4ー5 陰摩羅鬼

「それでどうするだい?」


 私は訊ねた。


 「そうですね、白江さん何かいい方法はありませんか?」

 「無理だねじゃん。妖刀が使えんのでは話にならんよ」

 「そうですか。せめて私がこの子の力を使えたら」

 「その刀妖語はどうしてそんなにも融通が効かないんだい?」


 私は訊ねた。

 この刀が何故ここまで強い力を放つのか、そして何よりもどうやってこの刀を使って陰摩羅鬼を封印したのか。その経緯がまるでわからなかったからだ。

 すると清佳はゆっくりと答えた。

 陰摩羅鬼復活まで、残り少しだと言うのに。


 「この刀は特別に打たれたものなんですよ」

 「特別」

 「はい。名は不明ですが、特殊な技術を持つ刀鍛冶が打ったものとされておりかな刀はずっと祀られるために奉納されてきました。それから時が経ちこの刀は使われる事なく付喪神が宿った。その過程でこの神器は妖刀と化したのです」

 「使われなかったから、己が認めた相手にしか使わせなくなった?」

 「この刀を初めて使った人が関係しているのです」

 「もしかしてその人が陰摩羅鬼を封じた……」

 「はい」


 陰摩羅鬼を封じた人物。

 その答えはあっさりしていた。


 「私の遠い先祖。巫女と崇められていたこの地の領主であり、武人です」

 「巫女で武人?似つかわしくないな」

 「ええそうですよね。その方は妖怪と心を通わし、禍を払うために戦っていたそうです。その際強力な妖怪が現れたと聞き、戦ったのですがあえなく消滅は出来ず、封印がやっとだったそうです」

 「それでその刀を使ったのが先祖だったと……」

 「はい。その方はとても強い力をお持ちだったそうで、寛容な気持ちの持ち主でもあっそうで、刀が応えてくれたのだと聞かされています。この刀は元は特別な神気を持った玉鋼から生まれ幾年もの間使い手を待ちわびた。刀であるからには使われたいと思っていたのでしょう。ですがその方が亡くなり再び長い眠りについた。この子はずっと眠っているんです。真の使い手が現れるまで。継承者が導かれるまでの間、ずっと……」

