*妖の小旅

 夜。

 ぼくは眠い目をこすって起き上がった。葉っぱの布団は、小石の下で風に飛ばされないように耐えている。ぼくはふわ〜とあくびをしてから、もぞもぞと小石をよけ始めた。ぼくの手は小さいから、石を持つのも難しい。

 葉っぱの布団が、優しい風に運ばれたのを見送り、ぼくは出かける準備を開始した。



 かばんにタイマツ用の枝や食料の木の実などを詰めて、近くの水たまりで身だしなみを整える。あとは、動物や大きなあやかしに襲われないように装備を揃えるだけ。

 手持ちの武器を確認し、足りないものを探して、見つけたらかばんの中へ。


 「完璧だなっ!」


 無事に準備を終えて、道を歩き出した。

 廃村、と言えばそうなのだろうか。寂れているけど、ぼくにはとってもとっても大きな村だ。今、ぼくはそんな村の道を歩いている。

 鳥さんや猫さんや犬さんとはすれ違ったけど、人間さんは一人も外に出ていない。



 そう言えば人間さんは、夜はあまり活動しないのだっけ? 何でだろ。夜の方が暗くて落ち着くのに。不思議だなぁ。

 ああ、でも、灯りがないと何も見えない時はあるもんな。うん。きっと人間さんは暗闇が苦手なんだ。


 「♪〜♪〜♪」


 鼻唄をうたいながら、ぼくは前に進み続ける。日光が眩しく、熱くなるまで時間はた〜っぷり残されているし、まだ焦らなくていい。

 同志なかまの家はもっと先の山の中。鳥さんを通して送られてきた文の「遊びに来てくれよな!! 待ってるぜ!!!」という言葉に、何度、胸を躍らせたか。

 とても遠出だけど、道中の出来事は全部土産話だ。

 なんてことはない。



 何の話を始めにしよう。鳥さんがぼくを乗せてくれたこと? それとも、美味しい木の実を見つけたこと? 大きなあやかしに追われたことも印象的だ。一つ前の村で見た朝日の光が、すごくキラキラしていたことも話したい!

 わくわくする気持ちが留め時を知らずにあふれていくばかり。




 月と星が瞬くその下で、自然のさえずりとぼくの鼻唄だけが沈黙を和らげていた。

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