第肆捨弐話
御隠居たちと世界の偉い人たちが、信奉者相手に艦隊戦はじめることになったらしい。でも思うんだが、艦隊戦なんかするような状況で俺が何かすることあるのか?信奉者と邪神も一枚岩じゃないというし、なおのことすることなくね?魔剣がぼやいている。
『我々の出る幕では無さそうだなもう』
「全くだ、俺はもう関係ないな」
「何を言っておる寺前。お前をルルイエに送るためにやるようなものだぞ?」
何言い出してんだこのじじい。なんで俺が南半球の太平洋のど真ん中に行かないと行けないんだよ?
「どういう……ことだ?」
「邪神への物理的な攻撃は、それなりに意味がないわけではない。だがな、本気で邪神を殺す手段など人類が持ってると思うか?」
「これ?」
俺は手元の魔剣を見せる。御隠居は髭をいじりながらこう答えた。
「それはある意味で、邪神の側のものだ。そういう意味では人類が邪神を殺す手段などないと言えばないし、あると言えばあるということになるな」
「んで、これをどう使うっていうんだよ。クトゥルーは別にやる気ないんだろ?寝たいって言ってるみたいだし」
「邪神は一柱に限らないのだ。クトゥルーはそこまで人間に手を出さないつもりだとしてまだ、他の神はどうか。また信奉者たちはクトゥルーをけしかけるのが狙いであるし」
頭痛くなってきた。そうなると他の邪神を防ぐためにも俺たちは必要ってことか?
「つまり、俺にどうしろと?」
「そうだな。お前には、ルルイエ突入作戦の決死隊をやってもらうと」
「決死隊」
「決死隊」
ふざけんじゃねぇぞ桂木!死にたくないってんだよ!御隠居も目を閉じてうなづいている。
「冗談だよな」
「ではないな」
「俺に死んでこいと?」
御隠居が閉じていた目を開ける。そして静かに口を開いた。
「……他の人間なら死んでこいと同意になるが、お前に関していうなら死んでこいと同意にはならない」
「どういうことだよ」
「我らの狙いはクトゥルーの覚醒阻止だ。目覚まし時計は知っているか?」
御隠居がそんなことを言ってくる。そういえば以前見たことがあるな。あれくそうるさいんだよ。
「一応な。自分で使ったことはないが」
「そいつに相当するものが信奉者の手により、クトゥルーの寝床に仕掛けられてるらしい」
「目覚まし時計がか」
「本来の目覚める時間と違う時間にな。そして目覚めると人類は滅ぶ」
最悪じゃねぇか畜生。俺は桂木にさらに質問を追加することにした。
「んで俺は何をしてくればいいんだよ」
「その目覚まし時計を壊してこいってことだ。クトゥルーを寝かせておくために」
「なるほど。凄く話が単純になって助かった。でもなんでそれが俺以外だと決死隊なんだよ」
「相対したらよくて発狂、下手したら即死の相手だぞ?むしろお前の存在が異常なの」
なるほど。クトゥルーも目覚まし時計仕掛けられた、助けて!って思ってるとしても助けにきた人が死んだんじゃ助けにもなりゃしないってことか。なんかかわいそうになってきた。でも待てよ。
「代々木たちはなんで仕掛けられるんだよそんなもん。あいつらだって人間だろうが」
「あいつらが人間に見えるのか……お前の方が人間ではないのかもしれないな……」
おい御隠居、冗談でもそれはねぇよ。人間でなければなんなんだよ。
「既に代々木たちは単なる信奉者という域を超え、邪神の眷属、いやもはやほぼ邪神という域に達しておる」
「邪神といっても強いのも弱いのもいるからその中では下の中くらいかもしれないがな」
それでも大概ではあるな。……間接的にお前も同類と言われているような気もしないでもない。桂木と御隠居の言い方にそれを感じる。
「にしてもだな、いくらなんでも信奉者たちが艦隊とか持ってるってにわかには信じがたいんだが。どうやってそんな艦隊を隠蔽できるんだよ」
「……むしろ逆でな。よく気がつけたなというのが正直な感想だ」
「どういうことだ?」
「邪神の力を使って艦隊のようなものを作り上げた。としたら?」
本当にそうなるとよく気がつけたなという感想しか出ない。そしてその艦隊のようなものと艦隊戦ができるとも思えない。思わず聞くしかない。
「それが本当だとすると、そんな連中に人類ごときの艦隊が勝てるのか?」
「なるほど、たしかにそう思うだろうな。そこでだ。お前がこれまで仕留めできた邪神や遺物が大量に手に入ったのは助かったってことだ」
「どういうことだ御隠居?」
「艦の艤装を邪神の遺物化させる」
邪神ナガトとか邪神コンゴウにするのかよ!?いいのかそれで!?今までで1番引いたわ。
「奴らが邪神を使って艦隊作り上げたのなら、こっちは艦隊を対邪神仕様に変えるだけだ。函館で特型が邪神に一太刀浴びせるのを見たのではないか?」
「やけにあっさり邪神が大怪我してると思ったわけだ……」
化物には化物をぶつけるだけ理論か。勝った方が人類の敵になるだけじゃないのかそれ?
「というわけだ。勝算もなくはないことがわかったのではないか?寺前」
「わかったけど、最後のルルイエ突入の決死隊が俺ってのだけが勝算下げてないか?」
「そんなことはない。己を卑下するでない」
御隠居はそう言ってはくれたが、不安はあるにはある。
「さてと、儂はそろそろ戻ることにしよう。艦隊を動かすには金も理由もいるからな」
「お送りします。寺前様、護衛を願います」
「わかった」
星御門が車を出すことなったので俺もついて行くことになった。車を見ると今度はT型か、良かった、爆走車ではなかった……と思って速度板を見るとやっぱり80までついてやがる。こいつもか!
「それではお送りしますね?」
「おお、若い娘さんが運転手とな?」
「御隠居、そうはいうが、この中では一番に運転がうまいぞ」
「それもそうか……では、よろしく頼む」
「はい。御隠居様のお屋敷までお送りいたします」
車塚はそういうと、静かに車を走らせ始めた。まともに走れるのは知っていたが、どうしてもあの爆走の記憶が残っているので、不思議な気分である。T型フォードは、東京の街並みをするすると走って行った。
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