2ー2 テニスっ子
その日のお昼のことだった。
「いただきます」
私は自分で作って持ってきたお弁当を一人食べていた。
今日のメニューは白米に梅干しという昔ながらな日の丸に、卵焼きやタコさんウインナーなどが主役を奪い合っている、至って普通のお弁当だ。しかし、そんな世界に一人の旬人口の存在が来訪、今日は珍しく鳥の唐揚げが
「うん。我ながらいい味加減、衣加減」
一人関心と感嘆に身を包み、
そんな折だった。
私が丹精込めて作り上げた唐揚げを食べようとした時、不意に誰かが私の名を呼んだ気がした。その声の主を探して私は声のした方、つまりは教室の扉を見やった。そこには今朝初めて顔を合わせた
朱音は私の姿を見つけると、手を振って合図を送り教室の中に入る。
「よーっす、ルーナ。一人で食べてんの?」
「まあ」
「へぇー。じゃあ私も一緒に食べてもいい?」
「それは構わないけど。どうしてまた急に」
「ふぅん?」
朱音は焼きそばパンをくわえたまま、不思議そうに首を傾げる。
「蒼や黄色とは一緒じゃなくていいのか?」
「ああ、それね。二人は科学室にいるよ」
「か、科学室?何故……」
「さあね。多分また黄色が何かしようとしてるから、それについて行ったんじゃないの?」
私は目を丸くした。
そんな怪しげな話に対して平然と協力する蒼も蒼だが、黄色の行動も何故か不気味で嫌な危機感を感じた。
「朱音は行かなくても良かったのかい?」
「私?私はいいよ。別に興味ないし」
「そうなの?てっきり、そういったオカルトにも興味あると思ってた。だって魔法少女とか吸血鬼とかに反応してたから」
「ああ。吸血鬼はともかく、魔法少女ならこの街に蒼を含まなくても後二人は知ってるし、それに蒼の友達は私の友達ってね」
「はあ?」
何とも楽観的な思考の持ち主だ。
しかしそれはこちらもありがたい。お互いのことを気にしなくていいからだ。と、一人思い私は唐揚げにかぶりつくのだった。
◇◇◇
「そう言えばルーナって、部活入ってんの?」
「部活?いや」
唐突にそう切り出した朱音と否定する私。
それを聞いた瞬間、パッと明るく表情を緩める朱音の姿を見た。
私は何となく想像もついていたが、一応とまでに聞いておく。
「そう言う朱音は如何なの?何か部活をやっているのかい?」
「うん、やってるよ。私はね、テニス部に入ってるんだ!」
と、勢いよく発言する。机を乗り出して、私の顔をじっと見つめる。その瞳はキラキラとした高揚感に覆われていた。
私は無表情のまま「そうなんだ」と呟き返すが、朱音はぐいぐいと話を進める。そう、これは部活の勧誘である。
「部活はいいよ。ねえ、ルーナも入らない?是非ともテニス部に!」
「何で?部活は個人の意欲を高めるために行うもので、半ば強制的にするものじゃないはずだけど」
「そうだけどさ。部活に入ったら友達も増えると思うよ?まあ、テニス部はあんまり人がいないけどさ」
「つまりは人数集めのために誘ったと?」
「えっとまあそうだけど……蒼や黄色には断られたし、あっでも別にそのためにルーナに近づいたわけじゃないよ!」
「それはわかってるよ」
と返す。
仮にも私は吸血鬼であり魔法少女の血を引いているのだ、相手の心の
「ねえ、如何?一緒にやろうよ、テニス!」
「遠慮しておくよ。私はテニスをしたことがないんだ」
「大丈夫!初心者にも優しいのが、うちの部だから!」
「それに何よりも、私は普通とは違うんだよ。亜人だから……その、普通の人とは
「いいよ、いいよ!それにその言い方少し濁したよね?何で」
「それは、まあ……
「それぐらいなら問題なし!ねえねえ、今日の放課後テニスコートに来てよ!待ってるから」
そのタイミングでお昼休みが終わる。
朱音はすっと席を立つと、手を振ってそう流す。私は、「ちょっと待って!」と言うが朱音は既に教室を出て行ってしまい、私は呆れて突っ立っていた。
◇◇◇
「と、言うことでルーナ・アレキサンドライトさんです。私の友達なんだけど、いいよね?」
「うん。いいよ」
「いいぜ、相手してくれるよな」
「計算完了。実力はまあまあと言ったところか」
「あの……」
と、かなりの歓迎ムードだ。
それにしても朱音がかなり主軸となってこの場を回しているらしい。それに人数も少ない。朱音の話だと部員数はギリギリで、今日来ていない人達は実力はあるけど他の部活や委員会、バイトなどでいないそうで朱音も委員会や家の手伝いなどでたまにしか来れないのだとか、しかし持ち前の明るさとリーダーシップの統制からかなりの信頼を獲得しているのだとか。つまりは期待の新人、と言うわけだ。
そんな人が連れてきたんだ、私もきっと凄い人なのだと思って期待しているようで悪いが私は全くなテニス初心者だ。イギリスには住んでいたが、それでも見かける程度がせいぜいだ。
「よろしくね、ルーナさん」
「よしまずは軽くランニングだルーナ。みっちり鍛えてやるからな」
「私の組んだ練習メニューをしっかりと行えば、その分だけ必ずを力になる」
「あのだから、私は今日だけで……」
「まあまあ、みんなやる気になってるんだからさよしそれじゃあ行くよ!掛け声もしっかりとね!」
「「「はい!」」」
その息のあった掛け声に私は唖然として、「嘘だろ」と落胆の声をあげてしまった。
ランニングはテニスコートの周りを大体十週程度走る。
