第18話
カラオケでひとしきり歌った。
当初の予定では、カラオケの後に別のお店で夕食を食べる予定だったのだが、カラオケで食事も注文して済ませたので、これで解散となる。
時刻は9時を過ぎたところだ。
空はすっかり暗くなり、さすがに女性たちだけで帰らせるわけにはいかないだろう。
「それじゃあ、みんな家まで送っていくよ。さすがに、こんな暗いんじゃ危険だしな」
武も同じことを考えていたようだ。
俺も同じく頷くと、桜がくすりと笑った。
「えー、武に送られた人のほうが危険じゃない?」
「あぁ? 何か言ったか?」
「いえいえ、なんでもないですよー?」
冗談気味に言った武に、桜が笑っている。
……あの二人、本当に仲良いな。
「家はどの辺になるんだ?」
「わ、私は……その、桜さんの家の近く、です」
「そうか。それならオレも家近いから問題ないな……と。花さんは?」
「私はシュリズスーパーのほう、かな」
武が考えるように顎に手をやってから、ちらと俺を見てきた。
「一真、任せてもいいか?」
「ああ、大丈夫だ」
……けど、太郎も俺とはほぼ同じ方角だ。
だが、がっちりと武につかまってしまっている。
……まあ、あれか。楓が太郎に興味を持っていたからな。
武もそれに気づき、自分のことは置いておいて太郎に譲った……そんな可能性もあるな。
「そっか! それじゃあ、オレたちは四人で途中まで帰るってことで。あっ、一真寂しかったら呼んでくれよ? オレが迎えに行くからな!」
「分かったよ」
武の冗談に笑って返した。
四人と別れたところで、花を見る。
「それじゃあ帰るか」
「う、うん」
どこか花は緊張している様子だ。
……カラオケの時間にそれなりに話したとはいえ今日が初対面の相手だからな。
そりゃあ警戒されるか。
俺に武ほどのユーモアセンスがあれば良かったが、あいにくそんなものは持ち合わせていねぇからな……。
俺がどうしようか考えていると、花が首を傾げた。
「そういえば、一真さんは……家はどこなの?」
「あー、そうだなコンジキスーパーの近くだからそう遠くはないぞ?」
「あっ、その。別に無理、しなくてもいいから。近くまでとかでも。なんならこれからすぐに別れてもいいし」
「いや、花に何かあったら心配だ。頼むから、送らせてくれ」
「え? あ……う、うん」
俺がそういうと、花は顔を真っ赤にしてしまった。
……再び、俺たちは共に並んで歩いていく。
まずい、沈黙してしまっている。
何か、話題を提供しないと……。
「花は今期のアニメはどのくらい見ているんだ?」
「え? えーと、『悪しき邪教を滅ぼせよ』、とあとあー、あれも見てた……えーと、ちょっとまって」
花は思いだすように指を折りながら、数えていた。
「じゅ、十個くらい?」
「……そうか。俺は三つくらいしか見てなくてな。あの、ラノベが原作の奴だ」
「あっ、わかるかも」
「それ以外でもオススメってあるのか?」
俺の質問に、彼女はこくりと頷いた。
それから、オススメのアニメについて教えてくれた。
……あとで、見てみようか。スマホを取り出してメモしていると、花が思いだしたように声をあげた。
「そ、そういえば……その……」
頬を赤く染めながら、彼女は俺のスマホをちらと見てきた。
……別に俺のスマホにおかしなところはないはずだが。
少し心配になってきたが、大丈夫だよな?
「れ、連絡先とかぁ……交換、しても……いい?」
「……あー、そうか」
「い、嫌なら……別にいいんだけど……っ」
そういえば、聞いたことがあるな。
合コンのマナーとして、連絡先を聞くとかあったはずだ。
合コンが終わった後には必ずお礼の連絡をする、とかな。
……とはいえ、まったく交換しなかったからな。
これでは、花以外にお礼の連絡はできなさそうだな。
「問題ないって。ほら、これだ」
俺はスマホでラインを開き、花に見せた。
登録はすぐに終わった。
花から、確認のためかスタンプが一つ送られてきた。
俺もそれに送り返すと、花は口元を緩めた。
それからさらに少し歩いたときだった。花が足を止めた。
「もう、ここまでくれば大丈夫」
「そうか」
家まで特定されたくはないだろう。
俺は彼女の申し出にうなずく。
「それじゃあ……その、また今度」
「ああ、そうだな」
……また会う機会はあるのだろうか?
俺が花を遊びに誘うということはないからな……。だって、俺に誘われても嫌がるだろう。
花に誘われれば、遊びに行くこともあるかもしれないが……花が俺を誘うとは思えないからな。
花の背中が見えなくなったところで、俺も振り返り、家に向かった。
陽菜の家の前を通った時だった。がちゃりと、と扉が開いた。
玄関から姿を見せたのは、部屋着の陽菜だ。
「一真、こんな遅くまでどこ行ってたのよ」
「……遊びに行くって言っただろ?」
「だからって! 遅すぎるわ! 幼馴染のあたしを放って、こんなことしていいと思っているの!?」
「……だから、ただの幼馴染だろ?」
「……っ!」
ただの幼馴染、どうやらそう言われるのが嫌なようだ。
俺は小さく息を吐いてから、利理さんとの契約を思いだす。
陽菜の全否定をするつもりはない。ただ、性格に関しては矯正できるようにしないといけない。
「陽菜、わがままを言ったり、周りを威圧するような真似はやめろ」
「はぁ!? あたしがどうしようともあたしの勝手でしょ!? 一真のくせに、あたしに命令するの!?」
「……そうか」
……まだ、ダメか。
俺はそれ以上は伝えず、陽菜に背中を向ける。
彼女が何やら唸っていたが、すべて無視だ。
まったく。
陽菜のわがままは十年以上続いているのだ。
そう簡単に治れば、苦労しねぇか……。
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