第5話 黄金連休は休みたい

5ー1 ゴールデンウィークなんだよ?!


 五月。

 日本独自の大型連休は、私達学生にも有効だ。こんな日は一日中、家でのんびりしていたい気分だ。


 そう私がソファの上に横たわって、無防備な腹の上に洋書を置いて寝ていた。

 私は目を閉じてこのまま寝むってしまおうとしていたのだが、急に家のチャイムが鳴らされて私は応答を仕方なくすることになった。


 「はーい」


 ガチャ

 私は扉を開いた。

 すると外に居たのはやはり見知った人物だった。


 「あっ、ルーナちゃん起きててよかった」

 「蒼か、如何した?」

 「これから遊びにいこ!」


 ガチャ

 私は無言のまま扉を閉めた。

 すると外からは「何で閉めるの!」と蒼の大きな声が炸裂する。

 私はそれを完全に無視してリビングに戻る。

 第一毎日毎日学校で会っていて、家にも来ているのだ。ゴールデンウィークぐらい一人で気ままに過ごしていたいものだろう。

 そもそもゴールデンウィークは休むためにあるのだ。心身の疲れを取り、日頃の生活から解放される。子を持つ親は出来ないことかもしれないが、私には関係のないことだった。


 「もおー、勝手に入るよ!」


 ガチャリ。

 再び扉が開き、蒼がいつも通り上がってくる。

 鍵を閉めればいい話なのだが、生憎とそこまで邪険には出来ないのが私のよくないところだ。


 「はあー。で何のようかな、蒼」


 溜息混じりに聞いてみた。

 すると蒼は堂々と答える。


 「だから遊びに行こうよ!」

 「やっぱり帰ってくれないか」


 私はきっぱり断った。

 蒼はと言うと落ち込むように顔を引きつらせて意気消沈していたが、諦めないのが蒼の最大のポイントだ。

 私の一言で気圧けおされて、このまま大人しく帰るような奴ではない。


 私は蒼の背中を押して玄関まで連れて行こうとするが、蒼は凄まじい力で体を固定する。

 

 (どれだけ足腰が強いんだ)


 そう思わせるくらいには力強く、床に敷いてあるカーペットがキュリリーとアニメでしか聴かないような嫌な音を立てた。

 それを聞いて流石に私も諦めた。

 物を壊すほど嫌いではなく、ただまた面倒ごとに巻き込まれはしないかと思い用心していたのだ。


 (いや、面倒ごとに巻き込まれているのは私ではなく蒼なのでは?)


 そう思えてくる。

 私は仕方なく蒼の背中から手を離して蒼を迎え入れた。


 ◇◇◇


 「それでさ、何処行こっかルーナちゃん」

 「いや、私は行くとは一言も言っていないぞ」

 「えっ!何で」

 「何故こんな日に外に出なくてはならないんだ。こう言った大型連休は身体を休めるためにあるはずだろう」


 私は正論で返す。

 すると蒼は子供のような発言をする。

 いや蒼は私よりは子供か。


 「だってせっかくのゴールデンウィークなんだよ!何処かに遊びにあきたいじゃん!」

 「だったら一人で行って来たらいい。蒼はそう言うタイプだろ」

 「どう言うこと?」

 「朱音や黄色と同じで全力で真っ直ぐ直進するタイプのはずだ」

 「酷いなー。私そんなじゃないよ」


 蒼は抗議する。

 それなら何故いつもいつも連日私の家に来るのか聞いてみたい。

 と思い私は訊ねる。


 「そう言えば蒼は何故いつも私の家にくるんだ。ご両親が心配しているはずだが」

 「あっ、大丈夫大丈夫。心配しなくていいから」

 「いや心配するだろ」

 「だってうちの親いっつも仕事で遅いし、帰ってこない日だってあるんだよ」

 「えっ?!」

 「だからいつも家にいても暇なんだ。私が魔法少女になったときは話したけど、二人とも呑気な人だからすぐに了承してくれたけど、少し寂しかったー」

 「それは……ごめん」

 「なんで謝るの?」

 「いや、言いたくなかっただろうと思って……」


 私は蒼の事情も知らずに聞いてしまった自分を恥じた。

 しかし蒼はそんな私にこう言い返す。


 「別にいいよ。だって私は魔法少女なんだよ。家を留守にする事だってあるんだからさ」

 「蒼……」

 「そんな事よりもさ、早く行こうよ!」

 「いやそれとこれとは話が別で……」

 「いいからいいから。買い物に行くよ。ほらほら着替えて着替えて」


 私の背中を押す蒼。

 とても力強く抗えない。


 「いやちょっと、蒼!」


 私は蒼に連れ込まれる形で、自室に押し込まれた。

 そしてクローゼットを開け、私は仕方なく着替えることにしたのだが、困ったことにパジャマや学校の制服以外にはあまり可愛い服はなかった。

 まあ私は可愛い服よりも、利便性にとんだものの方が断然良かったので、軽くて丈夫なダウナーなパーカーとスリムパンツを適当に引っ張り出し履いた。


 そして財布とスマホを持つと部屋を出る。

 それをみた蒼はまるで散歩に行きたがる子犬のようにギュッと拳を作ると、「よし、ルーナちゃんの準備もできたみたいだし、行こっか!」とはしゃぐ。

 私は蒼を軽く制すると、家を出たのだった。





 



 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る