*あやかしの後悔 2


 数日後。社の周りにしかない桜の木が俺に知らせた。

 「また人間の娘が来ているよ」



 その時の俺は寝起きで、さらには機嫌が悪かった。だからだろうな。未だに止まない声に無性に苛ついて、感情の赴くままに、外に出た。



 人間に対して「無感情」以外の感情を抱くと厄介だ。それが「怒り」だと、相手をすぐにあやめてしまいそうで、余計に。

 俺は自分の感情が時々分からなくなるんだ。感情の操作が下手とも言える。今回もそうだった。怒りに任せて、動いてしまった。



 毎度のことながら、社の前で少女がぶつぶつと祈りを捧げている。その口を塞ごうと少女の首に手を伸ばしかけて、ふと、動作を止めた。少女の姿をしっかりと目に映す。

 少女の必死な声は枯れていた。弱々しく絞り出すような声だった。そして何より、俺が直接手を出さずとも、今にも死んでしまいそうな顔色だったのだ。そのおかげとは言いたくないが、俺は我に返った。


 桜の木が囁く。

「殺さないんだ?」


 俺は呟いた。

 「その理由がなくなった」


 限界を迎えたようで、少女は倒れた。

 さて、どうしたものか。

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