第28話
「ど、どうぞ自由に食べてもらって構わないわ……」
俺たちはそれぞれ席につき、おかずを見ていた。
今日の夕食は味噌汁、生姜焼き、サラダだそうで、今俺の目の前にはそれらが並んでいた。
ただ、そこに一つ、真理が料理を追加したのだ。
それが、今目の前に並んでいたハンバーグだ。
……かなり焦げ目がついている。
この一品は俺のために作られたものだ。作ったのは真理だ。
男の子だし、ということで肉料理を追加されたもので……別に食えないということもなさそうだったが、あまり綺麗な形ではなかった。
まあ別に、味が問題なければ大丈夫だろう。
わざわざ俺のために作ってくれたんだしな。
ちなみに、ハンバーグ以外の料理はすべて花が作ったそうだ。
「それじゃあ、いただきます」
「「いただきます」」
俺が言うのに合わせ、花たちも言葉を合わせる。
まず俺が口にするのは味噌汁だった。
ちょうど、味噌汁のような味のものが飲みたかった。
口をつけてみて、思っていたよりも薄めの味だったことに驚く。
……家庭によって味つけというのは変わるだろう。これはこれで悪くない。
入っていた豆腐やわかめを口に運ぶ。
「うまいな」
「そ、そう……?」
こちらを伺っていた花にそう返事をすると、彼女は嬉しそうに微笑む。
次にサラダを口に運ぶ。ドレッシングがおいしいな。
「このドレッシングって市販のものなのか?」
「ううん。私が作った……口に合わない?」
「いや……かなりうまいな。料理うまいんだな……」
「そ、そんなことない」
そういった花は僅かに頬を染めてうつむいた。
……ドレッシングとかまで作るんだな。だいたい、市販のものですませると思う。
「料理とか好きなのか?」
「まあまあ」
「……なるほどなぁ。俺はそこまで料理しないから、素直に尊敬するな」
「そうでもない。両親共働きだから、自然に作れるようになっていただけ」
花と話すたび、真理がどんどん体を縮めていく。
……それもそうか。
花と真理は同じ環境でありながら、真理は料理が苦手なようだからな。
つまり、それだけ花にまかせっきりだったというわけだ。
……俺はハンバーグへと箸を伸ばし、一口サイズに斬って口に運ぶ。
少し、焼きすぎな気がする。
あと、味が薄い。それでも、非常においしかった。
「うまいな」
「ほ、本当かしら!?」
「あ、ああ」
俺の想像以上の反応に驚く。
目を輝かせていた真理を花がじっと見る。
「お姉ちゃん、普段男に興味ないーとか言っていたのに、反応が過剰」
「そ、そんなことないわよ! と、というかあなただって!」
「わ、私は別に普段通りー」
「だって、いつも言っていたじゃない! 『リアルの男子なんて興味ないー』って」
「い、言ってない! 一真さん、お姉ちゃん変なこと言っているけど誤解しないで」
慌てた様子で花がこちらを見てくる。
……仲良いんだな、二人とも。
喜多の口ぶりからてっきり二人はそれなりに喧嘩とかしてしまっているのではと思ったが、どうやらそんなことはないようだった。
まあ、姉妹は仲良いほうが良いだろうからな。俺は一人っ子なので、少し憧れていた。
「まあ、二人とも落ち着いて夕食食べようぜ」
「そ、そうね……分かったかしら、花?」
「そもそもお姉ちゃんが珍しい反応するのが悪い」
「してないわ! というか、それは花だってそうじゃない!」
「花だってそうじゃない、ってつまりお姉ちゃんは自分の普段とは違う反応を認めている」
「み、認めてないわ! 全然!」
……まったく。
二人の様子に苦笑しながら、俺は夕食を頂いた。
〇
「……それじゃあ、ご馳走様。また明日な」
「うん、また明日」
真っ先に花が反応して、真理がぶすっと頬を膨らませる。
「あなたは明日会うとも限らないでしょ」
「別に、私はいつでもラインで連絡できるから」
「そ、そういえばあなたラインまで交換していたのね!? そういうの、初めてあった男性と交換するなんて危険よ! ウイルスとか送られるかもしれないわ!」
「別に、ラインくらい大丈夫。嫌ならブロックすればいいんだし」
「まったくもう!」
ぶすっと真理が言うが、花はそれを無視していた。
軽く手を挙げた二人に俺も手を小さくあげてから、井永家を後にした。
俺は家に戻りながら、喜多のことを思いだす。
今日俺が井永家に来たのは、喜多の情報を聞くためだった。
……負けず嫌い、か。
そういえば、喜多は中学の時から俺に興味を持っていた、と話していたな。
それから俺は、そういえば陽菜が中学のときに陸上で県記録を出していたことを思いだす。
あれって、二位とかの記録も残っているのだろうか?
色々と調べてみる。
まずはうちの県で調べてみたが、いまいち引っかからない。
……そういえば、うちの中学のホームページもあったよな。
そこに飛んでみると……色々と載っていた。
第何年度の良い成績を残した部活動の実績などが、そこに書かれている。
……そこに、陽菜が在籍した三年間、すべて彼女は一位をとっていた。
あいつ、走るの得意だったよな……。べつに陸上が好きだったわけではない。
俺が陸上部に所属していたから、陽菜も同じように陸上部に入っただけだ。
ま、うちは男子と女子の陸上部の仲が非常に悪かったので、俺たちが関わる機会はまったくなかった。
ある意味、部活動の時間が俺にとっての癒しであった。
陽菜は100m走において、抜群の成績を残していた。
そして、陽菜が卒業した次の年。
そこにようやく、喜多の名前が出てきた。
……すげぇな。喜多も同じように陸上が得意だったようだ。
負けず嫌い、か。
喜多が陽菜に対して見せたあのときの変化は、やはり中学時代のそれが関係しているのだろうか?
家についた俺は、卒業アルバムを取り出す。
ぼんやりと眺めていると、井永真理の写真を発見した。
「……べ、別人じゃねぇか!」
ださい眼鏡に、髪は顔が隠れるほどまでに伸びていた。
……今の真理は、誰が見ても清楚な完璧美少女。
……まさに、高校デビューに成功したものの姿だった。
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