第肆拾陸話
あのダゴンとかいう奴が東京湾に迫っているという。あんな巨大なの相手にするのはさすがにしんどい。そういう意味では、水雷戦隊にでも戦ってもらったほうがいいんじゃないかという気はする。さらに言えば海の上である。日も傾いてきた。水上での戦いは厳しい。
「こうなった以上、ストライキやサボタージュをするわけではないが、これは厳しいな」
「ダゴンってあの怪物だったよな」
「既に松原大佐が水雷部隊を回してくれているそうです!」
俺たちがそんなことをはなしていると、霧島さんが電話口で叫ぶ。それを聞いたとき思ったよ、大佐はできる男だって。知ってたけど。函館であれ見てた桂木は同意してくれているが、うん、ここは大佐に頑張ってもらうしかない。
「しかし帝都の目と鼻の先だろ?」
「車塚様」
「了解ですっ!寺前さん!桂木中尉殿!行きましょう!」
……えっ?
元気よく星御門の指示で車塚が叫んでいるけど、俺どこに行くの?桂木も不思議な顔をしている。
「何してるんですか二人とも!早くいきましょう!」
「あ、ああ」
「車塚さん、行くってどこに?」
「決まってるじゃないですか、横須賀ですよ!」
横須賀?ここからだと結構距離があるんじゃ?その疑問への答えは最悪の形で裏切られた。
「警察が道を封鎖してくれるそうなので、さらに飛ばせますよぉ!!」
車塚が何を言っているか理解できない。桂木もあたふたしている。星御門に連れられ、外観だけそのままの魔改造T型フォードに乗せられた俺たちは……地獄を見た。
「おいいいいい!!この車って、走ってるよなぁ地面!?」
「走ってますよお!全速力でねぇ!!!」
桂木が絶叫している。舌噛むぞ。そう、これが車塚の運転なんだよ。警察も道をわざわざ空けてくれて(前回は空けてなかったから余計にそう思うが)さらに速度出てないかという気がしている。俺は確認してみる。
「車塚、前より速い気がするんだが、気のせいだよな?」
「もちろん速いですよぉ!
なんだよそれ聞いてねぇ!!車って爆発で走るらしいんだが、その際にさらに空気入れると力がすごいんだって。知りたくなかった。
誰だよこの邪神も真っ青になって引くような改造許したのは!?
「こんな無茶苦茶な改造して文句出ないのかよ!?」
「関沢さんは大喜びでしたよぉ!御隠居様が面白いから許すとか言っていたって言ってますしぃ!」
「で、どのくらい速いのこれ」
「95は出ましたよぉ!」
「キロメートルだよな?な?」
「それだと前より遅くなりますよぉ!もちろんマイルに決まってるじゃないですかぁ!!!」
畜生国家公認で暴走許可しやがった!この暴走娘は最早誰にも止められない。邪神なら僅かに可能性はある気がするが、そもそも邪神の血を吸った魔車と化しているこいつに邪神も近寄りたくなかろう。
「……生きて横須賀に着くぞ、桂木」
「あ、あぁ。遺書は書いてはいるが……」
「なに言ってんですか!最速で行きますよぉ!」
『それをやめろって言っているんだ!!』
魔剣の叫びは車塚にはもちろん届かない。この車の速度たるや落ちゆく陽の何倍もの速度だというのに、俺たちが感じる乗車時間は無限に続くかのようだった。だって揺れるし吹っ飛びそうになるし、本気で怖いんだぞ!!
横須賀にT型フォード(対邪神暴走仕様)が到着したのは日が落ちる直前だった。普通だったら急いで行っても夜になってたと思うけどな!ここまで急ぐ必要はなかったんじゃないかな!
「い、生きている……」
「生きてるの素晴らしいな、桂木」
「頑張ってくださいね!」
などと
『疲労回復の時間を考えたら、ここまでやる必要なかったのでは?』
魔剣のいうことは正論だと思う。肩で息をきりながら、横須賀の港でダゴンを待つ。待っているうちに、どこかで見たやつが現れたではないか。
「大澤、中佐……?」
「誰かと思えばお前らか」
「何をしにここに?」
「怪物とやらを始末しにな」
「始末だと?」
大澤が悪い顔をしている。
「機雷を用意してある。怪物が近寄って触雷したら、ドカンだ」
「遺物は使っているのか?」
「そんな非科学的なものなど使うまでもない」
結構な自信だな中佐は。
「そもそもあれほどの身体が器用に機雷を避けることなど、あり得ないだろう」
着々と失敗への一里塚を突き進んでる中佐の笑顔を見ているうち、俺はある不安を覚えた。
「そういえば、ここは……」
「天城の建造中なのだが、震災で打撃を受けていてな」
「天城?巡洋戦艦だったか」
「復旧できるかどうかもわからないが」
こんなところにいるのも大丈夫か不安になってきた、というより不安しかない。まさかと思うが、ダゴンの狙いはこの天城だったりしないよな?天城を取り込んで邪神戦艦になろうとしているのか、ないよな?ないと思いたい。
爆発音が水中からしてきた。どうやらダゴンが機雷に触雷したらしい。そして機雷に怒ったダゴンが、機雷をぶん投げてきやがった。
「おいおいおいおいおいうそだろぉ!」
「事実だ!星辰……いっとおりゅう!零縮!!」
俺は桂木と大澤を掴んで横っ飛びに吹っ飛んだ。転がりながら機雷の爆発から逃げ回る。
「助かった、寺前」
「気にすんな、それよりお前ら逃げろ」
「帝国軍人が逃げるだと?あのような下等生物から!?」
『下等生物だとは思えんがなお前より』
「お前酷いこと言ってないか魔剣」
大澤の発言に暴言で返す魔剣に、俺はちょっと酷いなと思った。
「こうなったら艦砲を使うしかあるまい!」
「それも動き止めないと無理じゃないか?そもそも、あいつ来たぞ」
「えっ?」
大澤が振り向いた瞬間、ダゴンがその触手を大澤に向けて振り上げようとしていた!
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