第伍拾参話


 鳳翔の上にまでやってきた羽虫を始末した。そして連中が独逸ドイツの沈没艦で艦隊を組んでやがるらしい。英吉利イギリス艦隊を見つけた奴らは、そっちに行くだろうか?甲板上にいた士官に聞いてみる。


「俺たちはどうすんだよ結局。あの邪神な艦隊を撃滅しに行くのか?」

「問題は二つある。イギリス艦隊を助けない場合、イギリス艦隊が敗北した後我々が後ろを取られる可能性だ。そしてもう一つ、ル=ルイエーからの攻撃と艦隊の攻撃で俺たちが挟み撃ちに遭うことだな」


 あかんやつや……これイギリス艦隊を助けない選択肢ないのでは?


「逆にイギリス艦隊を助けない選択肢の利点あるのか?」

「一番槍取れる」

『戦国の武士ならともかく、我々には利点じゃないだろそれ』


 魔剣の言う通りで、全く利点じゃない。となると後はどの時点で行くか、だが……。


「いきなり向き変えるのはあまり上策とは言えないな」

「そうでもないだろ?奴らの目は俺が潰したんだし」


 俺はそう士官に答えた。そう、飛び回っている羽虫は俺が全部始末したのだ。つまりは俺たちの居場所はわからない。なんらかの方法で通信してたとしたら話は別だが、それにしたって位置まではわかるまい。


「ってことは……」

「奇襲するしかないってことになるな」


 奇襲するのはいいけど、なるべく気づかせずに襲撃する方法なんてあるのか。鳳翔の艦橋(なんか甲板の下にあるな)の方に行って艦隊の司令部からの伝令を待っていると、司令部から手旗信号が来た。


「艦長」

「うむ。うまく騙せるといいのだがな」


 騙すって、どういうことだよ。しばらくすると艦攻が飛び立っていく。そして一時間ほど飛んでから、何事もなかったかのように戻って来た。


「神田一飛曹、戻りました」

「うむ」

「打電内容ですが、あれでよかったのでありますか」

「……あれがいい」


 何を打電して来たんだよ何を。


「『テンユウヲシンジ、ワレコレヨリゼングントツゲキス、バンザイ!』まるでこれでは玉砕ではないですか!」

「そうだ。しかも艦隊から離れた位置でな」

「……もしかして、玉砕を装って……」

「もしかしなくても装っている」


 それで奇襲かよ。えげつないな。


「言っておくが正規軍相手にやるべき手段ではない。人類をどうこうしようという相手だからこそ、こういう手も使う」


 鳳翔の艦長の言に、俺たちは自分たちが戦う相手がどういう相手かを改めて確認させられた。


 イギリス艦隊の打電の方向に艦隊は全速で向かっている。イギリス艦隊が邪神艦隊(仮)と激突し始めているようだとの打電が入ってくる。


「これはまずいな……」

「第六駆逐艦隊が突入します!」


 松原大佐か!人類で一番邪神と戦ってる船乗りだろうからな!イギリス艦隊と撃ち合いを始めた邪神艦隊だが、突然、次々と艦が吹き飛び、艦体ごとへし折れる。航跡見えないの怖すぎるだろ酸素魚雷。


「第二、第三駆逐艦隊突入!」


 砲撃と同等、いやそれ以上の魚雷が叩き込まれる。そして背後から長門、陸奥、金剛級四隻の火力が叩き込まれる。邪神艦隊の数もイギリス艦隊よりは多かったかもしれないが、真横から突然突っ込んできた連合艦隊と合わせると話は変わる。攻守交代だ。


 駆逐艦隊が転進した後、連合艦隊の火力が邪神が作り上げた独逸の沈没艦を、次々と再び海の藻屑に変えてゆく。ここまで欧州から持ってきたの無駄だったのでは?ご苦労なことだよ。頭をイギリス艦隊が抑えてくれてたので、背後から1tに及ぶ巨砲の砲弾を大量に叩きこめてゆく。反撃する間もなく沈んでゆく邪神艦隊。


「あいつら……素人なんじゃないか?」


 鳳翔の艦長が思わず漏らしたのを、俺は聞き漏らさなかった。そらね、確かに凄いよ。沈んでた艦を動かしたりするのは。だけど、それと艦を動かす訓練とか砲撃訓練とかは話が違うだろ。おまけに戦略とか軍略とかの達人ってわけでもないんだろうしな。


 果たして戦いは、あっさりと終わってしまった。多少の被害はあったが、大したものではなかったし、ル=ルイエー攻略に影響は全くない。何しに出てきたんだろうな。

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