1ー3 生い立ち

 「そうだ。私は吸血鬼で間違いない」


 と私は宣言した。

 すると目の前の少女、大和蒼は私の顔を見て青ざめた顔をすると同時に、いまいち信じ切れていないのか、頭の上にはてなマークを浮かべているようだ。はてはて、どちらかにして欲しいものだ。


 「えっと、その……嘘だよね?」

 「いや嘘じゃない」

 「いやいや、だってあの吸血鬼だよ?闇の一族の中でも一二を争うほどの強力な力を持つ存在だよ。それが何でこんなところにいて……って、そもそも吸血鬼だとしたら血を飲まないと生きていけないはずだよね?」


 と、先ほどまで普通に食べていたカレーを見て違和感を感じたのかそう言いだした。

 しかし私は、そう言われようがどうということはなく答える。

 それは大和蒼の言ったことを肯定するものだ。


 「確かに、だ」


 と、宣言し答えに近い回答をする。

 しかし未だぴんと来ていないのか、大和蒼は首を傾げる。

 まあそれも仕方のないことだと思い、私は答えを言うことにする。なに、答えてしまえばとてもあっさりとしたことだ。


 「つまり私は、ということだ」

 「えっと、まさか!」

 「うん。私は、水の境界を越えることの出来る吸血鬼の父と、元魔法少女の母との間に出来た子供。つまりは、亜人ハーフだ」


 と、いざこういう時もっと高らかに宣言した方がいいかもしれないが、私は何一つ顔色を変えずにただそうポツリと長ったらしくつづった。

 しかしそれを聞いた大和蒼は、私の顔を見たまま固まり、驚きのあまり声も出ない様子だ。それを黙って見ているのも悪いと思い、自分の作ったカレーを食べる。


 「ねえ、アレキサンドライトさん」

 「うん?何か」

 「えっと、失礼かもしれないけどアレキサンドライトさんのお父さんとお母さんとって、どういう関係でその、出逢ったの?」

 「うーん。そうだな……私もあまり詳しくは訊かされていないけど、まあ訊く気もないが、少しなら知っている」


 と言うと興味津々な様子で、私の顔を覗き込む。

 私はそれをじっと見て解釈すると、大和蒼に尋ねる。


 「聞きたい?」

 「うん。いったいどう言う経緯があったのか、気になるもん」

 「わかった。でもたいした話でもないから、そんなに固くならなくてもいいよ」


 と先ほどから立ち上がって、硬直している大和蒼を制止させ、椅子に座らせる。

 当の本人もそれに気が付き、着席する。そして私は軽く話し出す。とても短い話だ。しかも簡潔に。


 「私の父は吸血鬼だ。イギリス生まれの吸血鬼で、五百年ほど生きている。そんな父はある時この国のこの町にやって来たんだ。本来吸血鬼は水の境界を越える事は出来ないとされているが、父はその境界を越えることが出来た」

 「うん。それで、お母さんとはいつ出逢ったの?」

 「まあ話はこれからだ。父がこの町にやって来たのは単なる観光と言う目的と、吸血行為だった。まあ、吸血鬼が生活を行うほどに必要な血液量はそこまで多くない。それで父はこの町にやって来たのだが、その時この街にいた魔法少女の一人、まあ私の母と出くわした」

 「それじゃあ戦闘に?」

 「まあ本来そうなることもあるな。今の世の中だと、血液も普通に売っているからそうはならないから当時はなかったと訊く」

 「それでどうなったの?やっぱり、戦闘かな」

 「いや。私の父と母が出くわしたのは、本当に偶然でしかも私の父と母との間で争いはなかった」

 「えっ?!何で、だって闇の一族と光の一族だよ。相容れないものがあってもおかしくないよね?」

 「まあ、今は協会の方針が変わったみたいで、一部の属している者達によって仲は取り留められているが、それでも昔と変わらないところもある。特に当時は相入れなかったらしいが、私の母はそんな父を一目見て恋に落ちたらしい」

 「えっ?!どう言うこと?」

 「私もよくは知らないし、詮索もしていない。だからこれ以上のことは知らない」

 「えーーー」


 私はそこで一区切りを入れた。

 大和蒼は何か言いたげだったが、まだわ話は途中だ。


 「今話した事が、今から約五十年ほど前のことだ」

 「そんな前なの?!」

 「それからしばらくして私が生まれしばらくはこの町中の家で過ごしていた。当時はまだ私の祖父母は健在で、この街に住んでいたんだ。父とも仲が良く、とても感慨深い人達だったそうだ」

 「そうなんだ。それからどうしたの?」

 「うん?ああ、私が三歳の時まではこの街にいたのだが、それからしばらくして私達は父の故郷であるイギリスで生活していた」

 「うんうん」

 「それで私は両親に連れられて、光の一族、闇の一族。それぞれの協会に行って、無害を証明したり、イギリスの大学を出たり、妖対峙の仕事を軽く受けたりと色々で……で、三年ほど前に協会から籍だけ置いて実質的な活動を停止して、つい一年ほど前に日本に戻って来て、両協会の伝手つてを頼って、日本の学業条件と、戸籍を取り直して一ヶ月ほど前からこの街に住んでいる。それでこの家に再び足を運び、仕事の依頼も辞めて、晴れてこの街の学校に外国からの転入生的なポジションを獲得したのだよ」

 「なんか、その」

 「うん?」


 ここまで話して大和蒼は混乱したのか、そう口ごもりそして。


 「色々と大変なんだね」


 と哀れみの目を向けられた。

何となくしゃくに触ったが、まあよしとして、一度この話を終えることにした。また、ほんの数分の間であるのだが……。



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