第肆捨肆話


 頭の硬い海軍の決戦派が、俺たちのことを冷たい目で見てきやがる。だいたい亜米利加アメリカで被害が沢山出ているという、邪神被害のことを考えてみてみろ。水雷畑の松原大佐は実際邪神の土手っ腹に魚雷叩き込んでたわけで、そこらへん実感できてたようだが。


「大澤中佐はそう言っているが、写真は見たのではないか?それとも君は私が写真を捏造したとでも?」

「そうは申しませんが、あの存在が人類の敵として我らと対立する存在であるという証拠は無いのでは」


 写真とはいえ、あれ見てまだそんなこと言えるのは大したもんだわ、逆に。証拠が何もないならまだしも、これだけ被害の状況の話やら色々な情報見てなおそれか。思わず俺は聞いてしまった。だって状況証拠的にそうなるじゃないか。


「大澤中佐」

「なんだ貴様」

「まさかと思うが、信奉者ではないよな」

「信奉者とはなんだ」

「邪神の力を手に入れて世界を滅ぼそうとする奴らだ」

「そのような力を手に入れるなどと、非科学的にも程がある」


 あ、これは違ったわ。非科学的とか言ってる割には、状況証拠については一切検証するつもりもないのがはらだだしい。


「非科学的かどうかはサテおいて、被害はセカイの各地でオキているのデスが……」

「何故欧米人が陰陽師のところにいるんだ……」

「差別的な発言はよくないぞ大澤中佐。それでは合衆国の大統領の発言と五十歩百歩ではないか」

「そういうつもりはないのですが、松原大佐……」


 差別とかどうでもいいが、被害を受けている国が世界の各地にあるわ、日本だってひと事ではないわなのに何を言っているんだろうなこいつは……。星御門の目つきが怖くなった。


「ということは海軍は敵に回すつもりですか、陛下や西園z」

「御国のお船をそのような怪しいものの為に使うのが馬鹿馬鹿しいと言っているのだ、陰陽師」

「戦艦長門は、関東大震災の時に全速で駆けつけてくれました。被災民たちもそれに感謝しています」

「何をいうかと思えば……」


 星御門が怖い目をしたまま、大澤中佐にこう語りかける。


「御国のお船は、何のためにあるのですか?」

「それは皇国を護るためにだな」

「何からですか?」

「何からとは、無論敵からであろう」

「敵とはいかなる存在ですか?」

「無論、敵国となった国家の艦では」


 星御門が溜息をついたのに俺は気がついた。他の面々も同様である。


「御国の為、本当にそうなのですか?御国とはいかなる存在ですか?」

「それはみかどを中心としたこの国そのものであろう」

「帝と国民、どちらも護ってこその御国のお船なのではないのですか?敵を倒すのが目的となっているのでは……大切なものを失わないとよろしいのですが。目的と手段の取り違えだけは、くれぐれもなさらないように」

「貴様のような者に言われずとも分かっておるわ、陰陽師」


 分かってないからそう言ったんだぞ、と目で星御門が言っている。


『こやつのような武士は戦国の世に多数いたが』


 魔剣が何か言い出したぞ。思わず返答してしまった。


「確かにいただろうなたくさん」

『だいたい死んだ』

「死んだか。まあ死ぬわな猪武者は」

『おまえは猪武者にはなるなよ』

「なりたくてもなれんわ」


 この大澤中佐が猪武者かどうかは知らないが、その一方でこいつ何したいんだよとは言いたくはなる。俺は思わず皮肉を言ってしまう。


「大澤中佐は結局、西園z……御隠居が陛下や各国を動かして艦隊動かすのやめさせろと言ってるのか?」

「そうだ」

「つまりそれは陛下への反逆がしたいんだよな?」

「違う!人を賊軍みたいにいうな!」

「でも艦隊は動かしたくないんだろ?」

「貴様らのような奸臣に艦隊を無駄に動かされたくないだけだ!」


 言うに事欠いて奸臣はないぞ奸臣は。俺たちだって命の危機に遭いながら、ここまで戦ってきたんだ。そこまで言われたら、こちらだって考えがあるぞ。


 俺は小声で星御門に話しかけた。星御門は驚いた表情をしたが、そのままトーラスに話しかける。松原大佐と桂木にも小声ではなした。


「そうか。分かった」

「何が分かったんだ?」

「そこまで言われたら俺たちもやる気無くすわ。勝手にしてくれ」

「何をいうかと思えば」

「やる気がなくなったから、邪神対策は海軍の、それも艦隊派でやってくれるか」

「えっ?」


 俺以外にも、松原大佐や桂木も、そしてトーラスと星御門もうなづいている。


「ストライキって知っているか?」

「ストだと?貴様らはソビエトの何かなのか?」

「馬鹿野郎、労働者の権利くらい守らせろって言ってんだよ。協力取り付けられないなら艦隊派で邪神対策しろよ」

「職務放棄だろうが!」

「有り得ないとか存在しないとか言ってたのはそっちだろが!なら存在しないんなら対策もしなくていいなよかったな!」


 大澤中佐は顔を赤くして震わせ始めた。そのまま席を立ってしまった。


「貴様らぁ!覚えていろぉ!」

「生憎記憶力には自信がない」

「後悔するなよ!」

「そっちこそな」


 こうして俺たちはストに突入してしまったのだ。御隠居と陛下にもこの件についてはストしていただきたく。

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