第11話
喜多とともに歩いていく。
「……そういえば、家はどの辺にあるんだ?」
一緒に帰宅というが、まさか家が逆方向になったら問題だ。
「……私、あのコンジキスーパーの近くですね。先輩はどのあたりになるんですか?」
「あー、そうなのか? 俺もわりと近いな……地図でいうと、ここだな」
俺はスマホの地図アプリに登録している自宅を表示して喜多に見せた。
喜多が体を寄せるようにして、スマホの画面をのぞき込む。
……ち、近い。
陽菜以外の異性とここまで近くになったのは初めてだ。
……緊張してきたな、おい。
喜多はじっとスマホを見てから、目を見開いた。
「あっ、結構近いですね。私の家はこのあたりですよ」
そういって、喜多は俺のスマホの画面をタッチする。
僅かに手が触れる。……そのとき、喜多があっ、とみじかく声をあげた。
「す、すみません……その、触れてしまって……っ」
「あー、いや、気にするな」
……喜多は恥ずかしそうに俯いて、それから僅かに口元を緩めた。
積極的な奴だな……と思っていたが、どうやら無意識だったようだ。
頬を染め、うつむきがちな視線……それでも、なんだかどこかうれしそうな喜多の反応に、こちらまで照れ臭くなってしまう。
「せ、先輩……その、気にするなっていうのは……その、触れる……とか、そういうの、別に良いってことですか?」
「……え? い、いやまあ……別に悪い気はしないっていうか」
「そ、それなら……その」
喜多はそう言ってから顔を真っ赤にして、俺の手を握ってきた。
「……こ、こういうのは、その……ダメ、ですか?」
隣を歩く喜多が、ぎゅっと俺の手を握る。
思わず声が出そうになってしまった。だが、俺はすんでのところでこらえた。
……危なかった。
彼女がいたことのない俺にとって、この刺激はあまりにも過激だった。
それでも、よくこらえたと俺は自分をほめたい。
「いや……さすがに、これは……その、友達の範疇を超えているというか」
「け、けど……友達同士でも手を繋ぎます、よね?」
そうは言うが、喜多も恥ずかしそうな様子であった。
うるうると瞳をうるませ、喜多がこちらを上目遣いに見てきた。
「ダメ、ですか?」
「……まあ、いいけど」
そこまで言われて、断れるはずがなかった。
どうして俺はこんだけの美少女に好かれているんだろうか?
喜多の手を握りながら、共に歩いていく。
……ときどき、確かめるように握る手に力がこもる。そのたびに、喜多を見ると、彼女もこちらを見て、照れた様子ではにかむ。
調子が狂う。……俺は喜多の告白を断ったんだよな?
ただ、今の状況だけを見れば、まぎれもなく付き合っているカップルのそれだった。
住宅街に入ったところで、俺は少し訊ねてみた。
「喜多もこの辺りに住んでるってことは、中学はもしかして北中か?」
「あ、はいそうですよ。先輩と一緒の中学ですね」
「……え? 知っていたのか?」
「えーと、まあはい。中学の頃から、その先輩と有坂先輩の二人は有名でしたから」
……マジか。
「その頃から俺は陽菜と付き合っていると勘違いされていたのか?」
「……付き合っていなかったんですか?」
「まあな。俺は別に陽菜とそういう関係になったことないぞ?」
「……そう、なんですね。有坂先輩のこと、嫌いなんですか?」
「嫌いってわけでもないが……別に好きでもないしな」
なんといっても、わがままが過ぎる。
それにしても、同じ中学……だったのか。
「……実は、先輩のこと……中学の時から気になっていたんです」
「え? そうなのか?」
「は、はい。だから……二人が喧嘩した、別れたって聞いて……その、もしかしたらチャンスかもと思いまして――他の生徒に先を越されたくなくて……」
「……」
それは杞憂だ。
俺にわざわざ告白してくる物好き……というのは喜多に失礼か。
とにかく、告白してくるような人はいないだろう。
俺にするくらいなら、みんな太郎の方に行くだろうからな。
「高校進学してどうだ? 色々変わったんじゃないか?」
「そうですね……勉強の速度がやっぱり早いですね」
「……そうだな。特に初めのテストのときはやばかったな……中学のときと同じ感覚で挑んだら結構点数下がっちまったよ」
「そうなんですね。……あっ、今度わからないところがあったら聞いてもいいですか?」
「……いや、俺も勉強はそこまで得意じゃないんだが」
「それじゃあ、それまでに得意にしておいてください」
冗談めかして彼女は言った。
……なるほどな。
喜多が人気なのは、容姿だけではないのだろう。こういった、親しみやすさも彼女の評価に繋がっているんだろう。
凄いな……このコミュニケーション能力があれば、陽菜も学校の人気者になれただろう。
……事実、入学してすぐは喜多の比にならないくらい話題になっていたみたいだからな。
そんなことを考えながら歩いていると、俺の家近くについた。
……さすがに、送っていこうかなんて思っていたときだった。
「か、一真!!」
怒鳴りつけるような声とともに、陽菜が現れた。
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