第参拾玖話
多世界解釈。そう俺が言った瞬間、代々木の表情が何か恐ろしいものでも見たかのようなものに変わった。
「……どういうことだそれは」
「この世界でない世界が無数にあるというのは、お前らも知っているんだろ?むしろそういう世界を使っているのだろう?」
「馬鹿な……そこまで辿りついているとは……」
代々木が八本の闇の刃を振りかざし、俺に襲いかかってくる。急に雑になったのは俺の発言からか。
「人類がその領域に、たどり着くなどあってはならないことだろうが」
「知るかよ。自然がそうなってんなら人類が使おうが他の誰かが使おうが文句言われる筋合いはないだろうがよ」
「驕り高ぶるなよ人類」
「お前も人類だろうが!」
雑な攻撃をかわしながら、俺は意識を最大限に集中する。呼吸を深く、深くする。宇宙の深淵に繋がるように呼吸をする。
『剣禅一如……』
「星辰一刀流……」
宇宙は一つではない。ゆえに他の宇宙と繋がれば可能性が爆発的に増える。そう、こんなふうに。
「無神喪閃……三千世界!!」
俺が斬撃を放つ瞬間、代々木はかわせたと思っただろう。だがその背後には俺がいた。その俺の斬撃をもかろうじてかわしたその先に、また俺がいた。あまりの異常事態に、さしもの代々木もかろうじてかわしたり闇で防いだりしてはいたが押し切られようとしていた。
幾千もの世界を繋いだ。
そのことが代々木にもようやく理解できただろう。無数の俺の斬撃を受け止めているうち、闇が薄れ始めた。圧倒していたのは奴ではない、俺の方だ。俺の無数の斬撃がついにやつに届く!ここで仕留められる!!
……そう思った次の瞬間。
俺は何かにぶつかった。ここでか!畜生!
「犬神いいいいぃぃぃ!!」
かなり離れて代々木を連れ出した犬神。俺は叫ぶしかなかった。
「遅くなりました」
「助かった。想像以上にまずい存在になったなあの身体は」
「ですがここは」
「わかっている。その身体預けておくぞ!警官!」
そういうが早いか代々木と犬神の姿は消えてしまった。
「畜生おおおおぉぉぉぉ!!」
俺は地団駄を踏んで叫ぶしかなかった。ここにきて逃げられるとは!ここまで追いつめておいてか!
「寺前!無事か!」
桂木が駆け寄ってきた。俺は無事だし、貴船千鶴も無事だ。しかし……
「すまん、逃した。あと少しで代々木を仕留められたのだが……」
「仕留められるのか、あれ」
桂木は特に俺を責めるわけでもないどころか、俺のことをなんだがよくわからない存在と見做していることがわかった。責められないのはいいけれど、代々木ってどういう扱いなんだよ。ちょっと気になってきた。
「仕留められるのかって……あいつどういう扱いなんだよ」
「人間以外なんじゃないのか?陸軍でも犠牲出てるしまともな存在じゃないと思ってはいるが」
そこまでか?星御門も桂木も代々木のことかいかぶりすぎてはいないか?
「うーん……寺前がそこまでやれるんだったら俺たち総出で支援したら、あいつ仕留められるかもしれないな」
「仕留める仕留めるっていうが、逮捕とか必要じゃないのか?」
「……あそこまでのやつを生かして捕まえるの無理なんじゃないのか?」
そういうものなのか。そういう扱いだったらとっとと始末した方が良さそうではある。良さそうではあるが、どう決着をつけるかそれも問題ではある。
「そもそも代々木が何をしたいのか、俺十分わかってないんだが」
「世界を破滅させるようなこと、それで十分だとは思うが……」
「どこで何をやる気か分からないと、それも止められないだろうが」
桂木が唸っていると、貴船千鶴が桂木を覗き込んで言い出した。
「桂木様」
「どうした、貴船」
「私はこれから、こちらの方と向かわねばならないところがあります」
「どういうことだ?陸軍と邪神が戦うのに貴船の存在は……」
「世界を滅しかねない存在を、一つの国の軍で相手どるのは難しいと思います」
「それはそうだが……」
「貴船さん」
気になったので聞いてみることにする。
「俺は何をすればいいんだこれから。そしてどこに行けばいい?」
「そうですね……まずは『資星堂ぱぁらぁ』……!?」
なっ!?ひょっとして見ているのか!霧島さん!?
「帰ったら電話するから大人しくしてなさい霧島さん」
「『は、はい……』今のは?」
「霧島さんっていう、千里眼の能力に覚醒した
千里眼って域じゃないだろ、他人操作して俺の顔を引っ張らせるのは。
「って、これが彼女の……力?」
「そうだけど、こんな
「この力……進化して……そうですか。寺前さん」
「なんだ?」
「私も貴方と一緒に……ってなんで!?」
だからなんで俺の顔を引っ張らせるんだよ霧島さん!俺になんの恨みがあるんだよ!!
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