1ー4 友達

 「でもね、アレキサンドライトさん」

 「ん?何」


 カレーを口に運びながら、大和蒼はそんな風に言葉を連ね始めた。

 先ほどの簡単な説明からおよそ五分後。突然今度は違った、暖かな疑問の声色を浮かべた。

 わたしはそれに応した。


 「アレキサンドライトさんが、その……吸血鬼だったことは分かったけど、じゃあ普段はどんな生活をしているの?」

 「どんなと言われても、ごく一般的に……普通に生活をしているとしか」

 「じゃあさ、とかはどうなの?」

 「ああなるほど。そう言うことか」


 と私は一人納得する。

 しかし納得のいかない様子の大和蒼は私の顔をじっと見つめる。私はその視線を感じつつ、その疑問にも答えていく。まあ、これがなのだからな。


 「先ほども話したが、私の父は吸血鬼で母は魔法少女だ。相反する二つの属性、光と闇の力を両に持つ私は普通の人とは違うから、そう思うかもしれない。でも安心して欲しい。私にはからな」

 「はい?つまりどう言うこと」

 「言葉通りの意味だよ。そうだな、じゃあ大和さんの知っている吸血鬼の特徴って何?」

 「えっ?!吸血鬼の特徴」


 少し考えるようにして、顎に手を当てる大和蒼の姿を眺め、何か思いついたのか少しずつ話す。

 まずはありきたりなものだった。


 「えっと、まず吸血鬼っていうのは確か西洋を中心として存在している最強クラスの妖怪……と言うよりは、闇の一族の存在。もとい、魔族だったよね」

 「確かにそうだな」

 「高い妖力、ここでは魔力とも呼ぶけどそれを有していて、空を飛行することも可能」

 「確かに私にも翼はある。もっとも、普段は隠しているがな。あれは、単なる魔力の塊のようなものだから」


 と言って私は背中、と言うか肩甲骨あたりから真っ黒な魔族の持つ翼を展開させた。そして私はそれを瞬時にしまう、と言うよりかは魔力の流れを切って消滅させると、自分で入れた紅茶を一口すする。


 「後は、吸血鬼の由来となったって言う吸血行為とかかな。相手から血を吸うことで栄養を得たり、自分の血を与えることで眷属化したりだとか」

 「ああ、それも私は出来ない」

 「えっと、どうして?そもそもこれが出来なかったから吸血鬼とは呼ばないんじゃ……」

 「確かにそうだ。私にはそもそも吸血行為を必要としないし、そもそも吸血するための吸血鬼特有の鋭い牙もなければ、歯に管も穴も開いていないから、そもそも吸血出来ない。それに伴って、吸血鬼の眷属化……つまりは吸血の際に自身の血液を混ぜ合わせることも出来ないから、眷属も増やせないわけだ」

 「じゃあどうやって生活してるの?吸血鬼って、血を吸わないと生きていけないはずだけど」

 「さっきも見ただろう。私は血を吸わなくても生きていける。そもそも私は血を飲むことが出来ない。光の一族の力が宿っているから、私自身吸血鬼の持つあらゆる弱点や特異性の一部が完全に失われている。だからこうして、普通に食事をとり睡眠をし、休養をとることによって生きることが出来る。私の血液には闇だけでは無く光も混じっているから、下手な事をすれば相手の本質すら失わせてしまいかねないから……」

 「なんだか吸血鬼や魔法少女という用よりも、普通の人に近いね」

 「そうだな。私の体は魔法少女等の光の眷属と契約し、肉体がエーテル体に置き換わり、魂がコアになった存在や、吸血鬼等のように特殊な感情、周囲の悪意や懸念。様々な要因の果てに、独立行動を取れるような種とは違う。完全に人間のそれと同じだ。まあ、生殖活動を行う機関はないし、頭を撃ち抜かれようが心臓を一突きにされようが、闇と光に争い残った吸血鬼の持つ力のうち、私が十五歳の頃より発覚したの力。これによって私の身体は十五歳の頃から全く成長せず……はあ、それから吸血鬼特有のを保有している。後は魔法少女の持つ、と、を有しているし、それぞれの持つ特殊な力として事が出来るぐらいだからな」

