第4話 妖刀を持つもの

4ー1 妖刀との出会い


 これはまだ四月の頃の話。

 私は紅茶をティーカップに注ぎ、午後のティータイムを満喫していた。当然のように今日も今日とて蒼は家にやって来ては、棚にずらりと並べられたアンティークの雑貨を見ては私に訊ねてくる。

 まるで周りのもの全てに興味津々な子犬が尻尾を振っては催促するように楽しんでいる。

 その光景をほぼ毎日のように体験している私は、最初の頃は丁寧に説明していたがだんだんとその頻度も下がりさほど珍しく無くなっていた。


 「いつ見ても変なものばっかりあるね。この家」

 「変って……アンティーク品ばかりなんだがな」

 「もしかして買ったの」

 「いや貰い物だ。そう言った古くて高級なものが好きな吸血鬼がいてね、そいつに押しつけられた」

 「へぇー、いい友達だね。ん?ルーナちゃん、これ何?」


 蒼が今まで見せたことないような不思議そうな反応を示した。

 それは今までアンティーク品ばかりに目を奪われていた蒼が気がついたものだ。

 それは刀だ。

 見事な日本刀が、棚を背に丁寧に立て掛けられていた。アンティーク品とは少し離れた場所に置かれ、野球のバットや修学旅行で男子中学生がこぞって買うような木刀と似た雰囲気を放ちそこに鎮座していた。 


 「これ日本刀だよね?」

 「ああその刀ね」

 「流石に偽物でしょ?」

 「いや、確かに名目上本物の日本刀だ。まあ少し違う毛色だけど」

 「えっ?」


 ぽかんとした顔で蒼が私を見つめる。

 私はそんな彼女に突飛な話をするように話した。


 「確かにそれは本物の日本刀だ。待ってみればわかるよ」

 「こう?……って、重!」


 蒼はずしっとした重さのある刀を持って驚いていた。

 私は「ざっと一キロはあるからね」と淡々と呟き、蒼は刀を元の場所に戻す。


 「ね、本物だっただろ」

 「う、うん。でもよく日本刀なんて持ってるよね、家宝か何かなの?」

 「いや、違うよ。それにそれはただの日本刀じゃない。見た目だけじゃ絶対に本物とは思われない代物だ」

 「えっと、それって?」

 「つまりは家の外に持ち出しても大丈夫だと言うことだ」

 「それはダメだよね!確か銃刀法違反で捕まるよね!」

 「いや、普通の人にはそれはただの模造刀にしか見えない。もちろん私達にとっても見た目や重さが本物そっくりなだけで、劇で使う偽物と同義だ」

 「えっ?!そうは見えないけど……でも、これ本当に人が切れちゃうんじゃないの?」

 「だからそうはならないと言っている。それは普段は見せかけの模造刀。けど、ある特定状況下においては本物同然の切れ味を見せる。もちろん、人や動物は切れない」

 「はい?それ、どう言うこと?」

 「それは妖刀だ。名は、《妖語あやかしがたり》。古くから伝わる刀で自我を持っているとされる刀。数多の禍を払い除け、妖を切ってきたとされる刀。山梨のどこかにあるとされる刀鍛冶の一族が打ったとされているそうで、私もよくは知らないんだ」

 「へえー、何だか凄そうだね」

 「ああ。その刀は本当に凄いよ。私もたった一度しか抜いたことはないが、その刀は持ち主を自らが選びその力を貸す。そして人や動物を傷つけることが出来ず、妖や魔、呪いや禍の類を問答無用で切り裂くことが出来るからな」

 「よくこの刀を持ってるね」

 「それは託されたんだよ。昔」

 「昔?」

 「うん。あれは私が日本に戻ってきて、しばらくしてのことだったかな」


 私は振り返るように回想に思いを馳せるのだった。


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