第伍拾弐話


 イギリスの艦隊が敵艦隊を見つけたという。普通に艦隊戦とかするのか?するつもりあんまりなかったんだが……。思わず俺は水兵たちに聞いてみる。


「艦隊戦になったら鳳翔はどうするんだ?」

「まずはこちらも偵察機出しますか?」

「偵察機?」


 どうやら、艦攻っていう空から魚雷落とせる機体を偵察に出すらしい。見つけたらどうするのかは気になる。偵察機が鳳翔から飛び立つ。すごい、ほんとに船の上から飛行機飛ぶんだ。ちょっとびっくりする、実際に見ると。


 しばらく待機していると、偵察機が帰ってきた。空振りだったらしい。何度か偵察を繰り返したりする必要があるんだとか。何しろ海の上だし、正確な位置を示すものが何もないからな。なかなか見つけるのが大変である。


 鳳翔の艦長が旗艦に連絡しているようだ。空振りを繰り返すと、今度はこちらが見つかる可能性がある。鳳翔の艦長によると、馬鹿にされたりもしたが色々とイギリスには世話になってるからここは助けたいところだそうだ。しかしそこまでしてイギリス艦隊を助けると、今度は作戦目的のル=ルイエー攻略に差し障りがでる可能性がある。


「……イギリス艦隊をおとりにするか?」

「しかしそれで作戦が成功する確率が上がるでしょうか?」


 色々悩ましい。ていうかそもそも俺はどうにもできん。と思っていたらだ。


「艦攻から打電!ワレ、ヒコウブッタイトコウセンセリ!」


 ヒコウブッタイ!?心当たりがあり過ぎるぞ畜生!艦上の士官につげる。


「偉い人に伝えてくれ!心当たりがある!とんでもない速さで飛行する怪物がいる!」

「そんなのまでいるのか!空中は我々のものかと思ったら!」


 俺のことは鳳翔の中ではもう公然の秘密だから、対邪神戦においては俺の言うことを聞いてくれるだろう。というより聞いてくれないとまずい。まずは逃げ切ってくれとしか思えない。そう思って東の空を見ていると、あちこち穴が開いていたが、偵察機が帰ってきた。


「よかった……ってよくねぇぞ!!」

「こっちにまで来ただと!?」

「対空戦闘用意!」


 偵察機の周囲に、以前戦ったコウモリのような虫のような奴が集っている。あんだけ近いとまずい!おまけにあれに普通の銃が効くかどうかも怪しい。


「おい!対空戦闘って機関砲の遺物化してるのか!?」

「あっ!?」


 下士官が気がついたようだ。機関砲ではあいつ倒せないぞ、普通なら。


「どうする!?」

「俺に考えがある!そのまま船に戻せ!」

「大丈夫なのか!?」

「あいつら仕留めないと、あれ敵の偵察機みたいなもんだぞ!」

「!!」


 こうなったら鳳翔上で戦闘させてもらうしかない。彼女(船は女性名詞とやららしい、外国語だと)には悪いが、ほかに打つ手もないからな。偵察機が着陸(着艦っていうらしい)するようだ。奴らが飛び回ってやがる。鬱陶しい羽虫め!


 偵察機が艦に降りてくる直前に、俺も艦の上に陣取る。魔剣を構えてしっかりと羽虫を睨みつける。


「魔剣、いくぞ」

『潮風にあたるの嫌だから、終わったら手入れしろよ』

「わかっとるわい。……剣禅一如……」

『……精神一刀……』

「『刀 魂 現 界 !!!』」


 無数の刀が偵察機と邪神の前に展開される。偵察機の操縦士が絶叫する。


「ほんとに大丈夫なのかあああぁぁぁぁ!?」

「俺を信じてくれ!頼むううぅぅ!!」


 俺も大声で怒鳴り返す。そのまま着艦態勢に入る偵察機。羽虫の群れもこちらに飛んできた。無数の刀の中を偵察機が突っ切っていく。……偵察機には傷一つない。


「なっ!?」

『刀魂だけの存在だ、現世のものには傷一つつかない』


 魔剣の言う通り、偵察機はそのままワイヤーに引っかかって着艦した。だが、多数の邪神、飛び交うそいつらは刀に突っ込んだ状態で真っ二つになってゆく。


『邪神の方は違う。この世のことわりで動いてないが故にな』


 魔剣がそんなことを呟く。見事に羽虫どもを斬り刻むことに成功した。


「……助かった、のか?」

「富山一飛曹!無事であるか!」

「少尉!なんとか帰投できました!」


 富山という操縦士はやっとの思いで、飛行機から降り立った。ちょっとあちこち軽傷を負ったようだが、全体的には無事と言えるかもしれない。


「それより、少尉!とんでもないものを見つけてしまいました!」

「とんでもないものとは!?」

独逸ドイツの艦です」

「馬鹿な!」

「それも、沈んだはずの艦であります!イギリスより伝えられた情報と一致します!」


 なんということだ。イギリス艦隊と連合艦隊の間にドイツ艦隊がいやがってしかもイギリスが沈めた艦だと!?


「すぐに艦長、艦隊に伝える。ご苦労であった一飛曹!ゆっくり休養してくれ!」

「はっ!」


 少尉と呼ばれた男が艦橋のほうに走って行った。それを見ながら俺は思った。こちらも奴らに見つかった。ならどう戦うか。それが問題である。

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