 「えっと、その……なんだかよく分からないけど、凄いんだね」

 「すまない。難しい話は苦手だったか。まあとにかく、他に弱点になるようなことは何か覚えているか?」

 「他に?うーん……」


 かなり長ったらしくゴタゴタと難しい話をしてしまった。

 大和蒼は、話についてこれていなかったのか適当な会釈を耳にして、私はこの話を切り上げることにした。そして他の弱点について訊いてみる。


 「えっと、他には確か水の境界を越えられないとか?」

 「私の父が越えられるのに、私が越えられないわけがない。これは遺伝というやつだ」

 「じゃあ大蒜にんにくとか宗教的なものが苦手とかは?」

 「それもない。私は宗教的なもの、つまりは十字架を掲げられようが、突きつけられようが問題ないし、大蒜にんにくならいまさっき食べたカレーにも入っているだろう?」

 「あっ、そう言えば!」

 「他には何かないか?」

 「えっと、後はそうだ!招かれないと入れないとか?」

 「それは場合による。勝手に他人の家に侵入するのは常軌を逸しているし、そのルールを破れば、私は普通に侵入も出来る」

 「なんだか怖いね」

 「それで、他は?」

 「心臓に杭を打たれたら、死んじゃうとか?」

 「それは誰でもだろうが。まあ、私は魔法少女としての力もあるせいで、そんな事では死なないがな」

 「じゃあ……日の光とかは?」

 「それも問題ない。私は普段から外を出歩いているし、学校に行く時もまた然りだ」

 「そ、そっか。じゃあ、さ……私達魔法少女ならどうかな?」


 話の本筋が一瞬で頓挫し、落ち込むかとも少しだけ思ったが今度は自分たちを兼ね合いに出してきた。

 しかしそれに対応する回答は既に持ち合わせている。


 「それは既に自分自身で分かっているんじゃないのか?」

 「それは、まあそうだよね。無理なんだよね」

 「ああ。私には光の攻撃も闇の攻撃も、それに付随するあらゆる弱体や因果をこの身体は受け付けてくれないんだ」

 「そ、そっか……あはは」


 そう絶望の瞳を浮かべ……たかに思えた。

 しかしそれは圧倒的な強者に出会った時の武者震いでもなければ、恐怖でおののいてしまったようには見えない。むしろ、というようにうかがえた。まるでように……


 ◇◇◇


 「ねえ、アレキサンドライトさん」

 「うん?」

 「って呼んでもいい?」

 「えっ?!」


 急な一言に、体が反応してしまった。

 そんな言葉、家族でしか聞かなかったのに。


 「ダメかな?」

 「いや、構わないが。何故また突然。今日初めて話したばかりだというのに」

 「それは……アレキサンドライトさんって少し呼びづらかったから」

 「ああ」


 もっともな理由だ。

 しかしそれに続けてこうも言った。


 「だからさ、私のことも蒼って名前で呼んでよ!私達もう友達でしょ?」

 「友達?友達ってこんな関係で出来るものなのか?」

 「うん。私はそう思うよ!それに何より……」

 「なにより?」

 「ルーナちゃん、可愛いから」


 固唾を飲んだ。

 その時の大和蒼の瞳は、まるでお人形を愛でるかのような瞳だった。とても怖かった。体が身震いした。こんな経験は生まれてこの方初めてかもしれない。

 それからもう一つ加えてこうとも言う。


 「それに私はあんまり、戦うのが好きじゃないから」

 「なるほど。そう言った派閥もあると聞く」


 魔法少女も元々はただの人間だ。

 争いが嫌いなものも多いが、中には好戦的なものたちもいると聞く。まあ、私自身出来れば戦いたくはない。


 「だからね。私はそう言った関係じゃなくて、普通の友達としてルーナちゃんと仲良くなりたいんだ!」

 「私もそうしたい。だが、この街や他の魔法少女たちが放っておかないんじゃないのか?」


 私の懸念はそこだ。

 闇の一族を全て敵とみなして、攻撃してくる輩がいないとは限らない。まあ私自身、そう言ったもの達を返り討ちにする実力はあるが、それで他の人たちが巻き込まれるのは絶対に避けたい。

 しかしそんな不安は一切合算かき消された。


 「大丈夫だよ。し、だからさ」

 「なんだ、その町は!」


 私はそう口走る。

 だがもしそれが本当なのだとしたら、私はこの街に守られている立場なのだろう。だから少し迷ったが、こう切り出した。


 「分かった。

 「ルーナちゃん」

 「何?」


 私は首を傾げた。


 「携帯のアドレス交換しよ!」

 「あっ、ああ。分かった」


 私は携帯(スマホ)を取り出すと、蒼とアドレスを交換した。私の携帯にまた一人、名前が登録された瞬間であった。


 そしてこれが、私と蒼との記念すべき出会いである。


 

 


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