第8話
「……陽菜ちゃん。朝食食べていかずに行っちゃったわよ」
席には俺と陽菜の分の朝食が用意されていた。
父はもう食べたあとなんだろう。
俺は席に座り、それから自分の分を食べはじめる。
「それなら、俺が二人分食べればいいのか?」
「そうじゃなくてっ。……何か喧嘩でもしてるの?」
「俺と陽菜は別に昔から、ただ親が仲良かったから一緒にいただけだ。今時高校生にもなれば、それぞれの友達がいるもんだろ?」
それが、陽菜にはいない。
それが問題なのだが、この親は分かっていない。
「……てっきり、二人はつきあっていたと思っていたんだけど、違うの?」
「付き合ってなんかねぇよ。ていうか、周りにもそう思われて俺はいい迷惑だ。おかげで、今までだって誰にも告白されたことねぇし」
「それは別に陽菜ちゃん関係ないと思うけど……」
う、うるさい……っ!
俺はトーストを二枚食べてから、鞄を掴み、家を飛び出した。
さすがに、陽菜が待っているということはなかった。
俺はいつもの通学路を歩いていた。
小学生や中学生の姿を眺めながら歩いていると、太郎を見つけた。
「太郎、おはよう」
「あっ、おはよう」
太郎がにこりと微笑む。
今日も朝から元気そうだな。
「有坂さん一緒じゃないんだ」
「昨日の通りだ。俺はもうあいつのわがままに付き合うつもりはないんだよ」
「そうなんだね。それじゃあ、一緒に登校しても問題ない?」
小首を傾げた太郎に、俺は頷いた。
「ああ。明日からここに集合でいいか?」
「うんっ」
太郎とともに学校を目指して歩いていく。
すぐに学校についた俺は、下駄箱をあけて驚いた。
……て、手紙!?
まさか、ラブレターか!?
ど、どうするべきなのだろうか?
俺が困惑していると、太郎がこちらを見てきた。
「どうしたの……ってそれってもしかして!?」
「ああ、果たし状みたいだ」
「そ、そっちなの!?」
「冗談だ……こ、これ……本当にラブレターなのか?」
俺が手紙を取り出した。
さすがに、ここで開くわけにはいかない。懐にしまい、俺は太郎とともに男子トイレへと移動する。
男子トイレに入った瞬間、便器で小便をしていた生徒が驚いたように太郎を見た。
「お、女!?」
「僕だよ! 芦北太郎!」
「……あ、ああ! なんだ太郎か……」
太郎が大変不機嫌そうに、男子生徒を睨み、男子生徒は頬を引きつらせながら逃げていった。
ちょうど、人払いもできた。
俺は手紙を開き、太郎は少し離れたところで俺を見ていた。
「……ど、どう? 果たし状だった?」
「……いや、違うみてぇだな。これは、ラブレター、と思う」
可愛らしい文字で、俺を放課後体育館裏に来てほしいと書かれていた。
……相手の名前は、喜多(きた)彩香(あやか)、か。
「太郎、少し聞きたいんだが……喜多彩香ってのは聞いたことあるか?」
「……え? そ、それ送り主の名前なの!?」
「あ、ああ……なんだ、有名人か?」
「こ、校内ではね……。喜多さんってたしか一年の滅茶苦茶カワイイ女子、だったと思うよ?」
「そ、そうなのか?」
ちょっと、驚いていた。
まさか、そんな相手に手紙をもらうなんてな。
「けど……そうなると、ラブレターではない可能性も高いな」
「え? 手紙の内容が違ったとか?」
「……まあ、呼び出されているだけだからな。ラブレターってのは、ちょっと早計かもしれないな」
「……まあ、それは、そうだよね? 何か、二人きりで話したい事とかあるのかもしれないしね」
「ああ……そうだな」
……以前も似たようなことがあったな。
あれは、ラブレターではなかったが、ラインで女子に呼び出されたのだ。
別にラインを個人的に交換していたわけではなく、クラスラインに入っていた女の子から、いきなり呼び出されたので大層緊張した。
俺にもいよいよ春が来るのか? 相手は結構可愛い子でもあったので、それはもう心臓バクバクだった。
ただ、いざ放課後の教室に行った俺は、そこで言われたのだ。
『た、太郎くんとの仲を取り持ってくれませんか!?』
その瞬間、俺の心は急激に冷めていった。
……太郎は確かに顔だちがいいからな。
勉強は得意だし、運動もそれなりにできる。
ファッションセンスもかなりのもので、一緒に服を買いに行ったときは感心させられたものだ。
だから、太郎との仲を取り持ってほしいと言われるのは別におかしな話でもないのだ。
結局、その子の恋を成就させることはできなかったが、まあ……それは別の話しとして。
「また、おまえのキューピッドになってほしいとかかもな」
「喜多さんでしょ? さすがに……それはないと思うけど。もしも、そういう話なら、断っていいからね」
「……いいのか? だって、滅茶苦茶可愛い子なんだろ?」
「僕、回りくどいの嫌なんだ。……直接言われたほうが、まだいいかな?」
……そうか。
「分かった。とりあえず放課後、実際に会ってみて話を聞いてみるかね」
「うん……もしも本当にラブレターだったらいいね」
「まあ、な」
ラブレターねぇ。
俺は改めてそれを見返しながら、小さく息を吐いた。
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