第参話



 朝になって、警察署の人たちに朝飯を用意してもらった。

 普通の犯罪者にはこんなの出さないぞとと言われた。白い飯とみそ汁と漬物、そしてめざしまであるではないか。炊き立ての飯のいいにおいがする。


 ……口止め料らしい。


 そりゃそうだろうな、不祥事って次元ではないからな!大丈夫かここの警察!


 相変わらず豪快にぶった切られた鉄の檻。どうするんだよこれ。それはどうでもいい。おまわりさんたち頑張ってくれとしか言えない。結局直すのは税金でだけどな!


 めざしをかじりつつ、白い米を堪能する。うっまこれ。炊き立てか?白い米を噛み締めるたびに口の中に広がる、甘味と香り。箸が、止まらん。そしてこのめざしまた異常に旨いな。臭みがほとんどないのに旨味が濃い。なんだこれ?久しぶりにこういう飯食った気がする。


「ところでだ」

ふぁんれすかなんですか

「お前さんの身元がら、誰が保証すうけるんだ?」


 …ってんいねぇよそんなの。家族もいないし寺のじじぃもおっ死んじまっている。


「家族もいない……じじぃももう……」

「そうか。そもそもお前さん、なんでこんなところをうろうろと」


 魔剣に引かれて怪物斬りに来た、なんていっても説得力ないだろ。どうやって説明をだ。


「この刀なんですが、非常に危ないもので、こいつを安全なところに持っていくつもりだったんです」

『おい!!』

「確かに危険だったな」


 魔剣がなんかほざいてるが無視する。実際こんなのずっと持っていたら危険だ。といってもこいつをほいほい他のやつに渡すと、昨日みたいな惨事になるかもしれない。


「ふむ。でもどこに持っていくつもりだ」

「それなんですよ」


 この危険物を始末できる奴なんているのだろうか?いるなら非常にありがたいのだが。


「それは困ったものだな」

「対処できる人とか知りませんか?」


 警官も頭を抱える。知るわけないよな。

 そんなわけで身元保証人もないし、どうしたものかと昼までぼーっとしている。


 と、檻の近くに二人の男がやってきた。

 何かわからない言葉で話してやがる。お抱え外国人か?なぜ?一人は日本人だが、もう一人は白人のようだ。白人の男は何だか興奮している。


「こちらに、寺前無明さんはいらっしゃいますか」

「俺ですが」

「ユーですか!?ユーが!?デーモンを?」

「デーモン?」


 白人は興奮しながら言い回しが変な日本語でまくし立てている。デーモンって?聞いたことがないからなんともいえない。


「そちらは?」

「申し遅れマシタ。ワタシ、トーラスといいマス」


 トーラスは俺に手を差し出してきた。拒む理由もなく握手する。


「それで、トーラスさん……でいいですか?」

「ハイ」

「トーラスさん、デーモンってなんですか」

「……デーモン……ドコから説明するかムズかしいデス。恐ろしい存在デス」


 恐ろしい存在、ねぇ。


「ヤツらは、セカイのあちこちに姿を現し、我々をタベる……チョット違うのデスが……食べマス」

「確かに怖いですが、鮫や羆だって人間食べますよね」

「それはそうデスが。サメやクマはタマシイまで食べマセん」

「魂ねぇ。人は死んだらそれきりだと思ってましたが」


 トーラスはそれには反応せず、そのまま続ける。


「デーモンをこのセカイのドコかに復活させる、それを目的に活動しているワルいヤツらがいます。そのセイでセカイのあちこちにデーモンが現れています」

「んで、俺が斬ったあれもデーモンですか」

「……デーモンというとどちらかといえば悪魔となりますね。むしろ……申し遅れました。私は星御門と申します」

「どうも。それで、星御門さんとトーラスさんはなぜここに」


 嫌な予感しかしないんだよさっきから。何故かはわからないが。


「はい。こちらのトーラスさんは退魔神父エクソシストでして、私は陰陽方をやっております」

「あれ?陰陽方は、政府が非合理的だからやめるって言ってませんでしたか?」

「よくご存じで」


 寺のじじぃが新聞はよく読めと強制してきたせいで、そういう世の中のことに無駄に詳しいんだよ俺。


「だったら何故?」

「これは公式にはなっておりませんが、デーモン……私たちは敢えて『邪神』と呼んでおります。それが世界的に活動を開始し、あちこちで甚大な被害を発生させているのです。例えばアーカムで起きている事件などに関わっているといわれておりますが」

