2ー4 龍の宝玉
私は黄色との実験を終えた後、図書室に向かっていた。
理由は簡単だ。黄色との実験中、黄色が見せてくれたジュラルミンケースの中に丁重に保管されていた魔力を有する素材。その事について蒼に聞くためだ。
因みに黄色の実験は、無事成功した。
それに詳しい事はわからない。無論専門外だからだ。だから、私からは特に何も言えないし黄色の説明だと専門的すぎて、分からない。流石は、学年一位。
「ここが図書室か……入学して以来来る事はなかったな」
と率直な感想を述べる。
この学校は図書室もそれなりに大きめな規模を誇る。が、私は家にも立派とは言い難いがそれなりに書斎と言うか書庫を持っているから、わざわざここに来る必要性もなかった。だからこの場所を訪れるのは初めてだ。
ガラガラガラガラガラ
ガラガラと言うさほど古くもないのに聞こえる効果音をバックに私は図書室の中をぐるりと見回す。
中は県立図書館のそれに近く、
その迫力は圧巻で、生徒数もそれなりにいるため皆憩いの場の様に放課後を過ごしていた。が、中を見回しても流石にもう遅い、人影も少なくぱっと見、せいぜい二、三人で下校のために片付けて帰ろうとしている生徒ばかりだった。
「さて、そんなことよりも蒼はっと……」
と見回していると、受付の中に一人の生徒がいる事に気がついた。しかし、蒼ではない。
その生徒は机に突っ伏してすやすやと眠っている。起こさなくてもいいのだろうか?
と、考えていると不意に私の名前を呼ばれた気がした。
「あれ、ルーナちゃん?」
振り向いてみると、そこにはこれでもかと両手でたくさんの本を積んでいる蒼の姿があった。
やけに分厚くて重そうな本から薄い絵本、ライトノベルと様々でとても大変そうだった。
「手伝おうか?」
「大丈夫、大丈夫。これぐらい余裕だよ」
と言ってニコッと微笑むも、本を高く積みすぎて前もあまり見えていないようだ。
(いや、流石に一度に運びすぎだ……仕方ないか)
「貸せ」
「?!ルーナちゃん」
私は強引にルーナが運んでいた本のうち、おおよそ半分の量を抱えた。
流石にこの量だ。見るに見てられない。
「勝手に手伝わせてもらう」
「ルーナちゃん。ありがとう」
蒼は私にそう言った。
別に勝手に手伝うのだ、感謝される筋合いはどこにもないはずだ。でも、何だか嬉しかった。
「それでルーナちゃん、どうしたの急に?」
「急にって?」
「だって図書室、もう閉館前だよ?もしかして、私を待っててくれたとか!」
「いや、別にそう言うわけじゃ」
「嬉しいな。委員会のある日って、帰りが遅くなりがちだから友達に悪いなーって思ってたから」
「そ、そう?」
「うん。だからルーナちゃんが居てくれてよかったよ」
「別に私は毎日待ったりはしない……こっちにも生活がある」
「お金的な?」
「いや、食材やら家の事やら色々だ」
「なるほどね。じゃあ今日はたまたまなんだ」
「まあそう言う事になる。丁度蒼に大至急聞いておきたいことがあったからな」
「私に聞きたいこと?」
「ああ」
と、私は話の前段階を作る。
これから話すのは結構な
「ところでルーナちゃん?私に聞きたいことって」
「ああそうだ、うーん。ここじゃ何だから終わってからにしようか」
「うん。じゃあ、ルーナちゃんの家で」
「えっ?!私の家」
「うん。ダメかな?」
「それは構わないけれど、蒼は一度家に帰ったらどうだい?」
「うーん、別にいいよ。お父さんもお母さんも呑気な人達だし、私が魔法少女だって知ってるから」
「えっ?!」
「だって私が魔法少女になった時、一緒にいてくれた人が両親に説明してくれたから、最初は変な顔されたけど今じゃ普通だよ。まあ、ほんの三ヶ月前なんだけど」
「あっ、じゃあ蒼はまだ魔法少女になった日が浅いのか」
「うん」
「へぇー、じゃあ蒼は元々素質があったんだね、魔法の勉強とかはしてないんでしょ?」
「あっ、う、うん」
「別に気にしなくてもいいよ、普通の人には縁もゆかりも無いような事なんだから……と言う事は、蒼は天界からの使者、つまりは精霊と契約した事になるのかな?」
