん?まあ確かに少しは空いたが……」
蒼はお腹を抑えている。
確かに私も少し腹が減っていた。だが私は一応吸血鬼。吸血行為は出来ないが血液を摂取して通常の食事のように栄養分を摂取出来るが、私は他の吸血鬼と違って血の味に旨味を感じないので、出来ればやりたくない。
「わかった。じゃあ何か食べに行こうか」
「賛成ー。じゃあね、フードコートに行こうよ」
「うん」
私は蒼の意見に従い服屋を後にした。
◇◇◇
フードコートにやってきた私達。
それぞれが思い思いに注文し、注文したものを取りに行く。
「いただきます」
蒼は商品を取りに行くと、真っ先に注文したオムライスにかぶりつく。
右手にスプーンを持ち、口元にはケチャップを付ける。
私は指摘すると、ナプキンでそれらをぬぐい取る。
私は子供の無邪気な行動を見守る母親ってこんな気持ちなのだろうかと、生殖器官のない自分には永遠にわからない疑問を抱きながら、そんな風な気持ちになっていた。
「あれルーナちゃん食べないの?」
「いや食べるが」
私は考え事を丸めて放り投げ、テーブルに置かれたラーメンを箸で掬い上げれば、口の中に放り込む。
大衆的な味ではあるが、それがまたいい。
「ねえねえ、次はどこ行こっか」
「それはいいが、少し休みたい」
「そう?じゃあさ、公園にでも行こうよ。この辺りにね、おっきな公園があるの」
蒼は愉快そうにそう言う。
私はそれに賛成して食事を済ませると、公園に向かうのだった。
◇◇◇
「こっちこっち。こっちだよ、ルーナちゃん」
「そんなに急がなくても公園は待ってくれる」
私達は今、公園を目指している。
特に予定はない。ただゆっくりしたいと思ったから向かうだけだ。
その際、私達はちょっとした路地を通る。
理由は単純で、ここを通れば近いからだ。
「うん?」
「どうしたの、ルーナちゃん?って!」
私は路地の先を覗いてみた。
するとそこには何かが蠢いていた。
私と蒼は目を凝らしてよく見てみると、そこにいたのは白地に茶色の斑点のある一匹の猫がいる。
しかし様子がおかしい。毛を逆立てて何かに立ち向かおうとしている。
さらに目を凝らすと、はっきりした。
そこにいたのは三匹の
「ネズミと猫?」
「うん。でも様子がおかしいよ。って」
蒼はその様子を見ていて、不思議に思っていた。
その光景に私も驚いた。
鼠が猫に飛びかかると、凄い勢いで猫を痛めつける。噛み付き、体に纏付き動きを封じる。
そして気がついた時には猫は敗れていた。
「猫、負けちゃったね」
「ああ。でも妙だぞ」
「えっ?」
私は蒼に説明した。
「確かに猫はネズミにとっては天敵であり、抵抗もするだろう。だが、こうも一方的にやられるものか?」
「それは向こうの方が数も多かったし、それに連携もとれてたから」
「いやだかと言ってあの凶暴性はおかしい。それにあのネズミ、妖力を持っていた」
「えっ?!」
「気付いていなかったのか。とにかくあれは間違い無く普通じゃない。だからあの猫は運が悪かっただけ……」
「待って、ルーナちゃん」
私はその場を離れようとした。
しかし蒼は私を引き止めた。
「どうした、蒼」
「あの猫ちゃん。怪我してるみたい、苦しそう……」
私はじっと覗き込む。
確かに傷だらけだ。あれだけこうげきされたのだ。こうなる。
「助けてあげようよ」
「何故?」
「だって怪我してるんだよ!」
「うーん。確かにそうだが……」
「ルーナちゃんって、酷い人なの?」
「猫を見捨てるを定義とするならそうなのかもな」
「何でそんなこと……」
「じゃあ蒼は捨て猫を拾ってあげるのか?全部」
「ううっ、それは……」
「だろ。だがまあ、私にも倫理観はあるからな。助けてやるか」
「本当!」
蒼はパッと明るい表情を作る。
しかし私は
「あの猫も普通じゃないからな」
「えっ?!」
と、私は驚く蒼を放って置いて猫を抱き抱えると、この場を直ぐに離れたのだった。
その際蒼は私に訪ねてくるが、その答えについては「後でわかる」と聞き流し、とにかくこの場を離れる。それは私の中で何か危険が近づいていることを察知していたからだった。
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