第参拾漆話


 ヒグマを使っての襲撃に加えて誘拐とか、代々木や信奉者の連中ってのは犯罪の萬屋よろずやでも開くつもりなんだろうか。そもそも人類滅ぼしたら犯罪もなくなるという論理か?革命に失敗した童貞野郎ロペスピエールは単なる童貞犯罪者だが、革命に成功したらある意味で英雄なわけだ。


 ……代々木を英雄にさせるわけにはいかないがな。装備を整え、地図を広げて代々木たちの居場所を特定しようとしていると、桂木が俺たちのところにやってきた。


「見つかりそうか?」

「倉庫も多いからな……ただ、いくつかの特徴から優先順位は設定できそうだ」

第七師団おれたちもかませろ。千里眼の娘きふねちずるかどわかしたあいつらに目に物見せてやる」


 気持ちはわかるが、軍が動いたらあいつら逃げないか?さすがにそれはまずい。


「気持ちはありがたいけど、大丈夫なのか?軍が勝手に動くとか、大問題だろ」

「この件に関しては、軍も政府も意思は一つだ。あの海さんですらこの件にだけは力を貸してやるとか言ってきてやがる。だいたい怪物が跳梁跋扈ちょうりょうばっこしてるのを放置しているられるわけないだろが」


 それはまあそうだが、あまり血気にはやられるのもどうかと思う。


「言いたいことはよくわかったが落ち着け。いきなり全員銃殺とか爆殺して、人質吹き飛ばすのはまずいんじゃないか?」

「おまえ陸軍おれたちのこと殺人鬼か何かと勘違いしてないか?それにだ。俺たちには秘密兵器もある」

「秘密兵器?なんだよそれ」

「おまえもし、空から人間降ってきたらどう思う?」

「女の子がとか?」

「ばかいえ。鍛え上げた我ら陸軍がだ」


 そんなの驚くに決まってるわな。普通に考えたら人間は空を飛ばないんだから。


「飛行船ってやつをだな、こっそり入手した。亡くなった開発者には申し訳ないが有効活用させてもらう」

「飛ぶのか」

「飛ぶ」

「それならそうか。そういう手もあるか」

「どういう手だ」


 俺は桂木に悪だくみを話してやる。桂木は最初不満そうな顔をしていたが、徐々に悪い笑顔になっていった。俺も同じ顔をしていた。その話を他の警官にもすると、警官が半笑いになったりあきれたりしている。いいんだよどうせやるなら悪いほうが。



 霧島さんの千里眼をもとに、目的の場所を目指すことにする。港の倉庫といっても函館の港が大きくて泣けそうではあるが。とはいえ、特定の数字が見えるとのことなので、そうなるとかなり範囲が絞られるという。そして陸軍と警察で港を封鎖し、海軍の新鋭駆逐艦が海を封じる。駆逐艦って言っても今のでかいんだな。なんか場合によっては戦艦沈めることもできるとかいうけど、さすがにいいすぎではないか。


 ここまでやっても不安が残るのは無理はない。何しろ相手は羆をけしかけ大量虐殺を謀ったり、人を拐かしたり、挙句に人外使って人類絶滅を企んだりしてる外道だ。そんな連中の思い通りにさせるわけにはいかないだろうが。正直なところ羆も人外も被害者なんじゃないかと思っているが、とはいえそのままにしておけば人類に甚大な被害が出るのも目に見えている。


 俺は警官達と倉庫内を探している。しばらくみていくと該当してると思われる倉庫があった。警官に指示して軍の方に知らせてやる。さあいよいよだ。


 ……空を一切音を立てず無音で何かが移動してくる。そして、倉庫に向かって何かを落としていく。そのまま通り過ぎていく。予定通りだ。


 しばらくすると倉庫内から悲鳴が聞こえてきた。


「うおおおおくせええええ!」

「なんだこの匂いは!」


 混乱している倉庫の中に警官と軍人達が流れ込んでゆく。その催涙弾にはとうがらしやらにんにくやらの成分が含まれていると聞いたが、効果は覿面てきめんだ。


「警察だ!大人しくしろ!」

「なんで!?警察なんで!?」


 悪臭と大量の警官達の襲撃に、信奉者たちは混乱しながら出てくる。何かを召喚しようとするやつも当然のように出てくるが、


「星辰一刀流!羅刹!」

「なっ!?き、斬られた……遺物になんて……」


 そういうのは俺の出番だ。一閃の元に斬るのみだ。殺されないだけマシだと思うがな。混乱の極みにある倉庫の中で、俺は人質を探す。倉庫の中だいぶん臭いんだけど……目も痛い……。


 しばらく探して部屋を開けまくっているうちに、牢のような鉄格子を見つけた。中に女の子がいるではないか。俺を見るなり女の子がこう言ってきた。


「く、臭っ!?何が起きてるんですか!?」

「安心しろ!君を助けに来た!」

「そうなんですか?でも臭いです……」


 なんか俺が臭いみたいに言われて、少し泣けてきた。


「待ってろ、今出してやる」

『剣禅……一如』

「星辰一刀流……奈落っ!!」


 大きく牢の鉄格子を叩き斬る。女の子ば少し驚いたようだが、こちらにやってきた。少し疲れてはいるようだが、元気そうだ。


「貴船千鶴さんだな」

「はい」

「早くここを出よう」

「そうですね、臭いですし」


 それは俺たちのせいだから正直すまんなと言う気持ちもなくはない。乾いた笑いを浮かべながら外に出ようとすると。


「思ったより早かったな、久しぶりにあったが」


 そう言ってくる男の顔を俺は忘れてはいない。代々木の奴だ。そして外では砲撃と銃撃の音が激しくなっていた。


「何が起きてるんですか!?」

「代々木め、何かを呼んできたのか!?」

「お前たちごときに大げさかと思ったが、駆逐艦まで持ってくるなら仕方ない。ダゴンの力で押し通るまでた!」


 宵闇に駆逐艦の探照灯から照らされるのは、船に匹敵する大きさの巨大な蠢く触手のような闇だった。

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