第参拾弐話


 いくらモテまくるといっても世界が終わったんじゃ意味ないだろ。そう思わない人もいるかもしれないが、俺はそう思う。八木にもう少し聞いてみよう。


「まぁそれはいい。むしろ気になるのは本当にそんなことが起きるのかどうかだ」

「少なくとも、邪神の眷属がこうやって帝都で暴れたりなんて以前はなかったでしょ?」


 それはそうだな。本当に起きていることは否定できない。騒動については各国が抑えているというのもあるが、あの邪神の眷属、現れたと思ったらどこへともなく消えてしまったので、騒ぎが大きくならないところがある。まるで空間にでも飲み込まれたかのように。あとで知った話だが、邪神の眷属のそれぞれは、星御門邸同様いなくなってしまったようだ。


「あれだけのことが起きてこうも日常を繰り返しているって、ちょっと怖いです」

「霧島さん。多くの人は見て見ぬふりしているだけかもしれません」


 五條のいうことにも一理あるかもしれない。駝鳥だちょうだったか?首を砂に埋めて現実逃避するのは(註:実際にはしません。首を非常に低く下げて地面の振動を探るための行為だといわれています)。


「どっちにしてもね、何も起きないなんてことはないわ」

「困りますね……再就職先とか」

「あんたの場合は世界が無茶苦茶になるならない以前の問題よ!車塚!!」


 本当にその通りだとしかいえねぇ。あれだけ暴走してクビだけで済んでよかったな!



 さて、横浜に戻って車塚が退職の手続きしている間に、俺たちは星御門が予約している洋食屋を目指した。洋食屋というのは日本人がやってるものなのか。


「さて何を食べるとするかな」

「ご予約ですか?」

「星御門の名前で入っていないか?」

「あぁ。星御門様の……こちらへどうぞ」


 なんだかちょっといい席に通された。部屋広いなここは。全体的に白っぽい。椅子もふかふかしてやがる。結構な人気店なのか、店は満員だ。


「メニューはこちらとなっています」

「私オムライスっての食べてみたいです!」

「それではわたしも」

「お子様ねぇ……」


 オムライスってお子様なのか。そういわれると他のものにしたくなるな。といってもそう思いつくものは……ん?カレー、か。なになに


「ミックスフライカレー……また贅沢な……よしこれにするか」

「がっつりいくのね。私はボロネーゼとクラムチャウダーと……」


 なんだそれ?くらむ……洋食屋には未知の食べ物がたくさんある。注文の品が来るまで再びだべることにする。霧島さんが八木に聞いている。


「八木さんは欧米に詳しいようなんですが、どうしてたんです?」

「最近まで父と一緒に英吉利イギリスまで行ってたわね」

「あんたの親も信奉者だとか?」

「……それが、なんか信奉者に『お前こっちくんな』って露骨に嫌われて……」

「お、おう……」


 信奉者が嫌うってどういう状況なんだろうか。


『まぁお前も確実に嫌われてるぞ無明』

「好かれてたら逆に怖いわ」

「八木さんは英吉利では何してたんですか?」

「勉強とかね。生物の研究者に色々教えてもらったりして面白かったわ。なんか色目使ってきたヤツもいたけど……あいつ絶対将来子供たくさん作りそう……8人くらい……」

「お、おう……」


 生物ね。邪神の眷属とか、あれ生物なんだろうか。単純に生物だ、と断言できないところがあるが。


「八木、ちょっと聞きたいんだけど」

「なに?」

「邪神とか邪神の眷属ってだと思うか?」

「さぁね。でもこうも言えるわ。

「生きてるし生物なんじゃないですか?」


 五條が水を飲みながら呟く。八木が呆れたような風に返す。


「そうね。その意味ではね」

「違うんですか?」

「違うかちがわないかでいうと、違うとこもあるでしょ?人間以外が船とか自動車とかビルとか剣とか作ったりする?」

「それは……」

「生物にも電気を身体で起こすやついるわ。でも人間は機械で電気を起こす。毒を作る生物もいるけど人間程は多様じゃない。なにが違うと思う?」

「頭の良さですか?」


 霧島さんが頬杖をつきながら答える。


「頭の良さの定義次第だけどね。人間が作り出したのは物理的な物だけじゃないわ。ギリシャの哲学者プラトンが提唱した『イデア』とかそうだけど、概念を作り出せたことかもね」

「なんだか頭が痛くなってきました」

「五條はもっと勉強したら?ともかく邪神って言われてる存在や旧支配者、にも人類の持っていないそういったがある、と考えてもいいのかもしれないわね」

「あ、遅くなりましたー。ここのお店ハンバーガー無いんですか?」


 車塚がやってきたようだ。ハンバーガー?


「……車塚あんたハンバーガー好きなの?」

「亜米利加の国民食みたいなものですよね?」

「はぁ……そんなんだから無駄に亜米利加人みたいな駄肉を胸に付けてんのね……」

『駄肉とかいうなよ』


 辛辣だな八木。でも確かに普通日本でハンバーガーとかいうやつ食べるってやつそんなにいないと思うんだがな。あと駄肉は言い過ぎなんじゃ。


「寺前様見過ぎです!」

「そうです!そんないやらしい目で見てはいけません!」


 霧島さんも五條も容赦ないな。仕方ないだろそこに胸があったら見たくなるだろ。霧島さんもそこそこありそうだけどな。


「……まぁ、ちょ、ちょっとくらいならわたしのなら見ても……」

「霧島さん、抜け駆けはよくないです」

「やれやれね」


 姦しいというのはこのことか(当社比1.3倍)。注文の品もきたから食べようぜもう。車塚はハンバーグとパンにしたらしい。オムライスちょっと霧島さんに食べさせてもらったら、五條の目がちょっと怖かった。なんなのか。



 食後にパフェなるものを四人とも注文して、大量のクリームと果物が入ってたのを見てこんなの食べ切れるのかと思ったら全員完食しやがった。太るぞ。そして俺が今日もっとも驚愕したのは支払いの時だ。


「二円……超えるの!?」

「仕方ないでしょこれだけ飲み食いしたら普通よ」

「あぁ……なんてことだ……」


 俺は崩れ落ちた。支払い?やったよ。全員分くらい出したところでどってことないさ。二円くらい払ったところでな!ヤケ起こしてるかって?起こしてるよ!

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