第26話


 二人を見送った後、俺は家に帰って一人考えていた。

 ――やっぱり、喜多のあの反応が引っ掛かるな。


 俺が考えていたのは、喜多が陽菜を見たときの反応だ。

 ……苦手な先輩とかを見たような反応ならわからないでもないが、なんというか怒りやらその他の感情を多分に含んでいる様子だった。


 ……陽菜との間で何かあったのだろうか?

 陽菜が無意識のうちに、他人に嫌われるような行動をとっている可能性は十分に考えられる。


 だって陽菜だから。

 陽菜は基本的に人の感情を考えないからな。


 問題行動を起こしていても気付かないだろう。

 それで、喜多にストレスが溜まった……というのは十分に考えられるだろう。

 

 ……中学の時のことは、喜多に直接聞いてもはぐらかされるかもしれない。

 真理の妹さんなら、それなりに親しかったようだし、何か知っているかもしれない。

 あとで、聞いてみようかな。


 これで、陽菜が何か迷惑をかけていたのなら、喜多に謝っておく必要もあるしな。

 


 〇



 次の日の放課後。

 俺は真理の妹に話を聞くため、真理に声をかけた。


「……真理、ちょっといいか?」

「何かしら?」


 真理が首を傾げながらこちらを見てくる。

 どこか嬉しそうな反応は……なんだろう。犬のようにもみえてしまった。


「その……真理に妹さんがいるって昨日話してただろ?」

「ええ、いるわね。それがどうかしたの?」

「ちょっと、妹さんと話がしたいんだ。今日とかって大丈夫か?」

「え……?」


 真理は俺の言葉を聞いた瞬間、驚いたように目を見開いた。

 それから、頬をひきつらせる。


「わ、私の妹に、興味があるの……ね?」


 ちょっと泣きそうな声である。

 クラスメートがこちらを見て、ひそひそと話し始める。


「お、おい……! 一真のやつ、委員長の妹さんに狙いをつけたみたいだぞ!」

「なんて奴だ! 委員長の気持ちを知りながら、鬼畜か!?」


 こいつら、勝手なこといいやがって!


「ちげぇよ! 俺はちょっと、調べたいことがあっただけだ!」

「……わ、私の妹の一体何を調べたいの!?」


 真理まで周りにつられたように暴走してしまった!


「ち、違うって! ……その、喜多のことを何か知っていると思ってな。昨日の、喜多の陽菜に対しての反応がちょっとおかしかったからさ」

「……あ、あー確かに。ちょっと知り合いっていうには変な感じだったわね。なるほど……そのことなのね」

「ああ、そうだ。別に変な意味はないからな?」

「……良かったわ。てっきり、私と妹、両方を狙っているのかと思ったわ……」

「どんな心配だ!?」


 真理の発想はぶっ飛んでいるな……。


「ちょっと待って……今日は家にいるかどうか、聞いてみるわね」

「……あ、ああいきなりでわるいな」

「いえ、大丈夫よ」


 昼休みとかに聞いておくべきだったな。

 真理がスマホに耳を当て、それからしばらく話をしていた。


「……ええ。ええ、分かったわ。それじゃあ、お願いね」


 真理はほっとした様子で電話を切り、こちらを見てきた。


「今日は家にいるから大丈夫だそうよ」

「……そうか。ありがとな」

「いえ、気にしないでちょうだい」


 とりあえず、許可をもらえたようで良かった。

 俺は鞄を担ぎなおし、真理とともに学校を出る。

 ……今日は一日、平和だったな。陽菜が一切俺に絡んでこなかった。


 クラスに、友人でもできたのだろうか? だったらいいのだが。

 そんなことを考えながら真里とともに歩いていく。


「……一真……私の妹、かなり可愛いから……その、変な気を起こさないでね?」

「……起こさねぇよ」

「それなら良いのだけど……花って言うんだけど、結構人見知りなのよね。だから、望むような会話はできないかもしれないけど……そのときはごめんなさいね」

「わかった。最悪、後で真理から聞いてもらうっていうのでもいいか?」

「ええ、そのくらいはかまわないわ」


 真理の家へと向かって歩いていく。

 家についたところで、真理が玄関のカギを開ける。


「……そういえば、両親とかはいないのか?」

「……今日は、いないわね」

「そ、そうか」


 ……余計なことを聞いてしまったな。

 真理だって頬を赤らめてしまっている。

 そんなことを考えながら、家へと入っていく。


「まだ、花は帰っていないみたいだわ。私の部屋で待つ?」

「……お、おう」


 真理はあっけらかんと言ったが、異性の部屋に入るというのは中々難易度の高いことだ。

 俺が言葉を詰まらせたからか、真理はそこでようやく自分の発言に気づいたようだ。


「ち、違うわよ!? 誘っているとかそんな意味はないわよ!? 軽い女だと思わないでね!」

「お、思ってないから! 変なこと言わないでくれ!」


 考えないようにしていたんだからな!

 俺が言うと、真理はさらに顔を赤くしてしまった。

 ……俺たちはお互い照れながら、ひとまず俺はリビングで待たせてもらうことにした。


 帰りに自販機で購入したペットボトルを口につけながら待っていると、がちゃり、と玄関が開いた音がした。


「ただいまー、お姉ちゃん。用事があるって何?」

「あっ、それはリビングで待っている人なんだけど……」

「……男、なんでしょ? 面倒なのは嫌なんだけど」


 ……大変嫌そうな声が聞こえた。

 そりゃあ、そうか。いきなり会いたいと言われれば変なものを想像するだろう。

 俺は立ち上がり、出来る限り身なりを整えていると、リビングにその女性が入ってきた。


 「えっ?」、という声は俺と花の両方から発せられた。


「か、一真……さん?」

「……花」

「ちょ、ちょっと待ちなさい!?」


 現れたのは、以前武に誘われた合コンで知り合った女性であった。

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