4ー6 巫女と妖刀

 私は刀を手にした。

 しかし刀はびくともしない。


 「やはりルーナさんでも……」

 「いいや、そうでもいみたいだよてーじゃん


 清佳と、白蔵主の白江は私の姿を見てそう反応した。

 事実で私は刀を手にしたと言うのに、まるで抜ける気配がない。焦らないわけがない。

 しかしだ。少しだけ変化があった。

 握った瞬間に、熱い何かが流れ込んでくるのを感じるのだ。


 (何だ、この強い妖気は……飲まれてたまるか)


 私はこの刀が神刀であり妖刀である所以を歪んだ気がした。

 強すぎる力。

 それに抗うことが出来ないものにこの刀は自らの意思で使わせようとしないのだ。

 認めた者以外には決して振るわせぬそのまことの力は優に超えている。

 まさに妖刀と化した神刀の言われに相応しい。


 「力を貸せよ、妖語!」


 そう言ってグッとつかを右手で握り込む。

 そして引き抜こうとした。

 しかし……


 「くっ、抜けないか」


 やはり駄目だった。

 物凄い力を感じるのに使えない。何とも歯痒い。

 そう言って私は妖刀を携えたまま陰摩羅鬼の攻撃を避ける。


 「何で抜けたいんだ。何が、何が足りない……」


 私は考えた。

 しかしわからない。そんな時だ。私はあの魔法を唱えてみることにした。

 あまり使いたくない魔法ではあるが、致し方ない。


 「頼むぞ、聴いてくれ。《リコール》」


 私は一瞬の隙をついて《リコール》の魔法を《妖語》に対して発動した。

 この魔法はであり、今まで私はこの魔法をほとんど使ったことがない。ましてや道具に使った覚えはないのだ。

 しかし緊急事態。

 私はその重々しい記憶の領海へと続く扉をこじ開け、《妖語》の過去を覗いた。


 ◇◇◇


 「ここは……昔の神社?」


 それはあの神社だった。

 しかし妙に新しくて綺麗だ。

 そうここは過去の世界。私がみているのは《妖語》の見てきた世界の映像だ。私は関与出来ない。


 「ここに何が……」


 私がそう言って周りを見回すと、何か声が聞こえてきた。

 わたしはその声の主が来るのを待った。

 そう。これはあくまで映像。私は映らないのだ。


 「さてと今日も一日頑張ろう!」


 高らかにそう声を出した明るくて元気のある声主は巫女装束に身を包み長い黒髪を長く伸ばした女性だった。

 年の功は十八歳から二十歳前後といった具合だろうか?

 優しそうな人だ。


 と、その女性は不意に神社の境内の中へと入った。

 社の中だ。

 掃除でもするのだろうかと思いながら見ていると、女性は扉を開けて中に入る。

 そしてそこには一太刀のつるぎが納められていた。

 そうそれこそが、《妖語》である。


 「かたり。おはよう、今日も一日よろしくね」


 と語りかける少女。

 そして語りと呼ばれた妖刀は少女が手にする前に話し出していた。


 「八重やえこそおはよう。今日も素振りをするの」

 「うんそうだよ」

 「巫女のお仕事はいいの?」

 「大丈夫、大丈夫。さぼったってバレないって」



 と、優しい言葉で聞き返す《妖語》に対して平気な素振りで返す八重と言う巫女。

 その様子はとても和むものがあり、信頼されているようだ。



 それから場面は変化。

 ここは何の記憶だろうか、と再び周囲を見回すとそこには一人の少女が刀を手にして、巨大な鳥と対峙していた。

 その鳥は陰摩羅鬼。

 そして少女は八重と言う巫女だ。


 「はあはあ。強いね、かたり」

 「はい。大丈夫ですか、八重」

 「平気平気。さあいくよ!」

 「はい!」


 そう言うと、瞬く間に陰摩羅鬼へと間合いを詰め寄り、八重は《妖語》を振り陰摩羅鬼を見事討ち取った。


 「やったね八重!」

 「うん。かたり」


 一人と一太刀は何事もなく冷静だった。



 さらに場面は変化した。

 それは八重と妖語の会話だった。


 「ねえかたり」

 「どうしたの、八重」

 「あのね。実は私もうあなたを……」

 「八重?」


 八重は黙った。

 その時私は理解した。この人の顔色が悪く、汗が滴り落ちている。

 おそらく妖刀を扱うだけの力がもう残っていないのだ。それは即ち生命活動の限界。


 「ごめんね。何でもないよ」

 「そう?ならいいけど」

 「かたり、一つだけお願いしてもいい?」

 「何?」

 「私よりもあなたを使うのに適した人が現れたら、その人にあなたを使わせてあげてほしい」


 そう言うと刀は反論した。

 

 「な、何いってるの!私を使えるのは八重だけだよ!」

 「でも私だっていつまでも戦うことは出来ない」

 「戦わなくてもいいから」

 「そうでなくても私の時間は永遠じゃないの。だから」

 「そんなやだよ!やだやだ。私は八重と一緒!」

 「ごめんなさい、かたり。いつか私よりも素敵な使い手があられるはずだから」

 「八重……」


 そう言うと八重は《妖語》を社の中に納めた。

 そこで記憶は終わる。

 その後八重がどうなったのかは記憶の中にはなかった。



 

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