4ー2 邪を斬る刀
「ふーん、ここが山梨県か」
私はその日、山梨県に来ていた。
長閑な街並みが香る田舎町。私は一人でここに来ていた。理由は単純明快だ。単なる気まぐれの旅行。つい半年ほど前にこの日本に戻って来て、高校生活が始まるまでの間に少しでもいろいろなところを見て回りたいと考えたからだ。
私がいるのは城下町のような趣きを誇る田舎で、昔ながらの駄菓子屋や畑、小川が流れる。
そんな町にやって来た私は特にすることもなく、ふらふらと歩いていた。
大きな屋敷がいくつもあり、壁が並ぶ。
私は感心しながら楽しんで歩いていた。
その時だ。
「うわぁー!」
とてつもない叫び声が聞こえて来た。
私はその声に反応して、瞬時に駆け出していた。そしてその声の主は一際大きな屋敷を持つ敷地の中から聞こえて来ている。
私は何かあったのかと不安に思いながら、勝手にその敷地の中に踏み込んだ。
◇◇◇
「この化物め。消え去れ!」
次に聞こえて来たのは女の子の声だった。
私は様子を伺うようにして立ち止まり観察する。
そこには倒れ込む中年の男の人と高校生ぐらいのポニーテールの女の子がいた。しかしその女の子の手には物騒な刀が両手で握られ、その目線の先には何かが蠢いていた。
私がよく見ると、そこにいたのは
普段は大人しい性格で、こちらから手を出さなければ逃げ出してしまうほどに臆病なはずなのだが、どうやら様子が違うらしい。
「何かを訴えかけているのか?それにしてもかなり状況が危ういな」
私はそう口に漏らす。
そんなこと露知らず、少女は刀を振り上げて鎌鼬目掛けて振り下ろした。しかし鎌鼬はそれを軽く躱し、攻撃しようとするが、私はいてもたってもいられなくなり鎌鼬と少女の前に立ちはだかる。
「覚悟!」
「キュンキュン!」
「止めろ!」
私は刀を受け止め、鎌鼬を覗けば右足で牽制した。
これにより少女は驚き、鎌鼬は背後へと下がる。
私は急に飛び出して刀を受けたために多少血が出るが、吸血鬼性によりすぐさま再生した。その様子を見た少女は「き、君!」と叫ぶが私はそんなことを無視して鎌鼬を見た。
鎌鼬は警戒して毛を逆立てており、かなり興奮している様子だ。
私は鎌鼬を宥めるように、しゃがみ込むと優しく声をかける。
「大丈夫だ、私は敵じゃない」
「キューーーン!」
「何か言いたいことがあるんだろう。私なら聞いてあげられる、話してごらん」
「ちょっと君、そいつは妖怪だ。人間に災いをもたらす者達だぞ!」
「それは違う!妖怪だからと言って人に害なす存在だと固執するのは間違いだぞ」
と私は訂正して、鎌鼬が落ち着くのを待つ。
次第に毛を逆立てるのを止め、落ち着いた様子の鎌鼬。鎌鼬は、私の言葉を快く聞き入れ、動物語から人間の言葉を話し出した。
「や、やっとまともに話を聞いてくださる方が……ありがとうございます。実は、皆様方にお願いがあって参ったのです」
「お願い?」
「私達に何か用ですか?」
「はい。私は使いのものなのですが、実はこの土地を兼ねてよりお守りしていただいてきた貴女方様に如何しても倒して欲しい妖者がおりまして、お願いします。何卒、何卒お願い申し上げます」
「妖ですか……それはどのような?」
「はい。
「邪を斬る妖刀?」
私は首を軽く捻り、考え込んだ。
そう鎌鼬は丁寧に頼み込んできたのだった。
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