1ー2 魔法少女

 私は道端に倒れていた女の子をとりあえず、家まで運んだ。

 背中におぶり、家までの帰路を黙々と歩き、そしてこの町にある私の母方の祖父母の遺産である洋館まで連れてきていた。

 そして今は、女の子と私のためにカレーを作っている。

 そして、あれから一時間ほど経とうとしていた。


 「よし、こんな物だろう」


 私はカレーの味を確かめた。

 そして炊飯器からお米をよそい、冷蔵庫から福神漬けと辣韮らっきょうを取り出す。後はスプーンを用意してと、準備を進めていると、リビングを方から声が聞こえてきた。


 「ふぁー。くんくん、いい匂い」

 「気がついたんだ」


 私は間抜けな声を漏らす同じ学校の少女にそう声をかけた。

 すると少女は、首を傾げて周りを見回し私に尋ねてきた。


 「ねえ、ここ何処?私なんでこんなところにいるの?」

 「あれ覚えてない?」


 私は逆に聞き返す。

 すると少女は何かを思い出そうとするが、そんな事を払拭するようにお腹が思い切り空腹を告げるべくなり出した。


 キュルルー


 そんな素っ頓狂な音が部屋中に鳴り響く。

 すると私の目の前の少女は、顔を真っ赤にした。まるで林檎りんごのようだ。

 私はそれを見ると、少女にこう言った。


 「まあ話は後にして、とりあえず食べないか?」


 と、手に持ったカレーの入った白い皿を少女に軽く見せる。すると少女も「えっと、じゃあお言葉に甘えて」と弱々しく呟く。

 その言葉を聞き入れると、私は少しだけ口元を緩め、少女をテーブルに案内した。

 少女は少しふらついて立ち上がると、私の指差したテーブルの椅子に腰を下ろす。それを見届けると、私は再度用意をし少女に聞いた。


 「福神漬けと辣韮があるが、どっちが好みだい?」

 「えっと、福神漬けで」

 「わかった」


 私はそれに応え、福神漬けをカレーの入った皿に盛り付けた。そしてその皿を、少女の前に置く。

 少女はそれを見て目を輝かせた。それを見た私は「遠慮しなくていいから」と言うと、「じゃあ、お言葉に甘えて……言っただきまーす!」と手を合わせた。

 私はそれを見て、少し微笑ましくにこりと口元を緩めた。


 ◇◇◇


 「そう言えば、どうしてあんなところで倒れていたんだ?」

 「えっと、それは……その」


 と、口ごもる。

 そんな濁った言い方を見て、私は少し首を傾げて見せる。私は「言いたくないなら、言わなくてもいい」と言うと、少女は口を開いた。


 「えっと、その前に自己紹介しない?話はそれからの方がわかりやすいと思うから」

 「そうか。わかった」

 「うん」


 少し元気が出たのか、笑顔で返してくれる。

 私も紅い眼を細めて笑う。

 それを合図とばかりに少女は話し出す。 


「じゃあまず私から、私は大和蒼やまとあお。神奈市立桜陽高校に通う一年生って、ここはいっか。えっと、こう見えても実は私この町を守る魔法少女の一人なんだ!」

 「そうか。魔法少女ね」

 「あっ、信じてないね!」

 「いや」

 「うん?」

 「信じてるよ。魔法少女。だって、私も会ったことがあるから、その魔法少女ってやつに」

 「えっ?!えーーー!」


 と、叫ぶ大和蒼と名乗る少女。

 私はそんな彼女を前にしても冷静だった。しかしそんな彼女は決して冷静ではない。と言うよりも、私に尋ねてきた。何故魔法少女の存在を聞いても、とても冷静なのかと。


 「ああ、そのことか。別に大したことはないよ」

 「えっ?!」

 「私自身、魔法少女に会ったことがあるだけだよ」

 「えっと、ちなみに何処で?」

 「うーん……家で、かな?」

 「お家でですか?」

 「まあ、ここじゃなくて実家だけどね。ここは私の生まれて間もなかったころにいた、祖母の家だから。あんまり記憶にはないけど、やさしかったと思う」

 「そうなんだ。じゃあ、そのおばあさんは?」

 「もういないよ。から……」

 「あっ……ごめんね」

 「いいよ。気にしなくて」


 気まずくなる空気の中で、私はそう励ます

 しかしそんな会話の中で、私の貼った違和感に気が付いたのか、「はっ!」となって、私の顔を見た。そして思い切り私の眼を凝視して、こう聞いてきた。


 「ねえ、その眼ってすっごく紅いけど……もしかして、自前じゃないよね?」

 「いやそうだが」


 と、簡単に言い返す

 すると先ほどの言葉が引っ掛かったのか、私に今度は苦い顔をしながら訊ねてくる。


 「えっと、さっき言ってたおばあさんの話。今から何十年も前なんだよね?

 「そうだが」

 「じゃあ聞くけど、なんで覚えているの?だって、会わないよね時間が」

 「そうだね」

 「ねえ、もしかしてだけどあなたのその眼って、もしかしてだけど……ただの人間のものじゃないとか?」

 「だとしたら、なんだと思う。私は何だと思う?」


 私はそう問いただす

 するとそこし渋った言い方で、こう唱える。上目遣いでだ。


 「私の知ってる知識の中では、その……吸血鬼とか?まさかね」

 「そうだが」

 「えっ?」


 息が詰まったように、黙り込み戦慄が走ったようだ。

 そんな中で、私はごく平然に真実を告げた。


 「私は、吸血鬼だ」

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