第13話


 朝。

 ……さすがに、これまでのことがあるからか、とうとう陽菜が家に現れなかった。

 階段を下りてリビングに行くと、母さんがこちらを見て来た。


「……陽菜ちゃん、なんだか元気なかったわよ?」

「……」


 ……元気ないって。

 しっかり朝食は食べているんだな……。


「別に、俺には関係ない。ただの、幼馴染だぞ?」


 今時、そこまで仲良くしている幼馴染なんて、各都道府県に一組いるかいないかくらいじゃないか?

 うちが仲良くしなくても、別の家できっと仲良くしていることだろう。


 俺も朝食を食べてから、学校へと向かう。

 昨日決めた集合場所に行くと、太郎が待っていた。壁に背中を預けていた彼は、こちらに気付くと壁から背中を離した。


 ……それにしても、今日も男なのか女なのか分からないような容姿である。

 以前、他校の男子生徒に告白されたことがあるというのが、太郎の中では黒歴史となっている。指摘すると、一日中むくれたままになるので、口には死んでも出さない。


 お互い挨拶のあと、並んで歩いていく。


「昨日の告白、結局どうしたの?」


 こちらを覗きこんでくる太郎。

 ……その小首をかしげた仕草はやめたほうがいいぞ。そこらの女子よりも可愛いからな。


「断った」

「え……そうなんだ? けど、一緒に帰ってるところ見たってライン来たんだよ?」


 太郎がスマホの画面をこちらに向けてくる。

 そこには、俺と喜多が校外へと向かって歩いていく姿を映した写真があった。

 個人情報なので、もう少し丁寧に扱ってくれやしないかね……。


「向こうが、友達からって言ったからな。友達として一緒に帰っただけだ」

「……そうなんだね。でも、どうして断ったの? 悪い人じゃないと思うけど……」

「まあ、今は色々とやりたいことがあるからな。恋愛にうつつを抜かしている場合じゃないんだよ」

「やりたいこと?」

「それは、一応内緒な」


 そういうと、太郎はこくこくと頷いた。

 ……やりたいことが陽菜の性格矯正だからな。

 学校につくと、やたらと視線が増えて居ることに気付いた。


 ……これ、全部もしかして喜多のことを狙っていた男子たちのものだろうか?

 中には女子の視線までもあった……。まさか、喜多は女子にも狙われていたのだろうか?


 確かに、あれだけ丁寧ではっきりと物事を言える力強さももっている。

 となれば、人気が出るのも自然かもしれないな。

 クラスに入ると、さらに視線が向けられた。


 男子生徒がこちらへと近づいてきたが、それに割りこむようにして、委員長がやってきた。


「……ご、後藤くん……また聞きたいことがあるんだけどいいかしら?」

「別に構わないけど……」


 返事をすると、委員長ががしっと俺の両肩を掴んできた。


「き、昨日……喜多さんと、あの一年で有名な喜多さんと一緒に下校したみたいだけど、そ、それって本当なの!?」

「……まあ、そうだけど――」

「そ、そうなのね……そうなのね……。ふ、二人は付き合っているのね……? か、完全に油断していた……」


 絶望的な声をあげる委員長。

 ……一体何がどうなっていやがる?

 まさか……委員長も、喜多を狙っていたのだろうか?


 喜多の奴、たいそう人気者だな。


「委員長、何か勘違いしているみてぇだが……俺は別に喜多とは付き合っていないぞ?」


 だから、喜多を狙っても大丈夫だぞ?


「え、そうなの!?」

「あ、ああ」


 俺の予想以上に食いついてきた。

 ちょっと引くほどだ。目は血走り、鼻息は荒い。

 そんな委員長は不気味な笑みを口元に張り付ける。

 ニタァ、というような笑い方である。……あんまりその顔、外でしないほうがいいぞ。


「つまり、まだフリーなのね!?」

「あ、ああ……」


 恐らく、な。

 喜多が遊び慣れているとかで、実は裏で誰かと付き合っていたら、俺はそこまで把握していないが。

 

 この世の終わりみたいな表情から一転、水を得た魚のような笑顔とともに、委員長が振り返る。

 喜怒哀楽が激しすぎてこえぇよ。


 陽菜と似たタイプなのかもしれないな。


「それじゃあ、良かったわ。またあとで……その、色々大事な話をするわね」

「……ああ」


 委員長は頬を僅かに染めてから、自分の席へと戻る。

 ……大事な話ってもしかして、喜多とのキューピッドになってほしいというのだろうか?

 また、こういう頼みか。太郎だけではなく、これからは喜多の窓口まで俺になるのか?

 

 ったく、俺も早く自分の恋愛に集中したいものだ。


「……ねぇ、つきあってないって!」

「よ、よかった……っ! 私もダメで元々、今のうちに一度くらいアタックしてみよっかな!?」

「そ、そうだよね。……容姿で選んでいるってわけじゃないみたいだし、もしかしたらイケるかも!」


 ……なんだか女子たちがそんな話で賑わっていた。

 誰のことを話しているんだろうか? 流れ的に、喜多のことだろうか?


 ……うちの学校は意外にレズが多いんだなぁ。

 



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