第参拾話
邪神と人間の関係について星御門と八木から説明を受けているが、邪神によって人類が絶滅するとかしないとかまた随分と壮大なお話になって若干ついていけていない。しかもそのくせ、お前のような邪神と対抗できる人間は昔からいたとなってくると、俺ってなんなの人間じゃないのくらいには思ってしまう。
「俺がそんな怪物だってのいまいち自覚できないが、そんな怪物だらけのところでよく生きてたな人類」
思わず俺がそうぼやくと、八木が妙なことを言い出した。
「寺前、あんた恐竜って知ってる?」
「ん?大昔にいたってわかってきたくそでっかい蜥蜴だろ?」
「そう。そいつらにわたしたちのご先祖たちは食われたりしてたんだって。毎日おびえながら暮らしていた。……でもそいつらはみんな滅んだ。原因はわかってないけどね。それでもわたしたちの先祖は生き残って、いまこうして生きている」
トーラスがものすごく不機嫌な顔をしてるが、神父としては荒唐無稽なことを言われるのは不快この上ないのかもしれない。
「トーラス、大丈夫か?」
「え、ええ。ダイジョウブでーす」
「そうなの?あんたたちも大変ね。そりゃ認めたくないでしょうけど、恐竜も……邪神も」
「いいえMiss?Misses?ヤギ。恐竜はトモカク、デーモンは存在を認めざるをエマせんから」
「ミスよ。そんなに老けてる?」
「ニホンジンはみんな若くミエますからよくワカリません」
恐竜の方は骨残ってるだろが、と俺は突っ込みたかったが我慢した。そんなことよりもだ。星御門に聞きたかったのはそんなことじゃない。
「それにしたって戦艦の大砲でここ吹き飛ばすってのは何だったんだよ」
「敵に奪われるくらいならいっそ消滅させる、それも徹底的に、というのが国の方針ですね。死人が出るのも想定済みです」
「……だからって大砲で吹っ飛ばされたんじゃ、俺たち後も残らないんじゃね?」
工藤の言うとおりだ。なんだって大砲なんだよ大砲。死ぬじゃん。星御門が続ける。
「現時点ではほぼ人類最強の武器ですからね、戦艦の大砲は。海のないところは別として数十キロメートルの海上から1トンにも及ぶ砲弾を投射する。人間で防げる者は皆無でしょう」
「邪神相手ではどうなんだ?」
「そうですね。本体に出てこられるようなことがあればさしもの戦艦砲も……。ですが、眷属や信奉者にはどうでしょう」
「どうでしょう、って無理ね。攻撃されるとわかっているならともかく、そんなことを仕掛けてくるとわからなかったら、そのまま死ぬわね」
八木の言う通り多分信奉者も眷属も死ぬだろうし、もちろん俺たちも死ぬ。いくら星辰一刀流の技を使えるとはいえ、大砲の砲撃を意識の外から防げるとは思えないし、逃げるのも困難だろう。
「政府もそんなことよく了承してるな」
「せざるを得ないのが現状ですね。ここ数年で急速に邪神がらみの問題が増加していますし、信奉者たちは国家、いや世界転覆を企む国際犯罪者です」
「ソウでーす。表立っては活動デキていませんが、世界中が対応にコマっています」
「そうだろうな……」
困るには困るだろうな、そこら中を怪物がのさばっている状況、どこのだれだって何とかしてほしいだろうし。
「八木たちは何か知ってないのか?」
「大したことは教えてもらえないわよ、下っ端なんだから。せいぜいこの世が人間にとって地獄で邪神たちとって住みよい世界になるってことだけよ。それがもうすぐ来るって」
「おかしいですね」
星御門が小首をかしげる。霧島さんが星御門をのぞき込む。
「おかしいって、何がですか星御門さん」
「それは変なんですよ……ありえない……。八木さん、もうすぐってどのくらいって聞いていますか」
「そうね、確か来年とか言っていたわ」
「来年!?馬鹿な!!」
そういうが早いか星御門が大量の本を持ってきた。そして計算を始め、何かを猛烈に書き始める。一同唖然としてそれを見ているしかなかった。
「グレゴリオ暦からの逆算……いやマヤ暦から……行ってから……オルメクの遺跡……星辰の位置……違う!やはりあり得ない!」
「星御門、何があり得ないんだ」
「計算上星辰の位置が……いや、まさか!これは……」
「おい、星御門!」
「あぁ、失礼しました。おかしいのです。私はトーラスから聞いたことがどうにも納得できなくて……かつて陰陽師は、太陽暦に比べ不正確な暦しか作ることができず、そのせいで力を失っていきました。私は太陽暦、星辰、科学、そういったすべてを学び正確な暦を作ろうと思っていました。その際にたどり着いたのが、クトゥルーです」
どういうことだ!?
「クトゥルーの復活が、古代の文献に記されているのですが、それは星辰、つまり星と惑星の位置が適切であることが第一義のはずでした。来年、比較的にそれに近い状況は発生するのですが、完全に一致しているとはいえない。本来であれば復活などあり得ない状況です」
「デモ実際、あちこちでジケンはおきてますよ星御門」
「その通りですトーラス。何らかの理由で復活を補助する何かを信奉者たちがやっているのかもしれません」
一同黙ってしまった。しばらく誰も口を開かなかったが、やがて霧島さんがつぶやいた。
「……本来であれば復活しないってことは、もし復活してしまったら……クトゥルーも嫌なんじゃないですか?」
「「「え?」」」
「だってそうじゃないですか。まだ寝てたいときに無理やり起こされたらどう思います?腹立たしくないですか?」
「それはそうね……」
八木も同意しているが俺も全く同意だ。寝ていたいときに寝れないっていやだぞ。トーラスと星御門が苦笑している。
「霧島さんはお優しい方だ……。そもそもクトゥルーの寝ているところは彼?彼女?にとって寝やすいところではないともいいますが、それでも急に起こされるのは嫌でしょうね」
「ならどうするんだよ星御門。クトゥルーのところに行って起こそうとするやつから目覚まし時計取り上げるか?」
「とりあえずそれはそのつもりですよ、各国」
目覚まし時計とは言ったが何をやらかすつもりなんだろうか、信奉者たちは。
「それで、これからどうする?」
「そうですね。私はこれからあるお方とお話しすることになると思います。皆様はくつろいでいてください。……お二人は、どうされます?どちらにつきます?」
星御門が八木と工藤を見つめる。表情が読めない。
「……いいわ。戻ったって殺されるか儀式の餌になるでしょうしね。あんたたちにつくわ星御門」
「へっへっ」
八木はそれでいいとして、ティンダロスの猟犬、お前……。八木がこっちにつくといったとたん、星御門のほうを見て尻尾を振りだした。酷くね?
「ティンダロスもこっちにつくのですか?」
「わん!」
「……酷く頭を打ったようですね……」
「でもこうなつくと可愛いですね、星御門さん」
そうか?霧島さんの視点もおかしい。なんかいろいろ酷い。猟犬、早く治すんだぞ、……頭の中身とか。
「俺は別にどっちでもいいぜ、闘えればな!」
「……そういうこといいだすから工藤は豚箱行きでいいんじゃないか、弱いし」
「そうなんですか……ちっ」
「えっ」
星御門が小声で舌打ちしていたのを俺は聞き逃さなかった。使えるものは藁でも使いたいが、工藤、お前は駄目だ。
「そうです、寺前様、戻られたところで申し訳ないのですが、近々函館に向かってもらう必要があるかもしれません」
「函館?」
『蝦夷だと!?
黙ってろ駄剣。仮に羆と闘う必要が沸いても斬りたくはない。
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