第16話
それからすぐに、目的のカラオケについた。
店の前に行くと、近くの女子高――赤女と呼ばれるその高校の制服を身に着けた三人が待っていた。
……もしかしたら、彼女らが合コン相手なのだろうか?
かなり、可愛い子たちだ。
正直言って、驚いていた。……さすが、武だな。
校内では女の子と付き合いたいと連呼しているせいであまりモテていないが、黙っていればかっこいいだけはある。
ただ……俺も太郎も別に恋人とかに興味あるわけじゃねぇからな。
なんとも悪いことをしてしまったような気分だ。
「た、武……っ!? ちょ、ちょっと!」
くいくい、と向こうの女子が武を手招きしていた。
合コンをセッティングするには、女子代表、男子代表が必要になるだろう。
恐らく、女子代表なんだろうな。武とその女子が何やらこちらをちらちらと見ながら話していた。
……なんだ? まさか、向こうの想定していたレベルよりも随分と低いであろう俺が来たから怒っているのだろうか?
そうは言われてもな……。
ちらと、残っていた二人の女子を見る。なんとも大人しそうな女の子たちだ。
彼女らは、こちらを見てぼーっと見とれていた。
……たぶん、太郎だろうな。
「凄い……かっこいい……」
「か、彼女とか……いないのかな……て、ていうかめ、目があっちゃった……ぁ」
ぽっと二人は過剰なほどに顔を赤くして、そっぽを向いた。
……それまで、太郎のほうをみていたようだったが、俺と目線があった瞬間顔を背けられてしまった。
やはり、俺が来ない方が良かったのではないだろうか? 人数は足りないかもしれないが、太郎一人のほう良かったかもしれない。
あるいは、そこらにいる男子生徒を連れてきたほうがまだマシだったのではないだろうか。
俺が申し訳なく思っていると、こちらに向こうの女子代表がやってきた。
「とりあえず、まずは中に入ろっか! さっき店員に聞いて、六人大丈夫だって言ってたから、すぐ入れるよー」
「だそうだ。ほら、一真太郎、行くぞ」
にこにこ、と武が笑顔とともに言った。
女子たちを先に入れ、俺たちがその後ろについていく。
武がそれから、俺たちに小声で言ってきた。
「……なあ、誰か気になる子はいたか?」
「俺は別に。太郎は?」
「僕も……その、ごめんね」
「そうかそうか! それなら、オレはあの一番大きい子がいいから、その子の近くに座るな!」
「……あ、ああ」
胸で判断しているのだろうか? 武はエロいことを考えているようなだらしない顔になっていた。
カラオケに入り、六人が入れる部屋へと案内される。
……カラオケ、か。
何度か陽菜に無理やり連れてこられたときがあるな。
あまり良い思い出はない。基本的に陽菜が好きなように歌い、俺は歌いたい歌も歌えないのだ。
すべて、陽菜が勝手に決める。これを歌えと言われたら、それに従うしかなかった。
……まあ別に、そんなに歌に詳しいわけじゃねぇしな。
全員が席に座る。とりあえずは、男女が別れるようにだ。
俺はできる限り、女性陣からもっとも離れた席を確保する。あまり、異性との関わりは得意じゃないからな。
「それじゃあ、軽く自己紹介と行こうか! オレは武だ。よろしくな!」
武がにかっと笑ってから名乗る。
さすがに、慣れているな。俺もできる限り、笑顔を浮かべないとな。
……トイレにでもいって、笑顔の練習でもしておいたほうが良かったかもしれないな。
まあ、俺の自己紹介にそこまでみんな注目はしないだろう。
「俺は一真だ。……よろしく」
そういうと、女性たちがこちらに視線を向けてきた。
……あんまり注目されるのは慣れていない。それを必死に、笑顔で誤魔化した。
早く、次にいってくれ。
ちらと、太郎を見て先を促した。
「僕は……太郎っていいます。よろしくね」
太郎もこういった場には慣れていないようだ。
わずかながらの人見知りを発動した様子だった。
今度は、女性たちの番だ。武と仲良さそうに話していた女性が、胸に手を当てた。
「私は桜(さくら)っていうよ! よろしくね!」
「私は花(はな)、よろしく」
「わ、私は……楓(かえで)、といいます」
……あの楓、という子が武の狙っている子だな。
どことは言わないがこの中で一番大きいからな。
「よっしゃ! それじゃあ、時間もったいないしどんどん曲入れてっちゃおっか! 誰も入れないなら、まずオレから言っちゃうけどいい?」
「あはは、いきなり武の音痴な歌は聞きたくないなー」
「んだと!? やんのか桜!」
桜と武はやはり知り合いだ。というか、滅茶苦茶仲良さそうだな。
武はそういいながらも、曲を一番に入れた。
「次入れたい奴は入れていいからな?」
そういいながら、曲が始まった。
……武は桜に言われるだけあって、あまり歌は上手ではない。
俺も人のことは言えない、か。
気持ちよさそうに歌っているので、武の歌の時間は別に苦痛ではなかった。
「それじゃあ、男子、女子って順番で歌おうか。次は、私が行きましょう!」
桜が機械を手にして、曲を入れる。
……そうして、こちらにてわたしてきた。
「次歌う?」
「……あ、ああそうだな」
にこりと微笑んできた桜から、少し緊張して機械を受け取る。
俺は太郎とアイコンタクトをかわす。
……どうする? 俺たちどちらかというとオタク寄りで、流行りの歌はあまり知らない。
履歴を見ていると、俺でも聞いたことはあるような曲があった。
ただし、二番は分からない。しかし、それでも歌うしかない。
……それでも、完全なオタクっぽい歌を入れるよりはいいだろう。
その曲を入れてから、俺は花に機械を渡した。
花が受け取り、そそくさと曲を入れる。
……って結構がっつりなオタク曲じゃねぇか! 俺がちらと花を見ると、そこで目が合った。
「曲……わかるの?」
しまった。俺は今完全に、反応してしまったからな。
……花のくりくりっとした瞳に射抜かれ、俺はどう対応するべきか考えていた。
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