第2話 学校へ行こう

2ー1 退屈

 春。

 桜の花が芽吹き、暖かな日差しと風が今日も優しく吹き抜けていくこの季節。と、私の読んだ詩人の本には載っていた今日この頃。そんな一節をふと頭に浮かべながら、私は非常に退屈な日常を過ごしていた。


 もう四月も半ばとなったのだ。

 オリエンテーションも終わり、いよいよ授業の開始。しかしその授業の内容も、当に習い終わったものでしかなく、意気揚々とこの学校に入学したはいったというのになんら代わり映えのしない、そんな毎日の連続だった。

 しいてあげるのならば、昨日大和蒼と出逢った事ぐらいだろうか。それぐらい私の日常は退屈である。しかしそれは逆に捉えれば、平和であることに変わらない。

 今までの日常が決して殺伐としていたわけではないが、ここまで退屈だと暇としか言い難い。


 しかしその理由として最もなものがある。

 それが私が吸血鬼の血を引いているからだ。吸血鬼という種族は長い時間を生きる生物だ。そのため、時間の流れが極端にゆっくり……なのだが、私は身体は人間と同じなので、時間の流れも大抵は普通の人間と同じなのだ。つまりはそれが原因で、この授業の進みも同じということになるので、それだけ暇になるのだ。第一、私は普段から勉強をしているので、過去の記憶を読み解くことにより、私は授業の内容を紐解いている。

 そのため、私は学校で習うことが退屈でしかないのだった。


 キーンコーンカーンコーン!

 キーンコーンカーンコーン!


 授業が終了したことを告げる、昔からのチャイムが鳴る。

 まあ、この音を聞いたからと言ってどうということはないのだが、この音を聞いた直後には一斉に生徒たちは立ち上がり思い思いに教室を出たりはいったりし、友達と会話に弾む。それを観ていると、少し羨ましくなったが私は不意に窓の外を眺めては一人孤立してしまう。


 「はあ……」


 ふとため息を漏らして、長い髪を撫でる。

 そうして窓の向こうの景色にある桜の葉が落ちるのをじっと眺めている時だ。誰かが私の名前を呼んだ気がした。


 「ルーナちゃん、いる?」


 それは聞き覚えのある声で、忘れはしなかった。あの明るい言葉は大和蒼のものに他ならなかった。私は嬉しさ半分と疑問半分という具合に教室の扉の方を振り向くと、そこには大和蒼の姿と他に二人の少女たちの姿があった。

 一人は赤茶けた髪をポニーテールにしている元気そうな少女。もう一人は、黒く長い髪とあどけない瞳が特徴の大人しそうな子だった。


 蒼はそんな二人を引き連れて私の前までやって来る。

 そして私の席にやって来ると、唐突にこう切り出した。


 「ルーナちゃん、昨日はありがとね。お陰で助かったよ」

 「うん?ああ、別に大したことはしていないよ」


 と私は返す。

 しかし蒼はそんな私の表情を確認した後に、なぜか嬉しそうにしていた。それは感謝の表れである事ぐらいはすぐに分かった。そして蒼は隣の二人の少女について紹介する。


 「ルーナちゃん紹介するね。この二人は私の友達の……」

 「よっす。私、早乙女朱音さおとめあかね。蒼とは幼馴染なんだ。よろしく!」

 「うん。よろしく」

 「初めまして、ルーナちゃん。私は小鳥遊黄色たかなしきいろ、よろしくね……色々と」

 「う、うん。こちらこそ」


 と軽く挨拶を交わしたが、私はこの二人についてよく知らない。

 なんだかよそよそしさが私の中ににじんで残るが、二人はそんな様子はないらしい。


 「実は昨日ルーナちゃんに会った後に、二人にルーナちゃんのことを話したんだ!」

 「えっ?!」

 「そしたら二人ともルーナちゃんに会ったみたいって言うから連れてきちゃったけど、ダメだったかな?」

 「いや、それは構わないが……もしかして二人とも、蒼が魔法少女だって知っているの?」


 素朴な疑問を並べる。

 すると二人とも頷いたので、私が単なる客寄せパンダになったわけではなくただ単純に会いたかっただけなのかもしれないと思った。


 「これからよろしくな。後、私もルーナって呼ばせてもらうよ。だから私の事も朱音でいいから」

 「よろしくね、ルーナちゃん。黄色って呼んでね……ふふふ、また新しい子が増えて、私の研究も……」


 朱音はを輝かせ、不気味に笑う黄色の姿はあまりにも怖いものを感じてしまう。


 まあ兎にも角にも、これが私の退屈を吹き飛ばしてくれるきっかけになることに変わりはなかったのだった。




 

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