「うん。私は水の力を操る精霊と契約したよ!」
と、一瞬だけ顔を曇らせた蒼を励まして自身の生い立ちを語る。
その様子を見て元気そうだと分かり安心した。さて、ここから先の話はまた後でだ。
早く終わらせてしまおうと、私達は急ピッチで作業を進め、そして全て終える頃には日は完全に暗がりに落ちていた。
◇◇◇
「さてと、今日は昨日のカレーの残りと簡単なサラダと……」
「それじゃあ、いただきまーす!」
「いただきます」
私は蒼の分の夕飯も作り、揃って一緒に食べた。
私は食べながら話をする事にした。
「それで蒼、話があるんだ」
「話って?」
「さっき言おうとしていた事だよ。多分気づいてると思うけど、黄色のこと」
「黄色ちゃん?」
「うん。正確に言えば黄色が買い取ったって言うあのジュラルミンケースの中に入っていた宝玉のこと」
「宝玉?」
「あれ、もしかして見てないの?あの青い宝玉」
「いや、見たけど……あれがどうしたの?何かの魔術的な素材でしょ?」
「いやあれは単なる素材じゃない。あの宝玉は龍の宝玉だ」
「龍の、宝玉?」
ぽかんとした顔でスプーンを口元に当てる蒼。もしかしたら、本当に知らないのかもしれない。話によれば蒼はまだ魔法少女になってたったの三ヶ月……つまりは魔法について何も知らないと言うことだ。
だから知らなくても仕方ないのかもしれないが、一応は水の魔法を使う魔法少女なら知っておいて欲しかった。
「いいかい蒼。龍の宝玉っていうのは、その名の通り龍の所有する特別なもののことさ」
「それって絵本とかで龍が持ってるやつ?」
「うん。私もあんまり詳しい事は知らないし、過去に二度しか見たことがないがあれは龍が認めたものに与えるもの、もしくは自身の力を高めるために存在しているんだ。
「へえー」
「だけど、勝手に持ち出したりするのは
「そんな!じゃあ黄色ちゃんは?」
「いや、黄色は悪くはない。あの龍の宝玉からは既に魔力の痕跡は絶たれていた。おそらくは単なる空っぽのガラス玉になっている……もしくはその魔力を別の手段で抜き取ったかだ。だからあれはもう、何の害もない偽物だ」
「そんな!」
「ここで問題なのは、黄色が騙されたことと、もう一つ龍の宝玉を持ち出した奴がこの街にいると言う事になる」
「そんならでも、何かの間違いなんじゃ?それこそ、龍から貰ったとかで……」
「確かにその可能性も中にはある……けど、龍は自身の持つ宝玉の力を清い心の持ち主にしか貸さないとされている神聖なものだ。だからそんな汚い真似をする奴が真っ当に得たとは考えにくい」
「た、確かにそうだね」
「だからと言って私はどうこうはしないが、蒼はどう思う?」
「もし、それが本当なら……きっと龍は怒ってるよね?」
「多分」
「そしたら、この町は……」
「龍の怒りを買ったものがいる限り、この街はその標的になるだろうな。そしたらこの街はきっと大変な事になるだろう、それこそ全く関係のない人達にも……」
「そんな」
「だから私は聞きたい。蒼ならどうする?」
「わ、私なら?」
「そうだ。私はこの事態をどうにもできない。理由はこの町のことをあまり知らないからだ。勝手なことをしたと言われて、敵を作るのも尺だ。だから出来れば蒼の力を借りたい。頼む」
「ルーナちゃん」
私はそう頼み込み、蒼は迷った様子を見せる。
確かに怖いだろう。だが、誰かがやらなければならない事に変わりはなかった。それを重んじてか、蒼の決断は思った以上に早かった。
「わかったよ、ルーナちゃん!」
「蒼。ありがと」
「いいよ、いいよ。だって友達でしょ?それに私だってこの町を守りたい。だからだよ!」
「そうか」
「でもその前に」
「うん?」
「ちゃんと腹ごしらえしないとね、じゃあもう一度いただきまーす!」
「そ、そうだね」
と言って私と蒼は再び食事に手をつけるのであった。
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