朱音のペースで走るからどれくらいかと思ったが、みんな一矢乱れることのない動きで軽やかに走る。私もそれに合わせて一番後ろ、最後尾から通常運転で本当に軽くジョギングする。
そしてランニングが終わると今度は筋トレだ。腹筋や腕立て、背筋などと言った基礎的なものから二人で一組となってするものまでと様々だ。これも難なく終えると、いよいよテニスのラケットの素振りだ。
「ルーナはラケット当然持ってないよね?」
「まあ」
「じゃあ私の呼び貸してあげる」
「ありがとう」
と朱音から予備のテニスラケットを借りる。
持ち方や使い方はよくわからなかったので、初めに朱音からある程度を習ってとりあえずさっきの威勢の良い人とラリーをする。
「
「こちらこそ」
「まずは挨拶がわりだ。とりあえずどれぐらい出来る見てやる」
「ラリーって、そんなに本気でやるものですか?」
「私はな。よし行くぞ!」
今にも倒すと言った本気さが先輩からは感じられた。それを他の二人の部員。眼鏡をかけたデータマンの二年生、
私はその打球を見逃すことなく追いつくと、テニスのやり方を思い出す。
(えっと、確かテニスって相手のコート内にボールを返して相手が取れなかったら得点になるんだっけ……)
と大まかな念頭を置いて、力強くラケットを振り切った。
すると球は狙った軌道を描いて、コートギリギリをついて落ちる。その打球に秋原先輩はついてこれずにただ呆然と口を開ける。
「ま、まじかよ」
「えっと、こんなのでいいですか?」
「あ、ああ。間違ってはいないが、くそ!もう一回」
「いや待て秋原、ここは私に任せろ」
「和泉!」
「相手のデータを取ろうと思う。なに、一度くらい単なる偶然だろう」
「それはどうかな?」
朱音は不適にそう言い放ち、今度は和泉先輩がコートに入り際どいサーブを打つ。
しかしそれも完全に見切り、打ち返すとやはり困惑した表情を作る。もちろん、あくまでも能力を解放していない。普通の人間の状態だ。ただ、これくらいのことが出来なかったから、吸血鬼や魔法少女なんてやってられないだけである。
「次は誰ですか?」
「えっと、じゃあ私が……」
「いや、私がやるよ。いいよね、ルーナ?」
「それはいいけど」
「そうこなくっちゃ!」
茅瀬さんが手を挙げて示してくれるが、それを朱音が止めた。そして笑顔で喜ぶ。
ついに朱音との勝負?勝負か。
「なかなかやるね、ルーナ」
「まあ、ぼちぼちかな」
「それじゃあ、行くよー!」
剛速とも呼べる程に力強くて速いサーブを朱音は平然と放つ。私はそれに追いついて打ち返そうとするが、ラケットから滑り落ちるかのように打球はコートに着地し、金網にぶち当たる。
「えっ?!」
「どう、ルーナ!」
「いや、朱音って普通の人間だよね?」
「うん。もちろん、改造人間でもありませーん」
と、お茶目に言ってみるがどうにも信用出来ない。
以上に発達した運動期間の持ち主とでも言えばいいのか、そう故障されるのかは知らないがあの技術は明らかに他の二人とは段違いだ。
「ねえ、朱音っていつからテニス始めたの?」
「うん?中三からだけど。それまではいろんな部の助っ人をしてたし、家では実家のラーメン店を手伝ってるよ」
「なるほど」
と感心したが、これはまずい。
と言ってるそばから次のサーブが放たれる。今度は打球のコースを予測して、打ち返す。しかしそれは見切っていたのか、朱音はボールに新たな回転をかけ急激な変化を生む。スライスと呼ぶやつか。
と、あっという間にテクニックでは優先されてしまうが、私も負けてはいられない。
あらゆる知識と身体能力を限界まで引き出そうとする。まあ、本当にはしないがそれでも朱音相手ならもう少し強くてもいいかもしれない。
「朱音、こっちもサーブが打ちたいな」
「うん?あっ、いいよ。じゃあこれで最後にしようか」
ボールをこっちに寄越す朱音。
そして私はそんなボールに強い回転をかけ勢いよく、サーブを放つ。狙うはコートの端だ。
しかしそのボールに一気に追いついた朱音は簡単に返す。しかしそのボールを今度は打ち上げる。
「ボレー!」
「まさか、やったことないはずじゃ」
「やったことはないけど、ある程度のルールなら」
「まあ、そうこなくっちゃな。でも、前衛がガラ空きだよ!」
と、思い切りジャンプしてスマッシュを放つ朱音。
そして放たれた朱音のスマッシュ。が、それも予測済み、むしろこれを待っていた。
私は一気に前衛まで走り込むと、ラケットを起用に高い見様見真似というか知識として知っているだけの技。回転をコントロールして、放つは……
「えっ?!」
「決まりだね」
私の放った渾身のドロップショットは前衛にいたにも関わらず、着地の瞬間を狙っての無回転にまんまと乗せられ、敗北を喫したわけではなく引き分けという形となった。
「いや、凄いねルーナ」
「まあ」
「どうだった、テニス」
「楽しかったよ」
「じゃあ、部活に……」
「それは遠慮しておくよ」
「えー」
と嘆く朱音に対して、私は「でもやと口ずさみ
「また来てもいいかな、たまには」
「うん。いいよ!みんなは」
「大歓迎ですよ!」
「今度は私が勝つからな!」
「それまでにはデータを洗いざらい分析しておこう。出来れば次やるときは、私の得意なダブルスでな」
「はあ」
と、私は久々にいい汗をかきつつ、それなりに満喫した放課後を過ごせて良かったのだった。
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