第肆捨参話
御隠居を送って行った俺たちは、星御門邸でこれからのことについて再度説明を受けている。艦隊戦をしないといけなさそうな上、おまけに
「それにしても、世界のお偉いさんたちよく艦隊とか動かす気になったな」
「アメリカは世界でイチバン邪神のヒガイが出てマスから、battle shipくらいダシます」
「そんなに被害が酷いんですか、トーラス様」
「ハイ……多くのギセイシャが発狂したり死んだり行方不明になってイマす。神は赦しが必要だといいます、シカシ……」
トーラスは信仰と怒りの端間で揺れているようだ。
「トーラス様……赦すべきでないのは邪神より信奉者たちだとは思います」
「そうなのか星御門」
「はい。寺前様、今回の事態が引き起こされているのは星辰の揺らぎも原因の一つではあります。しかし、その状況を用いて世界を滅ぼすなどということはあってはならない」
星御門は静かに怒りに燃えている。そうだ。ここにいる人間は何かを邪神、いや信奉者に奪われてきたのだ。俺は……元々何もなかった。だが、何もなかったからこそ奪われててはいけないと思う。
「それで、俺はルルイエに突入して目覚まし時計を破壊するとして、みんなは何をすることになるんだ?」
「実際のところ、我々までルルイエに突入というわけにはいかないと思います。最悪発狂死が待っていると思いますので」
星御門が発狂死する気はちょっとしないんだが、可能性考えると否定はできないかもしれないな。
「寺前様の準備を手伝うことになるかと思います。突入時には貴船様と霧島様の支援がないと、おそらくはまともに進めないと思います」
「それは必要なのか?」
「はい。内部は視覚はおろか五感全てが異常をきたす空間だと考えられています」
そんなとこに俺一人行かせるんじゃないよ御隠居。……いや逆に俺一人で済むなら安いものかもしれないけどさ。それに俺も決死隊にならないんなら、そりゃその選択肢しかないわな。
「逆に貴船さんと霧島さんは大丈夫なのか?千里眼とはいえそんなのを見るってのは危険すぎるのでは?」
「そこは私がフォロー……じゃない手助けするわ」
「八木がか?でもなんで」
「ここまで来たらあんたに賭けることにするってことよ。はっきり言って代々木嫌いだったし」
そんな理由で裏切られるとか、人望なさすぎだろ代々木の奴。俺も嫌いだけど。
「護衛は私と五條様が行います。そもそもそうそう私たちを捕まえられないようにしようと思っておりますが」
「どうするんだよ、ちょっと不吉な予感がするが」
「はい。最悪の場合、車を使います」
「車」
もう既に五條と八木がぷるぷると震えている。うん、あれは心的外傷になるだろ。そりゃそうそうあれに追いつける方法はないだろうけどさ、
「逃げるったって
「御隠居様が軍に融通してもらうとのことです。タンクごと」
軍も大変だな。それくらい重要な任務ってことだろうけど。
「一応陸軍からは俺が出張らせてもらう」
「頼んだぞ桂木。……死ぬなよ」
「お、おう。そちらに比べたら安全だと思うが」
「……なら、いいんだがな……」
五條と八木も震えながらうなづいているが、桂木は怪訝な顔をしている。そりゃ乗ったことがないなら理解できないだろう。邪神に相対したことがなければ、脅威を認識できないのと同じだ。
「そういえば、海軍からは何か言ってこないんですか?」
「海軍も概ね理解してる奴は理解してる。ただ……陸海共同とかいうのに肯定的でない奴もいて面倒なことになってるって、海さんの偉い人嘆いてたぞ」
「それは困りますね」
「特に艦隊決戦派の連中とか、なんとか我が国の艦を温存して英米に任せたいとか寝ぼけたことを言ってやがる」
「そんなんだから日英同盟やめたんじゃないの、イギリスも」
八木のいうことも分からなくもない。せっかく日英同盟やれてたんだから、金剛級の二隻くらい貸してやっても良かったのではないか?沈められたらまた作ってもらう約束で。
「ここですか。陰陽師とかいう非科学的なことを言ってる連中は」
「大澤……この後に及んでまだそんなことを言っているのか。見ただろう函館であいつを」
「それとこれとは話が別であります!」
なんだか玄関の方からそういうやりとりが聞こえて来る。
「来たよ……決戦派のめんどくさい使い走りが」
「陰陽道は本来は科学と敵対するものではなかったのですが……」
桂木も星御門もため息をついている。そんな面倒な奴なのか。
「海軍大佐の松原であります。お邪魔させていただきます」
「星御門です。本日はよろしくお願いいたします」
「大佐!まさか、あの話をそのまま!?」
「そちらの方は?」
「大澤中佐だ。水雷所属の私とは所属は異なるが、今回どうしてもということで同行している」
うん。頭が硬そうだわ。
「海軍って頭が柔らかい人多いんじゃなかったんですか?」
「あいつらは別なんだろうよ。組織なんだからそういうもんかもしれん」
貴船が桂木に聞いているが、実際どうしたもんだろうな。水雷の松原大佐はあの怪物と実戦やったのか。あの見越しは大したもんだった。
「松原大佐。函館の一戦は見事でした。あの采配はあなたが?」
「そちらは」
「寺前様です。今回の計画の肝です」
「いうならば対邪神人型決戦兵器だな」
星御門と桂木にとんでもない他己紹介をされてしまう。松原大佐はにこやかにしているが、大澤中佐は不服そうだ。
「対邪神人型決戦兵器だと?馬鹿な」
「俺は対邪神人型決戦兵器というくらいな、寺前の活躍を見たんだがな」
「どういうことだ?」
「羆を日本刀で倒した」
「ひ、ひぐまぁ!?ば、馬鹿なことばかりいうな貴様は」
大澤中佐は、桂木のことをなにか変な生き物でも見るかのような目で見ている。
「他にも証人ならいくらでもいる」
「私も話は聞いている。あの怪物の眷属と戦っているとはな」
「松原大佐……自分はそのようなものに我が国の艦を使うなど、許されることではないと思います!」
俺は思わず大澤中佐を変な生き物を見る目で見てしまった。
「なんだ貴様」
「いや、なら見たら信じるのか?」
「それは……場合によるな」
なら信じさせてやろうかとふと思う。一度見たら感想も変わるかもしれない。
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