第参拾肆話
おそらくこのままいくと
そんなわけで俺は羆に喰い荒らされた仏さんとご対面している。喰い荒らされ方が激しすぎて単なる肉塊にしか見えねぇ。この肉塊があると、人喰い羆は再びここにきて食事の続きをやるらしい。殺人犯と発想が変わりない。それならここで待っていたら羆がくるのではないか?そんなことも思ったが、もうすぐ雪も降ろうかという時期の北海道で外でうろうろとか無理だ。しかし人喰い羆を探すにも、北海道の夕暮れは短い。
「奴を早めに見つけないといけないな」
警察とともに山狩りを行っている地元の猟師の面々はそういうが、むしろこうなったのは代々木たちが原因なわけだ。
「いや、だったら探すのは殺人犯の方だな。どうせ代々木はまた似たようなことやるだろ。それにだ」
「それに?」
「いくらか代々木が人間離れしているといっても、寒さはこらえられないだろ」
『なるほど、珍しくさえているな』
「言ってろ。とにかく代々木たちが次に誰を狙うかだ」
ということになった。山狩りの面々とは別に、俺と一部の警官は山と街の間を重点的に捜索することにする。犬とかに匂いでも嗅がせればいいんじゃないか?警察犬に血のにおいを追わせる。こうしてしばらく捜索を続けていると、おかしなことが分かった。
「血の匂いが途中で消えている?」
「はい、そうとしか考えられません」
「何らかの方法で後をつけられないようにしたんだな」
空間操作、かもしれんな。犬神は結局倒せなかったから、代々木についてきていろいろやっているのかもしれない。きちんと逮捕すべきだったか。いや、でもあそこで逃げられるのは仕方がないか。
そんなことを思っていると……出たよ。
「……羆だ」
「大きな声を出すな。……様子が変だぞ」
「猟師を呼んできます」
警官たちがせわしなく動く。俺も慎重に様子をうかがう。……羆って頭に角生えてたっけ?頭に変なものついてるのも変だし。
「なぁ、あの額とか頭のあれ、おかしくないか」
「……何かのできものですかね」
「それで変な行動をしている、ありうるな」
警官たちは納得してしまっているが、俺は最悪の事態を想定している。あいつら、最悪中の最悪の手を使ってきやがった。
「おいおい……羆を邪神の眷属に操らせるってのかよ」
「え?」
「おまわりさんたちは下がってくれ。これは俺でないと……無理だ」
「何を言ってるんだ」
「いや、ここは従おう。ただ、死なないでくれよ。死んだら打つ手ないんだろ?」
俺は無言でうなづき、羆に静かに接近することにした。無論迂闊に近づくと、羆の主食が増えるだけという悲惨な結果になる。俺は羆のうん◯になるだろう。やめろ。
「一気に攻めるしかねぇが、立ってくれないかな」
『わざと怒らせるとかどうだ?』
「勘弁しろよ、あの丸太みたいな腕についてる爪でぼろ雑巾かなんかにされるのがおちだ」
『それならな』
「ふんふん」
俺は魔剣と相談しているのだが、警官たちには一人で何か言ってるようにしか見えないので、俺は頭が可哀想な人だと思われているのだろう。でも相談はしないといい知恵は出ない。
「よし。その手で行くか」
『行くぞ……剣禅一如……』
「星辰一刀流……零縮」
羆の目の前を横切るように飛ぶ。飛んだ上で木の枝に飛び移る。
「おおおお!?」
「に、人間かよ!?」
警官たちが騒いでいるが、ここからが本番だ。
「おい、糞羆!こちらを見ろぉ!」
羆を大声で怒鳴りつけると、羆がこちらを警戒しつつ立ち上がる。片目ができもののようなもので潰れてやがるが、そこから何か蠢くものが出てきているのに気づいた。
「何だあれは」
『わからないが、どちらにしてもやることは一つだ』
「わかった」
『……形態変化……同田貫……』
「星辰一刀流!奈落っ!」
俺は羆の頭に全力で一撃を叩き込んだ。そう、奈落の一撃は扉をへし斬り、邪神をもそのまま斬り捨てられた一撃だ。なのにだ!
一撃を喰らった羆は確かに頭を押さえて狂ったように暴れまわっている。しかし羆はまだぴんぴんしてやがる!なんて生命力だ!これが野生か!
「奈落でも倒せないのかよ!」
『しかしあいつは悶絶してるぞ!今のうちにとどめをさせ!』
「魔剣」
『なんだ」
「熊殺しの剣の形態ってないのか?」
『……そんなものは、ない』
知ってたよど畜生!熊殺しの剣なんて伝説があったら確実に伝わってるわい後世に!魔剣が何かに変容していく。
『……形態変化……童子斬安綱!!』
「これは……」
『あの土蜘蛛を斬った刀だ。これで斬れないならもう思い浮かばん何も』
「やるだけやってみるか」
まだ悶絶している羆の胴体を狙う。こうなったら最大の一撃、それしかない。飛び込みながら放つのは最大最強の技。
『……剣禅……一如……』
「星辰一刀流……奥義!」
「『無神喪閃!』」
羆の腹の左側を大きく斬り払う。大量の血が出ているのがわかる。動脈を切れたな。しばらく羆は暴れまわっていたが、やがて、転がりながら力尽きた。
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