第27話
「まさか、花が……真里の妹だったとは思わなかったな」
俺がそういうと、花は控えめにうなずいてから首を傾げた。
その両目はどこか厳しく、姉の真里を睨んでいる。
「お姉ちゃん……一真さんとどういう関係?」
「……え? い、いやぁ……そのぉ……クラスメート、みたいなものね」
「……ふーん、なるほど」
花はじっとそちらを見ていたのだが、真理がやがて声をあげた。
耐え切れなくなった、そんな様子だった。
「というかよ……あなた、そんな場所に参加して何かあったらどうするのよ? 合コンだなんて、破廉恥だわ!」
「私の自由でしょ?」
「もう……! そ、そういうところに参加して変な男に絡まれたらどうするのよ? そういうところに参加する男は、皆けだものよ! 危険だわ!」
……あれ? 俺今けだもの扱いされていないか?
「……けど、お姉ちゃん、そのけだものに告白したんでしょ?」
花がじとっと真里を見返す。
……なぜ、わかったのだろうか? 真里もまた目を見開いていた。
「な、なんで知っているのよ!? も、もしかして一真が言いふらしたの!?」
「いや、言ってないが……」
「見ていれば、わかる」
花がそういうと、真理は耳まで真っ赤にした。
そして、俺を見てくる。
「わ、私……そんなに露骨だったかしら?」
いや、俺にそれ聞かれても……そういうのは第三者に聞くべきものだろう。
そして、第三者である花がすでに気づいているのだから、露骨、だったのではないだろうか?
花が腕を組んでから、俺を見てきた。
「……それで聞きたいことってなに?」
……話を本題に進めてくれるようだ。
このまま、真理についてあれこれ質問攻めされたらどうしようかと困っていたところだった。
「喜多、彩香って知っているか?」
「えっ? うん、中学のときの友達だけど……」
俺の問いが意外だったようで、花がきょとんとした。
こくこく、と頷いた彼女にさらに質問する。
「結構親しかったか?」
「まあ、それなりに。今もたまに連絡取り合うけど……あっ、たしか風高に行ったんだっけ?」
「ああ、そうだ」
「けど、それでどうして私にそのことを聞いてきたの?」
……そう、疑問に思われるのも当然か。
「いや……ちょっとな。俺の幼馴染――陽菜っていうんだが……そいつが陸上部に所属しててな。喜多と陽菜が顔を合わせたときに、喜多の表情が一瞬険しくなってな。何かあったのかなぁって思ってな」
「……陽菜、確か聞いたことがある。一つ上の、やばい先輩だって」
「……」
……陽菜。
後輩にまで、陽菜のやばさは伝わっているようだった。
「まあ、な。俺の幼馴染であるんだが、もしも陽菜が知らないうちに喜多に迷惑をかけていたのなら、注意しようと思ってな。喜多って陸上部に所属していたよな?」
「うん、そうだけど……」
「やっぱり、その時に陽菜が何かしたのか……と思ってな。何か、愚痴とか聞いたことないか?」
「……陽菜先輩関連かは分からないけど、時々彩香からは愚痴を聞いたことはある。……そういえば、彩香って負けず嫌いだから……一個上に勝ちたい先輩がいる、っていうのは何度か言っていたかも」
「……負けず嫌い、なのか?」
「うん。知らなかった?」
「……あ、ああ」
……喜多に対して持っていた俺の印象とは真逆だったな。
「私はそのくらい、かな? あとで、何か思いだしたら、また連絡する」
「……そうか、ありがとな」
陽菜がいつ喜多に問題を起こしたかは分からないが、下手したら数年前の可能性もあるからな。
それにしても、愚痴、か。
「喜多も愚痴を言うんだな」
「……結構言う。あれ、先輩たちの前ではそんな姿見せてない?」
「……まあ、な」
「彩香は猫を被る癖がある。自分を人よりも良く見せたいって思う感じ」
「人ならだれでもあるんじゃないか?」
「まあ、そうだけど……その誰でもがもっているものよりも、彩香のそれはもっと強い感じ」
「……そうなんだな」
……普段の喜多の様子からは想像できないな。
真面目で、ザ・優等生という子だ。
それがすべて、猫を被っているというのだろうか? だとしたら、陽菜にも見習ってもらいたいものだな。
「悪かったな……押しかけて色々と聞いて。そろそろ、俺は帰るよ。ありがとな」
「ううん……別にそんなことない」
花が首を振って微笑む。
俺が帰ろうとしたところで、花がくいくいと俺の腕を引っ張ってきた。
「……夕食、食べていかない? 今日、両親の帰り遅いし……私、作るよ?」
「ちょ、ちょっと待ってちょうだい! どうしてそんなことになるの!?」
黙ってこちらを見ていた真里が、声を荒らげた。
それに対して、花がぷいっとそっぽを向いた。
「別にお姉ちゃんは関係ないでしょ。今は私のお客さんなんだから」
「い、いやそもそも……あなた、男性苦手じゃなかったかしら?」
「別に? そんなことないけど」
花は真里を一蹴してから、俺の方を見てくる。
「どう?」
「いや、用意の手間とかあるだろうし……」
「別に、悪くない。だから、一緒に食べていってよ。たまには、誰かに食べてもらって、料理の評価をしてもらいたいし」
「……わかった」
そもそも、俺は別に拒否する理由はないからな。
わざわざ、料理を……それも花のような可愛らしい人の手料理なら、是非とも食べたいくらいだ。
「私も……作るわね」
「……いや、お姉ちゃん料理苦手でしょ?」
「……に、苦手じゃないわっ! がんばるわよ!」
……頑張ってどうにかできるものなのだろうか?
お願いだから、変なものが出来上がらないでほしい。
切に、そう願った。
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