「アーカム?申し訳ない。さすがに知りません」

「アーカムはアメリカのマサチューセッツ州にある街デス。ここ数十年のアイダにサマザマなキミョウな事件が起きています」


 なんだか話が大きくなってきたな。しかし俺関係ないだろ。


「それと俺に何か関係があるのでしょうか」

「その邪神に関与する遺物が、日本に持ち込まれていたようなのです。邪神の一柱がそれに惹かれて出現しました。そのままではかなりの被害が発生したと思うのですが」

「ユーが!ユーが!!スラッシュ!!したのデスよね!デーモン!!」


 トーラスの勢いが異常だ。でーもんとやら斬ったけど確かに。大変だったぞ。


「シツレイしまシタ。トニカク、ユーがスラッシュ!してくれたおかげで誰もシナずに済みました」

「それはよかった」

「……実のところ我々では手も足も出なかったのです。それをあなたはあっさりと倒してしまいました」


 え?あれそこまで強いの?ちょっとさすがにそれはまずいんじゃないか?というよりこの魔剣どれだけ強いんだ?


「ニクタイはともかく、ソモソモデーモンと遭うとウンがよくてアタマがオカシくなり、ウンが悪いとタマシイごとクイつくされマス。ユーは……ツヨい」

「まぁあんなのとずっと触れてたら、そりゃ頭もおかしくなりますよね」

「いえ、そうではなく……どちらかといえばなんともないのがおかしいのですよ。これまでの事例から考えると」


 そりゃだって斬っただけだからな、魔剣が。俺は何もしていない。なんともないのがおかしいって、人をおかしな人扱いしないでほしい。


「そうですか」

「そこで、ユーにオネガイがありマス」


 来たぞ嫌な予感の正体。


「デーモンをこのセカイから「お断りします」」

「ナゼですか?」


 トーラスが哀しそうな目でこちらを見るが、そんな目したって駄目だ。


「それしたって何の得があるんですか俺に」

「デモデーモンのセイでたくさんのヒトが」

「そんなに強くなくても危ないじゃないですか、俺が」

「ムウ……確かにそうデスね」

「トーラス神父。ここは絡め手でいきましょう。寺前様」


 星御門がなんか言い出した。


「あなたは帯刀禁止令違反で捕まっています。私が身元を引き受けてもよろしいのですが、それには条件があります」

「お断りします」

「条件ぐらい聞いてください」

「あれですよね、サーモンだか邪神だかを斬れっていうんですよね?」


 まぁそうだろうな。そうでなければ俺は檻の中か。


「……弱くなったとはいえ星御門家は帝との接点を持っている」


 急に何を言い出すのやら。


「受けていただければ、帯刀禁止令があっても帯刀可能にします。それなりのお給料もお出しします」

「給料?」

「えぇ。国として寺前様を雇うことにいたします」

「いくらです」


 微々たるものなら乗る気はない。この流れでそれはなさそうだが。


「月に五十円出しましょう」

「!」


 警官たちがざわついている。今の警官の月の初任給を超えているからな。


「さらに邪神一体仕留めるごとに五十円出します」

「そんなに?」

「えぇ。それでも被害を考えれば安いものです」

「……乗った」

「オウ、素晴らシイデース!グッド!」


 こうして、俺は国家の犬となった。邪神とやらを斬って飯を食うために……なるべくさぼらせてもらう。命のやり取りなんてまっぴらごめんだが、うわべだけは合わせてやる。


 魔剣、折れなくなってしまった。邪神を全滅させたら、そのあと折る。

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