第弐拾漆話
星御門邸が邪神の眷属に取り囲まれている状況で、突然空飛ぶバスがやってきて眷属を斬りつけつつ踏みつぶした。言ってて意味が分からないだろ?俺もだよ。取り込んでいる邪神の眷属と、それを操っているのかはたまたそいつと融合しているのかはわからんが、とにかく信奉者たちがいるのは確かだ。……もっとも空飛ぶバスと星辰一刀流の剣技のせいで、何が起こったのかわからず混乱しているようにも見えるが。
この混乱に乗じて眷属を一掃するためには……。
「て、寺門様?」
「星御門、ちょっと待ってくれ。神戸での話はこいつらを一掃してからにする」
「一掃……これだけの数の偉業を!?」
「二十はいますよ!大丈夫なんですか!?」
「霧島さんにも話すよ。ほんっとうに大変だったんだからな!」
「きちんと話してもらいますよ!……なんかまた女の子が増えてませんか?」
空気がひんやりとしてきた。なんで俺嫉妬されているんだ?車塚、エンジンを再起動しているんだけど……何するつもりなんだよ何を。
「お、おい、この上まだ車動かすのか!?」
「え?ここ捨てて脱出するんですよね!?」
「……お嬢さん、残念ながらここは帝都の結界の要の一つなのです。ここを失うわけにはまいりません」
星御門の発言からすると……ここは捨てられないということになるのか。最悪帝都ごと捨てるのであればそれもいいのかもしれないが、踏ん張れる限りは踏ん張る必要があるだろう。
「それに、最悪の場合、私たちが抑えているうちに16インチの砲弾でこの屋敷ごと吹き飛ばす覚悟はあります」
「16インチ!?それって……長門か!?」
「いやああああぁ!戦艦の大砲で吹っ飛ぶのぉ!?」
また八木も絶叫しているが、よりによって邪神の眷属に戦艦砲ぶちこむつもりかよ!!そら1トンの砲弾喰らったらそこらの怪物では持ちこたえられると思えない。砲弾に俺たちが持ちこたえられるとも思えないけどな!
「吹っ飛ぶのは嫌だから全部始末するしかないな」
『我も持ちこたえられると思えん、そんなもん』
「魔剣、こういう時はあれだろあれ」
『またか。いや、でもここはそれもありか。剣禅一如……星辰一刀……』
魔剣に何かが集まっていく感覚を覚える。また体力が持っていかれる。なんでこう俺はいつも連戦しているんだ?眷属が屋敷に再び近寄ってくる。
「『 刀 魂 現 界 !!』」
無数の刀を顕現させ、俺は魔剣ともう一本の刀を振る。五條がものすごい勢いで目を輝かせながら俺に走り寄ってきた。よだれもちょっと垂れてない?
「寺門様、これ全部使っていいんですか!?ど、どれも名刀だらけじゃないですか!?」
「どんどん使っていいぞ!」
「やった!!」
子供のように喜んだ五條は、近くにあった刀を掴んで眷属に斬りかかる。
「星辰一刀流!羅刹ぅ!」
斬撃とともに眷属が立て続けに
「いきなり奥義行くぞ!」
『無理してぶっ倒れるなよ』
「ならあとは五條にでも任せるさ」
『それは無責任じゃないかと思うんだが』
「いいからどんどん行く
『わかったわかった……剣禅一如……』
俺にも七匹の眷属が泡立つ闇の向こうから身体を振り乱して襲い掛かってくる。不思議と恐怖心はわかない。もう少しで到達できそうだ。……何にだ?
「星辰一刀流……零縮……」
刀を握り、眷属の近くに出現し、奥義の斬撃を繰り出すため構える。
「『 無 神 喪 閃 』……七連!!」
一太刀に無数の斬撃を乗せ、高速移動を繰り返す。眷属の出現する闇ごと斬り払われ、空間がもとにもどってゆく。訓練は無駄にはなっていないのを感じる。
「すごい……」
「これが、星辰一刀流の奥義ですか……」
「目で追いかけるのがやっとです」
「霧島様、目で追いかけられるんですかあれを!?」
霧島さんもなかなかすごいな。星御門が驚いている。五條が俺の技をなんとか真似しようとしているようだ。奥義だから魔剣なしで再現は難しいのではないだろうか。
「……星辰一刀流……無神……喪閃っ!!……ちがう……」
斬撃は一太刀、かに思えた。次の瞬間。眷属が複数の斬撃に見舞われる。五條の持っていた刀魂はその一撃と引き換えに消滅してゆく。
「……できた!?」
『我の刀魂現界にて顕現した刀だからな。なるほど……』
「で、できました!寺前様!」
「よし!どんどん行くぞ!」
そうやって邪神の眷属を叩き斬り続けること数分、思った以上に早く眷属は片付いた。だが。帽子をかぶった洋装の一人の男が、屋敷の庭から拍手をしながら現れた。
口元は笑っているが目は笑っていない。
「……邪神を倒す官憲の狗、というのはあなたでしたか。なかなかのお点前ですね」
「官憲の狗か。そうともいわれるな」
「申し遅れましたが、私は犬神と申します」
「そっちも犬かよ」
「いかにも。眷属をこうも簡単に始末されるのはおみごとでございますが、ここからは私がお相手をしたいと思います」
犬神が何かを胸元から取り出した。先のとがった角錐のような不思議な物体である。ん?何も見えない?
「私の放った猟犬は、時空を歪めるあなたを必ず仕留めます」
「どういうことだ?」
「その移動技、まさに猟犬の領域を移動する技。つまり、次にその時間を超越する移動を行うと、あなたは終わりです」
零縮のことか?時空を歪めるとか言っているが……そうなんだっけ?
「なぁ魔剣」
『なんだ?』
「零縮って、時間を歪めて移動するのか?時空を歪めるのとは違うのか?」
『歪めるといえば歪めるが、物体が存在するだけでも歪むからな時空』
「あれ?とすると」
『そいつの言ってるような時間移動はしないぞ』
どういうことかよくわからんな。そういうから、攻めてくるのかと思ったら攻めてこない。
「……何故!?」
「お前が言ってることが間違ってるんじゃないか?……星辰一刀流……」
「くっ!ならば!現界させればいいだけのこと!鋭角より出でよ!」
「零縮」
犬のような、コウモリの羽根を持つようなそいつが、面食らった顔で俺を見ている。正面衝突してごちんと頭をぶつけたような格好だ。頭にこぶもできている?
「りょ、猟犬が何故!?」
「なんかぶつかったような感じがしたが……なんだこれ?」
「……ティンダロスの猟犬は鋭角より出ずるといいます。零縮で時間軸の移動が発生しない空間が歪んだ結果、鋭角として機能しなかったのか……非ユークリッド幾何学の世界は物理世界にも適用される事例ですね」
星御門の解説が全然理解できない。どういうことか日本語に直してほしい。
『なるほど、本来時空の歪みと空間の歪みは相関するものだ。しかし空間の歪みのみが引き起こされた場合、時間の歪みを感知する猟犬はそれを対象とできない』
「ひ、卑怯な手を使う!」
「使ったつもりはなかったのだが……なんか悪かった」
犬神と猟犬は、すごく嫌そうな顔で俺を見ていた。悪い、犬たち。まさか俺も、この技がこういう影響引き起こすって知らなかったんだ。不慮の事故なんでおとなしくやられてほしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます