4ー8 陰摩羅鬼、討伐
私は刀を抜いた。
それは銀の刃に金色を纏っていた。
妖力と神力が入り混じり、無限の力を生み出す。
「これが妖語の力……凄まじいな」
私は惚けてしまう。
口をぱかっと開けて茫然とした。
「あれが伝説の……」
「うむ。禍を討ち払う妖刀。妖語じゃん」
清佳と白江は口々にそう言った。
しかしその間にもみしみしと伝わってくる有り余る妖力を私は感じていた。
そしてそれは対峙する陰摩羅鬼もまた同じのようで、先ほどから奇妙な奇声を上げ、羽をバサバサとはためかせている。
おそらく気付いているのだ。
このとてつもない妖気に。
「さあ、かかってこい」
私はポツリと一言。
それを発するや否や陰摩羅鬼は容赦のない攻撃を仕掛けた。
翼の羽に妖気を詰め込み、それをまるで小刀のように発射してきた。
しかしそれを私は《妖語》で全て弾き落とし、陰摩羅鬼の攻撃を無に
「さて、そろそろ本気でかかろうか」
私がそう発すると同時に、私の瞳が真っ赤に染まる。
それは
真っ赤に煌く赤い血のようなルビーのようだ。
それと同時に、空に映る淡い月。
それも変化した。
真っ赤に変色し、私の
「月が」
「まるで血のようじゃん」
その紅い月は私達を照らした。
そうすることで、私の中の魔力を活発化させ、真の力を発揮する。
「さあ、やろうか」
私はそう言うと足の筋繊維に力を込めて一気に駆け抜けると陰摩羅鬼の体を引き裂いた。
目にも留まらぬ速さ。
まさにその一点に尽きるが、それだけではない。
「何ですかあの魔力!先程までとは大違いです」
「力を隠していたわけか。なるほどの」
清佳達は私の力に茫然としているが、私はそれには構わなかった。
すると陰摩羅鬼は勝てないと踏んだのかは知らないが、
「逃さないよ」
私も翼を広げて大空に舞い上がり、夜の世界を駆ける。
そして《妖語》を構えると、私は陰摩羅鬼を睨みつけて閃光の如く真っ正面に突っ込んだ。
ーー刹那ーー
陰摩羅鬼の身体はバラバラに引き裂かれ、その存在は粉々となる。
その後には何も残らなかった。
黒い霧のようなもやが包み込んで、その身を消し去ったのだ。
「完全に消滅したね。もう奴は復活
白江の言葉はとてもゆったりとしていた。
終わってみればあっさりだった。
黒い影は消滅して、そこに残ったのは戦いに疲れた私達だった。
私は《妖語》を鞘に納めて、しばしの間ほおけた後、山を降りるのだった。
◇◇◇
「色々とお世話になりました」
私はそう言って礼をした。
すると清佳の父清隆は私の顔を見てこう言った。
「いいや、こちらの方こそ助かったよ」
「また会えたらいいですね」
清佳がそう言った。
「それじゃあ私はこれで」
そう言って私がこの場を後にしようとした時だ。
清佳が私を呼び止めた。
「あのルーナさん。これを」
そう言って差し出してきたのは神条家が代々祀ってきた
あの後、私は《妖語》を清佳に返し、白江と
その日のうちは久々に全力を出したせいもあり、疲れて眠ってしまっていた。
そして起きてしばらく休んで、こうして帰ろうとしてある次第なのだ。その間私は《妖語》の姿を見てはいなかったが、神社に祀り直されたのだと思い込んでいた。
「これは妖語。何故私に?」
「この子は貴女ものです。いえ、貴女にこそふさわしい」
真剣な表情で伝える清佳。
私はその顔をじっと見る。
「私にはこの子を扱えませんでした。それにこの子をあのまま神社に祀り続けるよりも貴女に託した方がこの子のためです。そう父と相談したのです」
「清隆さんと」
「うん。確かに八重と言う方はかつてここで巫女として務め、妖怪達と心を通わせていたいたらしい。高い霊力を持っていたが、それ故にか体が弱く陰摩羅鬼を封じて以来その力はめっきり失せてしまわれたそうだ。そして刻々と迫る死への時間までを共に過ごしていたそうだよ」
「そんなことが……」
「改めて文献を調べ直してみたら、こう記述がありました。妖語と言う神刀。妖刀となれど私の友として歩みより、この身朽ちた後も残りつづことを願う。さすれば、その密やかな笑い声は永遠であらんことなし。と」
「妖語は御霊代。付喪神であられるから、話すことが出来るけど、その声を聞くことは難儀なほどに口下手なようです」
「回想ではそうは見えなかったけど……」
「それはそれだけ八重さんのことを信頼していたからですよ。そしてその信頼は今は貴女に寄せられている。なら、少しでも信頼を寄せられる方の元に置いてあげた方が、この子のためにもなります。それに八重さんの言葉もまた」
「そうですか。……わかりました。この刀は私が預かります」
「お願いします」
「あとそれと」
「何でしょうか?」
「白江達にもよろしく伝えておいてください。それからまた来ます」
「ええ。待っています」
「うん。また来ておくれ、妖刀に選ばれし者よ」
そう言って私は別れた。
それからと言うもの《妖語》の声を聞いていない。そして今に至るのだ。
◇◇◇
「へぇー、そんなことがあったんだ」
蒼が食い入るように言った。
「うん」
「かたりちゃんか。いい名前だね。ねえ、私大和蒼。ルーナちゃんの友達なんだ!」
しかし《妖語》は反応しない。
ただそこに立て掛けられており、じっと音も立てずに静かにしていた。
いつかまた話をする時は来るのだろうかと、待ち望んでいる私だった。
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