第弐拾伍話
全裸になって何が悪い(とは言っていない)猥褻物陳列罪女を縛り上げて逮捕できた。こう書くと大したことがないようだが、本気で死ぬかと思っていた。あれは人間の放つ気配ではない。五條も真っ青になっていたしな。八木が能力で昂るのを嫌がっていなかったら、下手したら死んでいたかもしれない。工藤も八木も縛り上げてはいるが、さてこれからどうしたものか。気になっていることがある。
「五條さん、魔剣、なんでこいつら俺たちを襲ってきたんだ?」
「さぁ……わからないです」
『足止め、みたいなことをいっていなかったか?』
「そういえばそんなこと言っていたような……そうでないような……」
どっちかというと遊んでやる、みたいなことは言われた記憶がある。遊んでやると言われたにしては、物騒な遊び方しかどっちもしなかったけどな。もっとこう違う遊びがしたかった。とりあえずそろそろ工藤を起こすか。八木の方にも話を聞いておいた方がいいとは思うけど。工藤のケツを魔剣でつつく。
『おいばかやめろ』
と魔剣に言われるけどそろそろ起きて欲しい。魔剣はケツを刺したのが不快なのか何だか震えている。
「いてっ!」
「起きたか工藤」
「な!何しやがる!」
「警察殴っといてそんなもんで済んで上等だろ。ところでお前らさ」
「なんだよ」
「なんで俺、いや俺たち襲った?」
工藤の顔色が若干ではあるが曇る。鎌をかけてみるか。
「それは、そら力試しにだな」
「……嘘だな。八木に比べたら遥かに劣る力しかないお前が、力試しもくそもあるまい」
「お前が異常に強いんだよ!」
「俺、そんな強くないぞ。五條さんには毎日半殺しにされてるし、素振りも五千本半刻でできないし」
俺は五條を指差しながらぼやく。五條は『人を
「素振り五千……お前ら人間か?」
「人間だが。お前らみたいに邪神の力借りよう、ってのが間違ってるんだろうが」
「代々木の野郎……脆弱な人間だからほどほどにな、とか言ってたのはなんだったんだ……」
「だいたいここで一番弱いのおまえだからな」
「は?」
工藤が若干不機嫌な顔で俺を睨みつける。そんな顔しても結果は変わらないからな。
「一番強いのは全裸の昂った八木、んで次に剣持ち俺。服着た八木は剣持ち俺よりは弱いが、五條さんといい勝負ってとこか」
「お、おい、俺は?」
「この剣を持たない場合の俺は、五條さんには絶対勝てないという超えられない壁がある。それから、おまえはその俺より弱い。わかったか?」
俺は魔剣を握って見せながら答える。視覚化するとこうなる。
八木(全裸)>魔剣持ち俺>八木(着衣)≧五條>>>(超えられない壁)>>>俺(魔剣なし)>工藤
地面に書いて説明する。工藤は半泣きになっているが、認めて欲しい。まともに戦った場合の全裸の八木は、おそらく日比谷よりも強かったと思う(五條もいたから何とかなった)。まともに戦わなくて済んで助かった。また全身の骨が折れるかと思うとぞっとする。その八木もそろそろ起きないだろうか。
「代々木はお前が襲撃したこと知ってるのか?」
「はぁ……嫌な奴の名前出すなよ」
「嫌な奴?」
「そりゃそうだろ。あいつ、
「革命って、あれか?共産党か?」
日本と戦争なんぞしたせいもあるだろうが、
「それがどうも、共産党とかそういう意味ではないらしい。俺みたいな下っ端にはよくわからんが、やっこさんには崇高な目標とやらがあるんだろ?」
「崇高な目標、ねぇ……」
神に近づくとか崇高な目標とか世界の革命とか、夢みたいなことばっかり言ってやがる。現実を見ろ現実を。共産党が露西亜、今はソビエトだったか?でうまくいってるとしたら、それは理想がうまくいってたんじゃなくてその前が駄目すぎだったって落ちはないよな?
「んで崇高な目標のために代々木は何がしたいんだ?」
「世界の力の流れを変えるとか何とか言ってたぞ。そのために危険な存在を排除するとか……全く意味わからん」
「排除って何をだ?」
何かわからんが嫌な予感がこう、ぷんぷんする。
「二つあるって言ってたな。一つは兵器が危ないとかなんとか。軍艦をやたら気にしてたなあいつ」
「軍艦ねぇ……邪神が軍艦ごときをなんで恐れるんだか」
「軍艦そのものはまぁ大したことはないだろうな。問題は軍艦が本気になって降らせる砲弾だ。1トンはある砲弾は、島の地形すら変えられるんだろ?」
「地形を変えるとなんかまずいのか?」
「うんにゃよくわからん。俺には教える気ないらしい」
こんだけべらべらしゃべる奴には教えられんだろうな。工藤が続ける。
「もう一つは陰陽方とか教会とかだったか?文明開化もはるか昔なのに、時代遅れのそんな連中をわざわざ排除しに行こうってのもようわからん」
「陰陽方!?」
星御門たちが狙われてるってことか!?こんなところでのんびりしてられないぞ畜生!
「列車は使えない……あれもお前らか!?」
「代々木はよくわからんがお前のことを気にしてたな。我々に匹敵するものとか言ってたが……だから陰陽方のところにやるわけにいかないから足止めしてろってよ」
「そんなにべらべらしゃべって大丈夫なのか」
「大体よぉ、あいつ俺に人間を超えた力くれるって言ってたくせにこれだぞ。その程度の力しかよこさなくて話聞いてられっかっての。何が革命だ。人間にも勝てない程度の力で世界滅んだ後どうすんだよ」
いやそれは単にお前が弱くて阿呆なだけだろって気もしてきたが、それを言うほど俺は人間を捨ててない。
「にしたって代々木って奴人望なさすぎだろ」
「人望とかいらないんじゃねぇの?人間を超えるらしいしよ」
「それにしても、東京までもどる足が……あるか……あるが……」
「寺前様、急がないと!」
「わかってる五條さん!わかってるけど俺運転できねぇんだ!!」
そう、運転できる者がいない。運転手さんも額切って意識がないし。そう思っているもと、何かを決意したかのように、車掌さんが静かに手を上げた。
「わたし、普通の車なら運転できます!」
「そうなの!?バスはできるか!?」
「やってみます!」
「頼む!!」
五條が不安そうな顔をしているが、背に腹は変えられない。……ちょっとだけ車掌さんが楽しそうな気がしたのは気のせいだと思う。そう思いたい。
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