4ー7 継承者

 私は覗いた。《妖語》の過去を。

 かたりと呼ばれていた妖刀は主人を失い、その力を振るわれることはなくなった。

 忘れられ、その身は永劫えいごうの彼方まで置き去りにされ、社の中で祀られていた。

 それはとても辛く、永遠に近い時間だったはずだ。


 私はそれを知ってしまい、動揺した。

 私と同じだ。

 私は人でありながら、魔法少女として吸血鬼としての力と生を受けてしまった。それ故に私は大切な友達を作れない。時間の流れがはかなくも違うから。

 それ故に私は誰とも馴染めず、一人だった。

 けれども私は人との触れ合いを知り光と闇の勢力の間にある見えない糸を目の当たりにしたことで、吹っ切れた。

 私は私のままでいようと。

 だから変わることを恐れない。そのために私はポツリと吐いた。小さな声で言葉であるが、はっきりとだ。


 「寂しかったんだな」


 その言葉に反応してか、《妖語》は少しぶるっと震えた。

 その間にも続くあんまらかの攻撃を回避しつつ、私は続ける。


 「元の主人あるじがいなくなって、使われなくなって、廃れて……それで忘れ去られたと思った。もう必要ない物だと思ってしまった」


 また震えた。

 今度はより強く。


 「だから使わせなかった。必要とされていれば、いつかまた使って貰えるって。でも役目が終わればまた同じこと。それならいっそ最初から繋がりを持たなければいい。そうすれば、もう寂しくなることはないから」


 どんどんと強くなる震え。

 何かを訴えかけるようなそんな小気味いい音と震えを立てている。

 私はそんな刀にさらに呼びかけた。


 「怖かったんだよ。必要とされないことが。そうなる行く末が。だから使わせたりはしなかった」


 小刻みに震えていた刀は名一杯の振動を伝えて私に訴えかけるかのようだ。

 しかし私はそんな刀を真っ向から否定した。


 「でもいつまでもそのままじゃ駄目だろ!軽いヘリウムみたいな言葉かもしれない。それでも君を必要としてくれる人は、居場所は必ずあるはずだ。だったら自分の力を全うしろ」


 妖力が神力が柄から溢れるように伝わってくる。

 てのひらを通じて、腕全体が熱い。

 脈打つように血液を沸騰させるほどに強い意志だ。

 だが私はそんな意思には飲まれない。

 何故なら飲まれるわけにはいかないからだ。


 「君の前の主人は自分の存在を否定しなかったはずだ。君を使う存在が現れる。そう言っていただろう。なら、その言葉信じろ!私の言葉じゃない。彼女の言葉を!」

 「ルーナさん。何を言って……」

 「如何やら話をしてるみてーじゃん」

 「妖語と話を!」

 「まあここは任せてみることにしようよ。それにきっと上手くいく」


 そう言って白江は飄々ひょうひょうとした。

 その様子を心配気味に見守るのはダメージを負った清佳だ。


 「私は君を使いたい。私のことを信じてくれなくてもいい。けど、彼女の言葉まで疑うな。君は彼女と共にあいつを倒した。なら、それは神の役目のはずだ。大丈夫。私は君を信じる。共に同じ時間を歩めるか如何かはわからないけど、少なくとも今だけははっきりしていることがある。それを聞いて欲しい!」


 私はそう言って告げた。

 

 「君の力を貸してくれ。かたり!」


 その時だ。

 急に熱く流れる妖力が更に強まった。

 そしてまるで語りかけるかのように声が聞こえた。


 「その名前は八重が付けてくれた」

 「そう、君の名前だ」

 「何故あなたが?」

 「すまない。君の記憶を覗いたんだ」

 「ならわかるはず。私はもう……」

 「必要だ。それに君の主人は君を捨てたんじゃない」

 「えっ?!」

 「記憶を覗いてわかった。多分、その人は先が近かったはずだ。だから最後の時を過ごすために、君に別れを告げた。かたり、君をあの場所に置いて行ったのは、あの場所に置いておけば君が祀られなくなることがないはずだからだ。だから君は捨てられたんじゃない筈だ。君のことを案じてのことのはずだよ」

 「それなら尚更」

 「いつまでも君を振り続けることも話をすることまだ気やしない。だって、その人は人間だから」

 「人間」

 「でも私は違う。私なら永遠かはわからないけど、少なくとも私の知る永遠の間は君を捨てたりしない。そうでなくても、君を必要としてくれる人は必ず現れるはずだ。だからその力を今一度私に示して欲しい」

 「貴方は一体……」

 「それは後にしよう。だからかたり。私に私達に力を貸してくれ。。そのための刃を貸してくれ!」


 その途端。

 私の中に思いっきり流れてきた妖力。

 そして私はその意味を知った。


 「ありがとうかたり」

 「変わった方です。でも、それが八重の意思なら私は力を貸します。信じますよ、あなたを」

 「うん。いくぞ、かたり!」


 私はそう声を張り上げ、鞘から刀を抜き放った。

 その刃は銀色であり、纏った妖力と神力は束ねられ金色の光を放つ。

 そう。認めてくれたのだ。

 これが私が《妖語》に選ばれた瞬間だった。


  

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