第19話


 俺が部屋で明日の準備をしていると、ラインが届いた。

 誰だろうか、とみてみると、花からだった。


『今日はありがとう。楽しかった』


 アニメのスタンプがすっと送られてきた。

 ……俺そこまでがっつりアニメを見ていないので、何のキャラクターかわからなかった。

 画像検索でもすればわかるだろうか? そういえば、いくつかアニメも勧められていたな。


 今週末は陽菜のわがままに付き合う必要もないので、じっくりと楽しもうか。

 そんなことを考えていると、さらにラインが届いた。

 グループへの招待だった。今日遊んだメンバーが全員入っているようなので、俺も参加しておいた。


 今日の感想や、お礼などを伝えてから俺はスマホを机に置いた。

 ……これが、普通の高校生活なのか。

 楽しいな。


 陽菜だって、こういった楽しみを理解すれば、俺に構うこともなくなるのではないだろうか?

 ……そのために、まずは友達を作る必要があり、友達を作れるような性格になる必要があり――。


 やべぇ、先が思いやられる。

 本当に、あと一年間で陽菜が友達を作れるようになるのだろうか?

 ……ま、まあ。まだ一週間も経っていないじゃないか。焦る必要はない。


 明日の授業の予習をして、それが終わったところでスマホを見る。

 ……今度は喜多からラインが届いていた。


『明日の朝、一緒に通いませんか?』


 ……一緒に通うだと?

 まさか、そんな誘いが来るとは思っていなかった。

 別に朝の用事自体はない。

 いつもの通り、太郎と一緒に通うだけだ。


 ……とりあえず、太郎に連絡を取ってみようか。


『明日、喜多が一緒に登校したいみたいだけど、太郎はどうする?』


 俺としては太郎も一緒にでいいのだが、すぐにラインが返ってきた。


『それじゃあ僕は一人で行くよ』

『一緒にでもいいんだぞ?』

『絶対喜多さんの邪魔になるから』


 ……いや、まあそうかもしれないけどな。

 喜多は見た目とは裏腹に意外と積極的だからな……。

 昼休みだって、かなり積極的な行動があったからな。

 

 二人きりになると、結構緊張してしまうのだ。

 ……ここまで意識させるのが、喜多の目的なのかもしれない。

 だとすれば、策士だな。


 喜多にラインを返す。


『わかった。どこ集合にする?』

『先輩の家まで行きますね』

『了解』


 「よろしくお願いします」と書かれたスタンプが返ってきたので、俺も同じように返しておいた。

 ……結構安請け合いしてしまったが、家の前集合か。


 またタイミングが悪いと、陽菜に絡まれるかもしれないな。

 それどころか、母さんにも何か言われるかもしれない。


 ……場所を変更したほうが良かったかもな。

 そんなことを考えながら、俺はベッドで横になった。



 〇



 次の日の朝。陽菜が来なかった。

 どうやら、俺に結構本気で拒絶されていると、ようやく理解したようだ。

 ……後は、そこからどうして拒絶されているのか。それを考えてくれればいいんだが。


 結構直接的に何度も言っているので、陽菜も理解できるだろう。

 ……一応、学校の勉強ができるだけの頭の良さは持っている。

 発言は理不尽極まりない、支離滅裂なものが多い陽菜だが、あいつは常に学年主席の成績をキープしている。


 ……天才ってのは凡人には分からないというが、まさにそうなんだろうと思う。

 そんなことを考えていると、ラインが来た。


 相手は喜多だ。


『そろそろつきそうです』

『わかった。外で待ってるな』


 ラインを返し、俺は家を出る。

 家の前で待っていると、きょろきょろと周囲を見ていた喜多がこちらへと歩いてくる。

 俺と目が合うと、彼女は嬉しそうに目元を緩めた。


「先輩、おはようございます」

「ああ、おはよう。そんじゃ行くか」

「はい」


 その時だった。

 隣の家からあわただしく一人の女子が出てきた。

 ……陽菜だ。

 陽菜は俺と喜多をじっと見てから、声をあげた。


「か、一真……偶然ね」

「……おまえ、家から見てたろ」


 おそらく、二階から俺が出てくるのを見ていたに違いない。

 陽菜はびくっと肩を上げてから、俺のほうに手を差し出してきた。


「偶然よ! ほら、一緒に通ってあげてもいいわよ! そんな女とじゃなくて、あたしが通ってあげるわよ!」

「いや、俺は喜多と通うから。一人で行ってくれ。じゃあな」


 はっきりと告げ、俺は喜多とともに横を歩いていく。

 陽菜はぎゅっと唇をかんでから、俺の前に立ちふさがった。


「なんでよ! なんでいきなり、こんなに冷たくなったのよ!」


 いきなり? ……まあ、陽菜から見ればそうかもしれないな。

 彼女はいたっていつも通りにふるまっていたのだろう。

 だが、俺には違う。


「……普段から、おまえにストレスが溜まってたんだよ。――とにかくだ。わがままを言いたいなら、新しいおもちゃを探したらいいだろ? 俺はもうおまえのわがままに付き合うつもりはねぇよ。喜多、行くぞ」


 陽菜が喜多に絡むかもしれない。

 俺は喜多の手をとり、そのまま歩いて行った。

 陽菜は、ぎゅっと唇を結んでいた。


 

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