第弐拾参話



 蛮カラ小説を読んでたからというわけでもなかろうが、番カラ信奉者と喧嘩する羽目になってしまった。燃え上がる炎のように、煌めく触手のようなものが奴を取り囲んでいる。触手でぶん殴ってきやがるから、こちらも魔剣でぶった斬る。次から次へと触手をぶった斬り続けていると、左の頬を豪快にぶん殴られた。その程度で倒れるかってんだなめんな!


「やるじゃねぇか!」

「そっちも触手しか使わねえかと思ってたがな!」


 頭がぐらぐらするが、魔剣のおかげで一応立ってられるというものだ。脳震とう起こしているのかもしれないが。こっちも黙ってやられるつもりはない。


「魔剣!」

『人間の拳か!?あんなの何度も喰らったら倒れかねん!』

「それならさっさと片付けるぞ」

『応。……形態変化……同田貫』


 魔剣が、分厚い刀に変化した。これくらいでないとあの触手を防げる気がしない。何しろ巨大な槌のような触手が俺に振り下ろされてきているのだ。頭が西瓜すいかのように割れるところしか想像できない。何とかかわす。


「逃げ回ってんじゃねぇぞ!」

「うっせぇ頭かち割る気で振り回してる奴に言われたくねぇ!」

「だったらこっちだ!おらおらどしたどしたどしたぁ!」


 剛の触手だけではなく、素早い対応も可能なのか。こうなると剛の剣の同田貫だと不利じゃないか。こうなったら。


「魔剣!もう一度変化しろ!」

『無茶を言う!だがそうもいってられんな!……形態変化!燈台斬光忠!』


 今度は軽量だが鋭い剣へと姿を変えていく。素早く振り回される触手を片っ端からきりおとしていく。


「くっそ、包丁かなんかで烏賊足げそ斬るように斬るんじゃねぇ!」

「それなら突っついてくるのやめりゃいいだろ!」

「じゃあそうさせてもらうぞ!」


 また太いほうの触手じゃねぇか!いい加減にしろ!光忠じゃ持たないんじゃないか!?


「魔剣!」

『ああもうしつこいやつだ!……形態変化!!同田貫!!』

「そのまま一気にぶった斬るぞ!……剣禅一如……星辰一刀流……」

「ぺしゃんこに潰れろぉ!おまわりぃ!!」


 工藤が絶叫とともに巨木のような触手を振り下ろしてくる。そっちが潰す気ならこっちは最大の力で振り下ろして叩き斬ってやるわ、その触手をな!


「……奈落!!」

「んな!?なにいいいいいぃ!?」


 巨木のような大きさの触手を斬りはらい、あとは工藤本体だ。突然、工藤が笑い出した。


「ははっ、お前おもしろいやつだなおまわりぃ!でもお前は、その刀ないと何もできねぇんだろ?」

「それがどうした?その手には乗らんぞ?」

「つまんねぇこと言ってねぇで、こいつでやろうぜ!」


 工藤は拳を握って見せる。なんで拳闘を始めないといけないんだ、しかも蛮カラと。それなのに、俺は魔剣をその場に刺した。


『おい、相手の手に乗るな!』

「いいじゃねぇかいい加減飽き飽きしてたんだ!国家権力の暴力舐めるなよ!」

「いいねいいねいいねぇ!早速やろうぜ!!」


 思いに反して俺は拳で殴りかかってくる工藤にむかって、渾身の拳を突き出す。相打ち気味に双方の顔面に拳が突き刺さる。馬鹿だろ俺たちは。


「ってぇ!おまわりの分際で何重たい拳ぶちこんでくれてるんだよ!」

「うっせぇ!お前に言われたかねぇよ蛮カラが!!」

「蛮カラってなんだよ蛮カラって!?」


 今度は相手は素早い突きを繰り返してきたので、こっちも素早く応対する。そんな軽い拳で俺を倒せると思うな、という思いが突きあがってくる……おかしいぞこれ!?拳を平手で受け流しながら、隙を見て渾身の拳を工藤の鼻っ柱に叩き込む。もんどりうって倒れる工藤。その瞬間に俺は魔剣を掴む。


『お前馬鹿なのか!?相手に乗ってどうすんだよ!』

「魔剣まずいぞ、こいつと闘うのは!」

『お前とあいつが馬鹿やっているだけにしか思えないんだが』

「違う!そうじゃない!馬鹿なことやらされているんだ!」

『!!!』


 魔剣で斬った際の触手の飛沫しぶきを浴びたせいなのか?そもそも論だが、蛮カラ自体からはそこまでの強さを感じない。なにしろ俺程度の訓練を受けた奴に転がされている程度には弱い。だが、触手の方は違う。異常な程の力を感じる。工藤が足を引っ張っているな……工藤も何かに汚染されているのか?


「まずいだろ」

『精神汚染系の攻撃か……』

「しかも攻撃をすればするほど、闘いたいという意思が増していくのが怖い」

『ひょっとして、こいつは……無明、奴は殺すな』

「どういうことだ?」

『接触感染型の精神汚染攻撃、この狙いはおそらくお前自身だ』

「!!!」


 おい、代々木の野郎俺に体預けておくって言ったくせにこれかよ!部下の管理できてねぇ!!


「どうする」

『こいつ自体は雑魚だが、厄介だな……殺した瞬間おそらくこいつに取りついている奴に取り込まれる』

「……ならこうするしかねぇな」


 俺はベルトから冷たい鉄の輪を取り出した。のびている工藤の腕に鉄の輪をはめる。暴行の現行犯だし当然の対応といえる。顔が痛い。同じような顔になっている工藤もいたそうだが意識がないからマシだな。


『ちぎられるかもしれんぞ』

「星御門に対策してもらえないか相談しよう」

『これ連れて歩くのか?』

「牢に入れても脱走されるのがおちだぞ」

『むぅ』


 近くに古びた台車がある。そいつの持ち主に金を握らせ、台車を手に入れる。俺は工藤を台車に乗せて歩き始めた。まだ暢気に伸びてやがる。いい夢見ろよ。


 バスのあたりに戻ってみる。


 ……バスの前に、奇妙なものが置いてあった。女物の服が丁寧に畳んである。五條が冷や汗を流しながら相対しているのは、全裸の長髪に覆われた女。女の髪には乗客たちが取り込まれている。


「あら、やはり工藤は足止めできなかったの?」

「寺前様!こいつ!強いですっ!!」


 全裸の女は、卑猥な視線を俺に送って舌舐めずりしてやがる。俺は敢えて無視する。魔剣が震える。


『こいつは……こいつの力はさっきのやつの比じゃない!』

「……星辰一刀流……」

「工藤はなんでその荷車で転がって「零縮」いる……えっ?」


 俺は全裸の女にもベルトから取り出した鉄の輪をかけた。女は挙動不審になっている。


「な、何を突然!?そ、そういう趣味でも!?」

「公然猥褻罪の現行犯で、逮捕」

「えっ?えっ??」

「えぇー……」


 全裸の女が戸惑っているが、そんな卑猥な格好で公の場に出るんじゃない。そして五條も呆れたような表情で俺を見るんじゃない。俺は何も間違ってない。





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