 「そうか」


 神妙になる空気。

 しかしそん時は一瞬の間も開けずに開口した。

 それは黒き姿に禍々しい妖気を蓄えた漆黒の翼。

 紫色をした羽毛と金の嘴。

 阻む壁をは黒い妖力の現れ。

 そう目覚めたのだ。私たちが話をしている間に、奴が。


 「これが、陰摩羅鬼!」


 ◇◇◇


 その姿はからすを極端に太らせ、巨大化させたようなものだ。

 言葉のない叫び。「グギャー!」と言う頭に響くような図太い鳴き声が聞こえていた。


 「白江!」

 「いや、まさかこんなに早くはんで復活するなんてね」


 私は白江に聞いたが白江もここまで早く復活するなど思っていなかったらしい。

 現状、こいつを倒す方法はわからない。

 いや刀がなければ別なのだが、無理そうだ。


 「清佳さんだっけ」

 「清佳でいいですよ。何ですか!」

 「刀は任せた。それなら白江!」

 「何かな?」

 「こいつはどうしたら封印出来る。私はこの手の妖怪には詳しくないんだ」

 「それなら彼女の方が詳しいんじゃないかんけな?」

 「清佳!」


 私は叫ぶ。

 すると清佳はこう言った。


 「伝承では黒き禍の衣纏し漆黒の翼。その頃も剥がれ落ちて、僥倖ぎょうこうの勾玉を落とす。って聞かされてます。つまりは」

 「あの妖気を刀で切り裂いて、本体を倒して心臓をえぐり取るってことか!」

 「おそらくは」

 「時間は稼ぐ。その刀じゃ駄目ってことは何か意味があるはずだ!」

 「僕も協力しようざぁ

 「頼むよ」


 私と白江は刀が抜けるまでの間何とか時間を稼ぐ。

 そのために共闘するのだ。


 「ではいへーくぞ!」


 白江は炎を両手から出して、それを投げつけた。

 狐火ってやつだろうか。

 妖力をため込んで作り出されたそれは本来なら鳥には有効なはずだが、そんなもの関係ないとでも言いたいのか陰摩羅鬼はその巨大で繰り出した禍々しい風で消してしまう。


 「やるねえ。おっと!」


 陰摩羅鬼はその翼を広げて突風を起こしはためいた羽を利用し白柄を薙ぎ払う。

 その攻撃を軽い身のこなしで回避すると、今度は木々を使って陰摩羅鬼に飛び蹴りを喰らわす。

 これは流石に効いたのか、陰摩羅鬼は身をよじると、翼を使って空へと舞い上がる。


 「まずいぞ。このまま街に逃しては大変なことえれーこんになる!」

 「逃がしはしないよ」


 私は翼を広げて大空に舞い上がり、右手に光の魔法を込めた。

 そして短く「《ライトソード》」と口ずさむと、右のてのひらを中心に光の粒子が魔法を描き光の剣を作り出した。

 私はそれを振り陰摩羅鬼の進路を阻む。


 「ギャァァー!」

 「黙れ」


 短い言葉ののちに陰摩羅鬼の顔目掛けて剣を振り下ろす。

 陰摩羅鬼は白江にやったように突風で弾き飛ばそうとしたが、私は物ともせずに軽く立ち回り陰摩羅鬼の右翼を切り落とした。


 「グジュギャャャァァァ!」


 私はすぐさま近づき陰摩羅鬼の視覚を奪い、そしてさらに高速かつ短い文で「《ダークチェーン》」と発すると左手から黒い鎖が出現し、陰摩羅鬼の体を縛り付け地面に拘束する。


 「これでしばらくは……」

 「駄目です、それでは!」

 「えっ?!」


 私が《ダークチェーン》の魔法で拘束したはずの陰摩羅鬼は鎖に拘束されているにも関わらず、それを引きちぎらたんとばかりに暴れる。

 そして気になったのは、私の力が触れたと言うのに陰摩羅鬼の力が弱まっていないところだった。

 そしてその疑問を確信に変える現象が起きた。

 陰摩羅鬼の引き裂いたはずの右翼がみるみるうちに再生するではないか。それに加えて奪った視力も回復しているように思える。


 「如何して!」

 「此奴こやつの力の源は人々の持つ不安や自然界に流れる陰の気。それに加えて死体から漏れる負のエネルギーを妖力として変換しとる化け物じゃん。それ故に此奴を真の意味で倒すには封印か、それとも心臓をえぐり取り根底から消滅させるしかねえ」

 「でも封印しても……」

 「また蘇るかも知れん。そうならないじゃあんようにするにはここで奴を完全に……」

 「消滅させるしか。でもそのためには……清佳!」

 「駄目です!」


 私は叫んだ。

 しかし否定的に言葉を述べる清佳。

 未だに刀は抜ける気配がなく、その手には焦りが滲んでいる。


 「やっぱり私には……」

 「清佳……」

 「油断するでねえ!」


 そう叫ぶ白江。

 そう陰摩羅鬼は分かっていたのだ。

 馬鹿ではない。かつて自分を封じた羊頭がそこにあるのだ。妖刀を再び使われぬように動く。それは当たり前のことで、私でもそうするだろう。

 そのため陰摩羅鬼の狙いは私達ではなく、刀を持つ清佳だった。

 目障りな私達には構もせずに清佳目掛けて襲いかかる陰摩羅鬼。

 急な攻撃に対処出来なかったのか、清佳は狙われその漆黒の翼で吹き飛ばされ、木々に叩きつけられる。

 しかしその瞬間に飛び出していた白江が庇った事で清佳は無事だったが、かなり疲弊していた。そして白江も……


 「白蔵主様!」

 「白江さん!」

 「何大丈夫じゃん。それより刀は?」

 「あっ、はいここに」


 と心配する鎌鼬かまいたちと清佳。

 しかし白江は心配かけまいと刀に注力させていたが、私のからは白江のダメージと妖力の消費が尋常ではなかった。

 多分猛攻撃は受けられないし、反撃もできまい。

 ならばやることは一つだ。


 「清佳!」

 「は、はい!」

 「刀を私に!」

 「えっ?!」

 「早く!」


 私は急かす。

 すると清佳は焦ったように私に《妖語》を投げ渡すと私はそれを持っね陰摩羅鬼から瞬時に離れた。

 すると陰摩羅鬼は私の方に向き直り、私は《妖語》を構えた。

 すると刀から強大な力が流れ込んでくるのを肌で感じた。

 そして私はそのまま叫ぶ。


 「力を貸せよ、妖語!」

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